イベリ王国戦5 爪痕
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皆様よろしくお願いします!
「な、何が起きたんだ!?」
ツムジ殿がそう叫んでいるが、それどころではない。門が破られた、その事実が重要なのだ。弓を引くために上にほとんどの兵力が集まっていて、下にはわずかな兵しかいない。むき出しの町が敵に晒されている事になる。
つまりは非常にまずい事態である。
すぐに食い止めるために兵士を下におろす指示を出す。だが、敵は待ってくれない。すぐに先ほど叫んだ者を筆頭に馬を走らせ町へとなだれ込んでくる。
「ええい邪魔だ!押しとおぉる!」
そう言って手にした銃をぶっ放す兵士。対応に向かった味方が薙ぎ払われていく。よく見ると、その兵士は銃を1人でいくつも抱えている。外見こそ周りの兵士と変わりないが、明らかに別格の存在であった。
「あいつだ!あいつを止めろ!鑑定を使えるものはあいつが何者なのか探れぇ!」
「出ました!あ、あれはマドール・ルーベルトというものだそうです!」
そう叫び、戦力をその1人に集中させる。近くにいた兵士が鑑定を使えたらしく、すぐさま誰なのかを伝えてくれた。
マドール!?マドールだって!?それは確かイベリ王国の将の内、武闘派の1人であったはずだった。それが今この町を攻めているということか。
「そいつ、そいつは将軍だぁ!気を引き締めてかからなければ命がないぞ!」
「いっけね、バレちまった?……ならいいものをやるよ!」
ペロリと片目を閉じながら舌を出す仕草をした後、マドールは何か壺のようなものをこちらに投げてくる。
「弾けな!」
そして手にした銃でそれを撃ち抜いた時だった。
世界が白い光と無音に包まれる。
視界が元に戻ると周りの味方は肉片と血溜まりに倒れ伏していた。マドールが何かを言っているようだったが、声が聞き取れない。というよりもまだ世界が無音に包まれたままだった。そして両頬を伝う熱を持つ液体。どうやら耳がやられたようだった。マドールが銃を構える。
まずい、やられる。
覚悟をしたその時、不意にマドールがこちらから意識を反らした。そしてそのままあさっての方向に発砲する。飛んできた何かに対して撃ったようだったが撃ちきれなかったのか銃身で弾いたようだった。目の前の敵から意識をそらさず、ちらりと飛んできた方向を見やる。そこにあったのは小さな影。あれは昨日あった、確かーー
◇
「ガキが戦場に立つんじゃねぇ!」
激昂している敵の兵士を僕は壁の上から見下ろす。勝手なことを。戦場にしたのは他の誰でもない、貴方だというのに。言葉を返さず、投石を続ける事にする。
「ちっ、ここを仕切っている指揮官らしきものを見つけたと思ったら、まさかガキを防衛につかってるとはな」
そう言ってこちらから放つ投石とラドンさん達兵士の攻撃を銃で防ぐ、MAP上で一際大きく赤いマークがつき、マドールと出ている敵兵。手数では押しているはずなのに全て捌き切られていた。撃っては手に持つ銃を交換し、撃っては交換しをしていたが、
「ちっ、多く積んできたっていうのに予備まで使い切らされるとは……こいつはとんだダークホースだな」
撃ちきった銃を両手で持ちながらマドールはそう悪態をつく。そして未だ煙を上げている銃をこちらに向けてくる。
「ガキ、その顔覚えたぞ……名は?」
「……キルヴィ」
「そうか、いいかキルヴィ!テメェは俺が倒す!それまでせいぜい死ぬんじゃねえぞ?」
言いたいことを言って、マドールは去ろうとする。まだ無事であったこちらの兵士が行かせまいと立ち塞がろうとするが、マドールは銃の先に慣れた手つきでナイフをつけると、それを短槍に見立てて馬上から斬りはらって強引に外に出ていった。まるで気分屋な嵐のような男であった。
マドール1人が抜けても敵兵は未だ残り、こちらを攻めている。意識をすぐに切り替えてこの窮地をどうにかせねばと壁の上から土魔法で作った小石を使い、僕は敵兵を倒すことに専念することにしたのであった。
全ての攻め手を退くことができたのは日が暮れる頃であった。皆で力を合わせて土魔法で慌てて門を塞ぐ。
その後、確認作業をする。
負傷者、犠牲者多数。惨敗だった。
軽度の怪我のものは回復魔法という魔法で回復することができるようだが、深い怪我は直せないらしく、苦悶の声があちらこちらで上がっていた。回復魔法を使って回っている人に見覚えのある顔があった。服装こそきっちりとしていてそれでいて清楚な印象を受けるものだが、昨日本屋で巻物を売ってくれたお姉さんだった。こちらに気がつき、驚いた顔をしてこちらにかけてくる。
「危ないじゃない、こんなところにいて!ここよりも家の中のような安全なところにいなさい!」
そう叱りつけてくる。すると、先ほどまで回復を受けていた兵士さんーーこちらは昨夜僕の言葉に応じてくれた人だったーーがそのお姉さんをどうどうと落ち着かせる。
「姉ちゃん、この子は昨日から俺達を助けてくれてる。見た目はチミっこいが立派な戦士だ。心配な気持ちはわかるがそう怒りなさんなって」
「でも、まだほんの子供ですよ!こんな、こんな危険な場所に居させるなんて……」
まるで自分のことのように心配してくれている。とてもありがたかった。
「お姉さんありがとう。僕、これでも戦えるんだ。……この戦い、無事に終えれたらまた今度本を売ってね」
その言葉にお姉さんの目が見開かれたが、それ以上何も言わず、最後にかたく握手をしてから回復魔法の施しに戻っていった。
「おーい、ここにもいたぞ」
「一箇所にまとめておこう。……すまんな戦友、しばらく安置させられそうにない」
少し周りを見渡すと死者を一箇所に集めているところに出くわした。五体満足な体のものはほとんどおらず、中には本当に人であったかさえ判別できないようなものまであった。敵味方問わず集めているようで、山のように重ねられていく。周りの人が手を合わせているので、それに習って手を合わせる。死者達の虚ろな視線がこちらを見たように感じた。
死者の山の中にまたも見知った顔があった。町に来た当日、僕に身分証をくれた優しい顔をした門番のお兄さんが、右肩から先をなくして山に紛れていた。言葉にできないモヤモヤが胸に溜まるのを感じた。他に知っているものがいないか不安になり探すも、それ以上見つからず少しだけホッとする。
「ここにいたのかキルヴィ君……彼は、そうか。亡くなったのか……」
後ろからツムジさん達がやってくる。よかった、皆怪我もなく無事生きていたようだ。イブキさんとナギさんが、クロムとスズちゃんを連れて無言ながらに抱きついてくる。……彼女達は震えていた。おそらく、知った顔がそこにあったのだろう。
今回の襲撃は、この町にとても深い爪痕を刻みつけたようだった。昨日とは打って変わって、うめき声と悲観する声、敵への殺気であふれた、気の休まらぬ夜が始まるのであった。




