イベリ王国戦 7 3日目の意外な展開
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夜の間の侵攻は特になく、3日目の朝が始まる。昨日よりも黒い空は今にも崩れそうだ。戦えるものは今、門の前に集まっている。
地を叩く音。MAPに記されるは赤い波。陣に残る点がないことからイベリ王国軍は総力を挙げてこのスフェンの町を落とし込みにきたようだった。それを兵士長のラドンさんに伝える。回復魔法で癒しきれなかったのか、ラドンさんは身体中包帯だらけの様子だった。こちらに気がつくと深く頭を下げてくる。
「昨日言えなかったが、助けてくれてありがとう。まさかキルヴィ君に戦力の面でも助けられることになるとは……今この町は子供の君が頼りだ、私が不甲斐なくてすまないな」
その声色はとても悔しそうであった。
そんなことはない。僕1人でできることなんか限られているし、何よりも身を張ってこの町を守っているのはラドンさん達兵士だ。その証拠に、町からの有志の死者はまだ少ない。
「……おそらく、我々兵士は今日死ぬだろう。だが、そろそろ救援が来てもおかしくない。……なんとしてもこの町は守りきるぞ!」
ラドンさんがそう言うと、おうという返事とともに門前は熱気に包まれる。それは、死ぬ覚悟を決めたもののやらせはしないという意気込みからくるものなのか。その熱気を感じながらキルヴィは自分の持ち場である壁に登った。
「ん……」
それにしても今日は肌寒い。その時目に触れたのは白いヒラヒラとしたもの。だいたい一年前って言ったら今日みたいに気の早い雪が降っていたっけ……雪?
「ようやく、私にもできることができたね」
その言葉とともに僕の近くによく知っている気配が近寄って来た。その手には杖。そして、その杖の頭は土埃が舞っている先に定められていた。
「私の使用人やその家族を悲しませた報い、受けてもらおうか」
アンジュさんは遠くに見える敵に言い放ったのであった。
◇
「お、雪か……どおりで寒いわけだ」
それにはじめに気がついたのは私の隣で軍の最後方で馬を走らせているマドール将軍であった。
「昨日から天気が悪かったですからね。この辺りではもう雪が降るような時期なのですな」
そう返すと、少し気を抜いたかのように将軍は馬の走らせる速度を緩めた。
「まあ、視界も悪く銃も使えなくなるような雨よかマシか。流石にこんな時期に吹雪くようなことはないだろうさ」
だが、将軍のそんな言葉とは裏腹に勢いよく雪は降ってきて、視界は白に染まっていく。ついには先を行く軍が見えなくなってしまった。
「将軍、吹雪で前が!?」
「見りゃわかる!……なんだってんだこりゃ。流石におかしいだろ。一体どうなってやがる」
返ってきた声は焦っていた。こんなこと、誰が予測できようか。
「ラッパ兵、一時停止の指示を!……ラッパ兵!くそ、連携が取れない」
大きな声で呼びかけるものの、返事はない。先を行くものには聞こえたのか聞こえていないのか、そもそも進路があっているのかさえも分からなくなってくる。少なくとも将軍とはぐれないようにと将軍と馬を並べる。
「やべえな……これは相手の魔法か?追うにしても下がるにしても、迂闊に動けねえぞ」
「かといって立ち止まってしまえば寒さで体温がどんどん奪われ、やられてしまいます。なんと恐ろしい魔法なんだ……しかし、こんなことができるなら何故今になって」
「いくつもある魔法の中で、誰でも使えるような生活魔法と真反対に位置する、使い勝手が悪く限定的な条件の元でしか発動しないものがあると聞く。もしかしたら、これはそのうちの1つか?……奴ら、とんだ切り札隠してやがった」
将軍の言葉に浮かんでくるのは、昨日将軍が話していたキルヴィとかいうまだ見たことのない子供の影。この雪がその子の仕業とは限らないが多かれ少なかれ関係はしていそうだった。
「……兵士たちが気がかりだ。今はこの向きが合ってると信じて進むしかねぇ。急ぐから、はぐれるな!」
「はっ!」
将軍に合わせて馬を走らせる。途中、倒れた我が軍の兵士を見かけたので立ち止まり、脈をとり無事かどうかを確認する。
まだ手は暖かかったが、脈はなくすでに事切れていた。
再び進むと、次第に倒れている兵の数が増えていく。2、3回確認するもどれも物言わぬ骸と化していた。ダンッと将軍は悔しそうに地面を叩く。
「くそ!……だが、数からして方向は間違ってない!大きな声で集合を呼びかけながら進むぞ」
2人、喉が張り裂けんばかりに呼びかける。今度は聞こえたのか、次第に集まってくる兵士達だったが、明らかに少なくなっていた。その時、ふいに吹雪が弱まる。まだチラチラと雪は降っているものの、先ほどのように荒れる気配がなくなった。
「魔力切れか?.今のうちに確認だ!各兵長点呼を取れ!その上で被害を副官に報告しろ!……俺は、行ってこなきゃ気がすまねぇ!」
指示を叩きつけると制止をする間も無く将軍は吹雪が晴れ見えるようになった町へとかけていってしまった。すぐに点呼が始まるので、報告を受けるため追いかけることができない。私には将軍に対して心の中で悪態をつくことと無事を祈る事しかできなかった。