イベリ王国戦 8 アンジュの魔法
今回説明で、話があまり進んでません
アンジュさんが雪魔法を行使してからというもの、目の前に広がる町の外景色が一気に変わった。町には時折ちらつく程度の雪だが、少し外にはずれると一寸先も見えないほど猛烈な吹雪が吹き荒れている。さらに吹雪とそうでないところとの境目に見る見る間に雪が積もり、町の外にさらにもう1つ壁ができたようになった。
「すごい……すごいよアンジュさん!雪魔法ってこんなに強いものなんだ!」
一瞬で状況を覆してしまう魔法の存在に思わず興奮してしまう。だが、アンジュさんは返事をする余裕もなさそうだった。その横顔を脂汗がとめどなく流れている。その時、こちらへとラタン姉が走ってやってきた。そしてアンジュさんを見るなり怒鳴り始める。
「雪が降ってきたからもしやと思ったら、やっぱりですかアンジュ!魔力暴走を起こしかけているじゃないですか!危ないのです、すぐにやめるのです!」
だが、アンジュさんはやめるつもりが無いようだった。それどころか先ほどよりも吹雪が荒れていく。
「ああもう出力が乱れすぎなのです……魔力供給はしてあげますから、しっかり制御をするのです」
すぐに仕方がないな、と行った顔になりアンジュさんの杖を持っている手を支えるラタン姉。すると勢いこそ少し劣るが先ほどよりもしっかりと雪が流れているように見える。そして、少し余裕ができたのか、先ほどまで話すこともできなかったアンジュさんがこちらに声をかけてくる。
「どうだいキルヴィ、これが魔法の力さ」
「すごいよアンジュさん、雪魔法ってこんなに強いんだね!」
目視では確認できないが、MAPに映る敵影は完全に進行を止めていた。そして心なしか赤い点が弱々しいものに見える。この吹雪によって体温も戦意も失いつつあるようだった。
「応用が効かないから使い時に困るけど、やろうと思えばこんなこともできるのさ。だが、魔法は時として自分にも牙を剥く」
その言葉を引き継ぎ、ラタン姉がこちらに目を向ける。
「キルヴィ、よく聞くのです。小時間、適度に必要な分だけを使うには、魔法はその力を発揮してくれるだけで、利があっても害はありません。ですが、今アンジュがやっているのはとても危険な使い方なのです」
危険?これまで魔法を扱う本をいくつか読んだが、そのような記載はされているのを見たことがない。一体どう危険だというのか。
「魔法を使うのには魔力を使うのは、キルヴィも魔法を使うので知っていると思います。基本的に魔法は集中力が必要なので、シールドなど一部例外を除けば長時間使うのには向いてません。ボクのは少し例外ですが、アンジュの魔法もそこは普通のと同じです」
僕は石を作るようなすぐできる魔法しか使ったことがない。しかし長時間ともなると途端に難しくなるという話であった。
「普段は短くて済む魔法を長時間無理に使い続けるとどうなるか?それは、魔力の出方にムラが出て安定しなくなり、魔力暴走という状態になります。体に思いっきり負荷がかかるうえ、思ったように魔法が操れなくなります。一度なると、下手をすれば魔力が切れて意識を失うまで魔法を止めることができなくなります」
だから先ほどまでアンジュさんは苦しそうだったのか。にしても、魔力切れになると気絶することになるというのも初耳だった。
「とはいえ、対処法はいくつかあります。そも、魔力を出すのと操るのとが両立できていないのが原因なのです。なら、どちらかに専念できれば問題ありません。今、ボクが魔力を出すことに専念し、アンジュがそれを操っています。これが魔力供給。ある程度息が合う人でしかできませんが、ボクとアンジュがやっているのはそういうことなのです」
その言葉の後、限界が近かったのか魔法を止める2人。時間にして1時間近くも魔法を行使していた。これは2人が長年の付き合いだからこそできた、といったところなのだろうか。
そして、MAPに記されている赤い点がごっそり減っていた。3分の1は減っただろうか。……しかし、吹雪だけでこうなるのだろうか?
「その顔、敵兵が結構減ったと思っていいのかねぇ?吹雪に紛らせて雹を仕込んだ甲斐があったね」
顔に出ていたのか、アンジュさんがそんなことを言い出す。
「よりによって複合してましたか!そりゃ暴走もしますし、通りで魔力がグングン吸われると思いましたよ!」
そしてその言葉にラタン姉が怒る。アンジュさんはイタズラがバレた子供のような感じに片目を閉じながら軽く舌を出したのであった。
殺気。
MAPで確認すると高速でこちらに近づいてくる赤い点が1つ。壁が近くなっても勢いをまるで殺してない。そしてーー
「待たせたなぁ!よくもやってくれたな……!」
雪の壁と修復した門をいとも簡単に砕き、その敵、マドール将軍は町へと単身で乗り込んできたのであった。