イベリ王国戦 2 成功
1ヶ月毎日更新達成しました…今後も頑張りたいところです。連日700アクセスありがとうございます!
「なんだぁ?霧が出てきやがったぞ」
第3波が突撃をしていく中、マドール将軍はいち早くその異変に気がついた。私も確認すると、確かにうっすらとだが町の方が霧がかっているように感じた。
「天候は晴れ……恐らくは相手の魔法でしょうな」
「ちっ、早速対策を考えてきたってことか」
銃は湿気ると使えない。そのことを知っている知恵者が相手には居たようだった。先ほどまで成功していたことから、軍属のものではないだろう。
「相手もなりふり構わず、と言ったところですかな。兵でもない者に知恵を借りたと見えます」
「……となると耳の早い商人か、祖国の裏切者がいるのだろうな。ちゃんと情報規制してるのか今度問い合わせねばなるまい」
この武器の最大の強さは相手に知られていないことだ。実際のところ、長い鍛錬をしなくても誰でも扱える利点と音による威嚇が可能ではあるが、あとは速度こそ早いが威力は弓や魔法に劣るし、遠距離攻撃において命中精度はそこまで高くない。そして、地形や天気など使える場面が限られているのだ。
「ラッパ兵!とどく範囲で構わない。突撃中止の合図を出せ!これじゃ後々困るのでな」
マドール将軍は町に背を向ける。
「思ったより手間取りそうだな……破城槌急げ!これで破れれば不要だが、あれの用意も始めよ!……それと、短期決戦が望ましいが長期化も視野に入れて陣の設営だ!」
「はっ」
こういう時、将軍は決断が早い。短期決戦が難しいかもしれないとみるや、手の空いている者をすぐに陣の設営に移らせた。
兵糧は山のようにある。多少時間がかかってでもこの町は落としておきたいのは、侵攻を始めた今、私も同意見である。
「破城槌準備完了しました!いつでもいけます!」
「よし、魔法部隊!敵からくる攻撃を撃ち落とせ!破城槌を門に届かせるんだ!……機動部隊!同時進行で側面から侵入できないか試みろ!」
「「「はっ!」」」
「……これが成功すれば、今日中にでもケリがつくだろうが。決まらなければ数日かけねばならないかもしれんな」
これは珍しい、普段弱気なところをかけらも感じさせないマドール将軍も、思い通りに事が進まない現状に不安になったようである。
「成功させましょうとも。勝って故郷に錦を飾りましょう!」
「……成功してなんぼだな!よっしゃ、者ども突貫だぁ、ぶち破れぇ!」
車輪に乗せられた破城槌が勢いよく押し出されていく。敵も届かせまいと必死に攻撃を開始し始めるがここにきてうまく命中させる事ができず、地面に外してばかりとなった。
いける、そう確信を持った時ーー
我々の目の前から破城槌が消えて無くなったのであった。
◇
「対ランスボア、成功です」
キルヴィ君がそう告げる。
「やるじゃねえか坊主!」
「まさか一撃で壊せるとはな!」
「ランスボア、言い得て妙ですな」
敵の攻撃を完全に無力化できたことで兵の士気が高まった。
「敵に対する攻撃はフェイクで本命は落とし穴か……この戦いで初めて相手に有効打を与える事ができたな」
そう、やったことは単純で、落とし穴なのである。勢いをつけた破城槌は進行方向を変える事が難しくなる。その眼前に落とし穴があれば避けようがなく、勢いがいいほど自らに牙を剥く仕様となるのだ。それはまさしくランスボアの狩り方である。とはいえ、先ほどまで敵の騎兵がふみ鳴らした地に、直前まで気取られぬように即席で作らねばならなかったため魔法を使った、かなり精密な作業となったが。
「いや、破城槌をランスボアに例えて説明を始めた時は目から鱗でしたな。我々では全く結びつける事ができませんでした」
そう頭をかきながらキルヴィ君の方を見ると、少し照れ臭そうにしていた。
「ともあれ、相手も予想だにしていなかった事でしょうし、先ほどの新兵器の借りは返せましたな」
ちなみにだが破城槌を押していた兵がどうなったかは、あえて詳しく言わないでおこう。ただ、頭が消し飛んだ部下の死体が全然マシに思えるほど、現場は悲惨な有様であった。
「相手は奥で何やら……何かを組み立てているような動きです。先ほどまで横に回り込もうと動いていた敵も引き返しています。こちらに向かってくる気配はなさそうです」
何かを目で追っているような動き方をしながら、キルヴィ君がそう告げる。側面からも攻撃をするつもりであったのか。今後気をつけないといけないな。しかし……
「陣の設営に入ったか……長期戦をする気か?となると今日はもう攻めて来ないかもしれないな。各自、交代で休みを取れ!」
願っても無い事であった。現状、時間を稼ぐ事ができている。時間がたてばたつほど救援が来てくれる確率が上がる。となれば、勝てる可能性ができてくるのだ。
「イベリ王国の誰かは知らぬ将よ、我々を侮った……かは知らないが、肝を冷やしてやるぞ」
すでに陽が傾き始め、敵陣は影を伸ばしている。敵将がいるであろう方向に向けて、静かにそう呟いたのであった。
◇
「やられたな、いつの間に落とし穴を作ったんだ?破城槌がダメになってしまった」
マドール将軍は落ち着かなさげに小声で同じことを何度も繰り返していた。誰もがいけると思った瞬間に挫かれたのだ、無理もない。相手は一筋縄ではいかないと見て、将軍の代わりにすぐさま側面攻撃を指示していた別働隊を呼び戻す伝令を出す。が、破城槌がやられたのを確認したのだろう。別働隊はえらく早く戻って来た。
「将軍、そろそろ落ち着いてください。確かに被害が出ましたが、まだ1日目です。陣を敷いて長い目でみましょう」
「被害、被害か……どれだけの被害をおった?」
「破城槌が一機、それを引いていた者が60名、防衛に当たっていた者が12名を失いました……先ほどのと合わせた総被害は102名かと」
被害を伝えると将軍は私に背を向け、うずくまる。
「彼らには申し訳ないことをした……勝てる戦だというのに故郷の土を踏ませることができなかった」
いつも強気な彼らしくなく、とても頼りのない、弱い背中に見えた。
「何を悔やんでいるのですか将軍!マドール将軍がそんな調子では彼らも浮かばれますまい」
「しかしだな、本当のことだ。いっそのこと、ここに砦をたててしまえばよかったのではないかと思えて来たのだ」
うじうじした言葉に腹に立ってしまった。いつまでも小さくなっている背中につい怒鳴りつける。
「ええい、女々しいですぞ!それでは彼らは犬死にだ!……マドール将軍、勝ちましょう。勝って、彼らの死が無駄でなかったと証明するのです!」
その言葉に、近くにいる兵は賛同してくれたかのように将軍に声をかけ始めた。
「そうですよ将軍!いつもの貴方らしくないじゃないですか!」
「バカみたいに国のために頑張ってきた将軍の指示でいったんです、彼らも覚悟をしてたでしょう!」
「みたいじゃなくて愛国心バカですよ将軍は」
「バカ将軍!」
「バカ将軍!」
なぜか励ましの途中からバカ将軍コールとなっていく。その言葉を聞き、体を震わせながらマドール将軍はゆっくり立ち上がって、振り返った。
「誰がバカ将軍だこの馬鹿者どもがぁ!」
「わぁ!バカが怒ったー!」
怒りの声を聞き、蜘蛛の子を散らしたかのように逃げ出す兵士たち。マドール将軍はそんな彼らを少し追いかけたところで立ち止まり、
「……ほんに、馬鹿者どもめが」
と遠ざかっていく兵士たちの影に呟いたのだった。
伸びていく兵士たちの影。陽が、暮れる。
策はなり、なんとかしのげたところで次回です