イベリ王国戦の1 対策
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「射撃したものは直ちに戻れぇ!第2波、進めぃ!」
相手の指揮官がそう指示をするのが聞こえる。その指示通り、門の前までたどり着いた兵士たちはあっさりと引き下がっていく。こちらは相手が何をしたのかがわからず、去っていく敵の背を眺めるしかできなかった。
「い、いまのは一体なんなのだ……?魔法じゃないのか?何が起きた!?」
ラドンは頭が吹き飛んだ味方の兵の様子を見る。当然ながら死んでおり、申し訳程度に残った下顎からはゴポリと血が噴き出している。その時、弓兵の1人が何かを発見したようで呼びかけてくる。
「ラドン兵長!こんなものが防壁に傷をつけています!」
渡されたのは小さな鉄の粒であった。
「うん?これは、鉄の玉……?」
指で転がしながら確認をする。鉄の玉はわずかに熱を帯びているようであった。
「ソヨカゼ商会のツムジ殿に心当たりがないか、急ぎ呼んでくれ!何か足がかりになるかもしれん」
「直ちに!」
眼前には第2波が押し寄せてきている。正体不明の攻撃を喰らわぬように気を配りながらやらねばなるまい。
「攻撃を再開するのだ!ただし、相手が何か構えたら伏せること!犠牲を増やすのは許さんぞ!」
「応!」
まだこちらの士気は下がりきってない。とはいえ、繰り返されれば落ちてくるだろう。なんとしてでも対策を考えなければなるまい。
「ツムジ殿、なにとぞ、なにか知っていてください……!」
ラドンはそう祈るのであった。
◇
「ハッハー!みたかこの高機動、高威力!これぞ俺の隊の真骨頂、銃撃騎馬隊だぁ!相手さんもこちらの手の内を知らないと見える!」
マドール将軍が嬉しそうな声を上げる。しかし少なからずこちらにも被害が出ている。それに、あまり何度も繰り返されると向こうも対策を練るだろう。有効でいられるのは時間の問題だ。……いざという時は副官権限として止めさせなければなるまい。固い表情になっているのに気がついたのかマドール将軍から声がかかる。
「なんだよしけたツラをして……経費の心配か?安心しろよ、この町も落としちまえば全部プラスになるって!」
バンバンと背中を叩かれる。経費か。ここまでの道中ことごとく略奪を行なってきている。経費についてはそこまで心配はしていなかった。……略奪が人道的ではないのは承知している。でも仕方のないことだ。
なんだかんだで私も、そして兵達も将軍の狂気に染まっているのだ。
「心配なのはこちらの損害です」
将軍に不安であったことを申し上げる。マドール将軍は腕を組み、少し考えたのちにこう言った。
「そこまで被害が気になる状況かね?んじゃもう一回この攻撃をして、士気が下がってりゃ門をぶち破る方向にするか。破城槌用意しとけ!」
なんだかんだでこちらの意見も汲み取ってくれたようだった。しかし、弓兵などで威嚇をするのではなく早々に破城槌の用意を始めるということはマドール将軍は短期決戦を望んでいるようだった。
「さっさと片付けちまおうぜ。戦功1番の者にゃあとで褒美もつけてやる!行くぜぇ!」
将軍の声にこちらの士気は上がりに上がったのだった。
◇
「銃、ですな」
家族であろう人々を引き連れたツムジ殿は開口一番、苦虫を潰したような顔で短くそう言った。
「ジュウ、とはいったいなんなのですか」
「魔法じゃありません。弓でもありません。カラクリを使ってこの玉を矢よりも高速で撃ち出すイベリ王国の最新兵器です。私も噂でしか聞いてないのですが……他に何か特徴ありませんでしたかね?例えば大きな音がした、とか」
「音といえば、風船かなにかが破れたような音がしましたな」
「おそらくは火薬式の銃ですかね、厄介ですな……その音も武器となる。繰り返されればそれが何かわかっていたとしても士気は下がりますよ」
「そんな。なにか、対策はないのですか?これではスフェンは落ちてしまいます!」
こちらの訴えにツムジ殿はとても難しい顔をしていた。一介の商人にこんなことを聞いている自分を恥ずかしく感じるが、それどころではないのだ。
「策とは言い難いですが、火薬式ならば湿気れば使えぬでしょうな」
「湿気る……水か!天気は秋晴れ故に雨を望めないが、魔法ならなんとでもなる。水魔法を使えるものを集めましょう」
現在の戦況は、敵の第2波は既に退き、第3波が組まれつつある段階であった。急げば相手の攻撃を無効化できるかもしれない。その時ツムジ殿が連れた男の子が声を上げる。
「あの、急いだほうがいいです。相手の奥の方で何か大きなものを用意している動き方をしてます」
「君は?」
「ツムジさんの所でお世話になっているキルヴィと申します。よろしくお願いします」
「ふむ、ツムジ殿、この子の言っていることは信用してもいいのかね?子供の遊びでは済まされないのだが」
軽く睨みをかけると、ツムジ殿は鬼のようなすごい形相で返してくる。軍属の私ですら思わず後ずさりしそうになってしまった。近くにいる女性達にたしなめられ、ツムジ殿は不満げにその顔をやめる。
「失礼ですが、ラドンさん。今回私達がいち早く敵の情報を知ることができたのはこの子のおかげなのです。この子なしでは既に町は蹂躙が行われていたと思われますが、その辺どうでしょう?」
しかし、次にツムジ殿から出てきたのはすごく棘のある言い方であった。そしてその内容に驚く。軍が掴めなかった敵の動きを察知したのがこの小さな子だって?悪い夢でも見ているようだ。しかし、それならば信用するしかあるまい。キルヴィと名乗ったこの視線に合わせるため、膝を折る。
「失礼。キルヴィ君、だったかな?それはどんな感じかまではわかるかい?」
「う、うん……数十人で持ち運んでいる、かな?長方形みたいになってる」
「長方形……破城槌か!門の強化もせねばなるまいな。ありがとうキルヴィ君。先ほどはすまなかった」
少年は首を振る。
「一大事だから仕方がないかと」
その後、キルヴィ君と握手をする。その手はとても小さいが、男らしい手であった。
「みな、指示を出すぞ!間も無く第3波がくるだろう!弓と魔法攻撃は続けるが水魔法と土魔法を使えるものは別行動だ!水魔法組は広域に霧をはれ!土魔法組は門の強化をするんだ!」
「少し、意見してもいいですか?」
キルヴィ君が臆せず意見をしてくる。先ほどのこともあるし、聞くだけ聞いてみよう。
「門の強化もいいと思いますが、あれがあるならいつかは破られます。確認したいのですが、破城槌とは勢いをつけて門に当てる道具なのですか?」
「ああ、衝撃はすさまじく、何度もやられると壁ごとやられてしまうよ。それが?」
「勢いをつけたら進行方向は変えることはできませんよね?」
「ああ、勢いを殺してしまうからな」
「ならば、こうしましょう」
キルヴィ君がどうすべきか述べてきた。聞いているうちになるほどと納得してしまった自分がいて驚いた。
「よし、この案でいこう!少数だけ強化に移り、あとはこの通りやるのだ!」
さて、この決断がどう転ぶか。第3波は進行を開始したようだった。
キルヴィが考えた策とは?