イベリ王国戦4 苦難の二日目
PV15000超え!ありがとうございます!
もう朝だ。今日の天気は雲が厚く、寒く感じるのであまりいいとは言えなかった。
昨晩、門を目指さず側面から攻めるようにと言い聞かせ、密かに出したはずの兵は未だ戻ってきていない。恐らくは失敗したのだろう。
「総員起こし。マドール将軍、もう朝です……何をしてらっしゃるので?」
総員起こしをしながらマドール将軍の兵站に入ると、将軍はいつもの将軍らしい兵装ではなく、一般兵のような地味な兵装に腕を通しているところだった。
「いや、将軍とわかるような兵装では向こうに行った時にバレて、総攻撃を受けてしまうだろう?だからこうして散っていった友達の服を借りているのだ。今日は皆とともに攻撃に加わりたいからな」
「何を仰いますか!将軍自ら敵地まで攻撃に行くなどと、危険極まりないです!私は反対します」
「だがやる。将軍命令だ。今日は副官のお前が指揮を取ってくれ」
昨日の結果に責任を感じ、立ち直ったかのように見えたのだがついに血迷ったかと口には出さないが強く思ってしまう。私が指揮をとるのはやぶさかではないが、指揮する軍に将軍がいると思うと動かしにくいではないか。
「俺のことは気にせず、いつものお前らしくやってくれ。できる限り従うからよ」
いや無理です、とは言えなかった。顔に生気があったからだ。
「何か、策がおありですかな?」
「相手さんの顔を見てないから拝見しに行きたいってのと、できればあいつをぶちかまして度肝抜いてやりたいってところだ」
そういって後ろに用意してある、あいつと呼ばれているものを撫でる。決意は堅そうだった。思わずため息が出てしまう。
「……命令なら仕方がありませんな。ただし、危険を感じたなら直ちに戻ってくださる事が条件です。あなたを失えばこの軍はたちまち、敵地のど真ん中で機能しなくなるのですからね?」
「わかってる。苦労をかけるな副官殿」
そういって将軍は出入り口に立っていた私の肩を叩いて兵達の元へといく。
苦労とわかっているならしないでいただきたい、というその言葉はすんでのところで飲み込み、黙って敬礼する。いたずらに死地に向かう者の戦意を下げるべきではないと感じたからだ。さて、では命令通り指揮を担当するか。
「皆聞け!一時的に指揮権は私に移った!これから作戦を伝えるのでよく聞くように!まずーー」
◇
「おっと、お出ましか」
土煙を巻き上げながら馬を走らせるイベリ王国軍をラドンは目視で捉える。すぐに弓兵、魔法部隊が対処すべく外壁に集い、目標地点にくるまで狙いを絞る。
「今回は歩兵も一緒か……皆いいか、壁に張り付かせるな!破城槌は見当たらないが、何を仕掛けてくるかわからんからな!」
そう呼びかける。昨日撃退に成功したこともあってか、士気は高いままである。防衛はできそうだった。あとは援軍が早く来てくれることを望むばかりである。
「撃ち方……撃てぇ!」
「ぶっ放せェ!」
戦闘が始まった。
「……それで、ツムジ殿。銃については何かわかりましたかね?」
戦線が乱れていないことを確認し、後ろにいるツムジ殿に声をかける。昨夜持ってこられた時、素人目で見たがただの組んだ棒にしか見えなかったので、ツムジ殿に1つ売ったのだ。
「やり方としては吹き矢に似てます。といっても吹き出すのに息を使わないで、火薬を起爆してその勢いで弾を出すみたいです。この筒のところに火薬と弾を込めて撃ち出す仕組みですね」
「どうやって起爆するのだ?見たところ、起動するところは見当たらないが」
持ち手と、筒のみ。この銃には動く箇所がないのだ。
「ああ、それはすごく簡単な話で生活魔法の火で起動するようです。噂に聞いていたのは縄とか火打石で点火する方式だったので、これは驚きました。……試してわかったのですが、命中精度はあまり良くないですね。それと撃った後筒を冷やし、火薬と弾を入れないといけないので再び打てるようになるまで時間がかかります。昨日聞いていた攻め方とは再装填に戻っていたのではないかと」
なるほど。その話を聞いた限りでは新兵器にそこまで脅威を感じなかった。つまりは昨日頭を飛ばされた兵士は運が悪かったのだ。今のところ被害は少ないし、途端に勝ち目が高くなる。
「おいおい、破城槌がまた出て来たぞ!」
兵達がざわめき始める。その声に外を見ると確かに破城槌が来ていた。しかし見たところ、昨日のような大掛かりな者ではなく即席で作ったような丸太だけのものであった。先端に大きな壺のようなものが付いている。
「落ち着け!……あれについては落とし穴にかける必要はないだろう。各自持っているものを狙え」
その指示に兵達は落ち着きを取り戻し運び手を狙撃する。すぐに数人やられ持てなくなったのか門の前で破城槌を落とし、慌てて逃げる敵兵。その背を撃ち抜く。その光景に尻込みしたのか敵兵はやや後退したように見えた。まるで脅威ではなかった。
「皆、破城槌は退けた!攻撃に戻れ!」
再び士気が上がる。いける、この戦いはいける。
その時爆音。
たった今防衛できていたはずの門が破られた。
「お前ら、よく耐えた!ここから反撃だぁ!」
敵兵の1人が大きな声で叫んだ。