開戦
あと少しでユニーク3000!皆様ありがとうございます!
いよいよ戦闘が始まります。
西から武装した集団がやってくるーー
ツムジ達のもたらした情報によってスフェンの町は大慌ての事態となった。すぐに常駐している軍が物見をたて、確かに何かがやってきていることを確認。公に発表したことで裏付けがとられる。このことを他の町や国に伝えるために伝令を東へ数人向かわせた。その後、東西2つにある門を固く閉ざす。そして土魔法を使えるものを集い、急ぎ壁の補強作業と町の周りに即席の堀を作る。相手にも土魔法を使えるものがいると想定し、多少は時間が稼げるように魔力を込めて妨害工作を施した。
「こちらの戦力は正規兵が200、町の有志が900程か。合わせて1100。対してあちらは少なくとも3000はいる軍勢だ。劣勢故に籠城戦しかできず、応援はいつ来るかもわからない……か」
この町で兵長を勤めるラドン・イーマスは覆せない戦力差に匙を投げそうになった。戦争を行なっている筈の国境からこの町まで最速で移動しても1週間はかかる筈なのに突破されたという報告など届いていない。つまり、大方前線はすでに崩れているということになるのだ。今後はここが最前線となるだろう。
「ソヨカゼ商会のツムジ殿、軍が不甲斐なく申し訳ない。あなた達の報告がなければ眼前に迫るまで我々は気がつかなかったでしょう……」
年長者であり、耳の早い商人のツムジ殿がいなければどうなっていたことか、ゾッとする。
「ラドンさん、頭をあげてください。今は対策を考えましょう。幸いにもここは商売人が多い地です。物資はそこそこあります。それに、付近の収穫も終えた季節です、すぐに冬が来ます。相手もいつまでも攻めていることはできないでしょう」
「冬か……なおさら死守せねばなるまい」
「商会から弓と矢をできるだけ支給します。この町を共に守り抜きましょう!」
ツムジ殿からのありがたい申し出だ。この防衛戦、弓と矢はなくてはならない存在である。すぐに西に付いている兵に手配するとしよう。指揮を取ろうとすると西門から伝令がくる。どうやら目視圏内に入ったらしい。赤を基調とした旗印と兵装、イベリ王国正規軍のお出ましだ。
◇
「おっと、討ち漏らしか情報漏れがあったか?この町は門を閉じて備えてらぁ」
イベリ王国の将の1人であり、この軍を率いているマドールは、密かに侵攻していたにも関わらずすでにこちらの情報を察知したかのように固く門を閉ざしている町の姿を捉えてそう言葉を漏らす。
「バレてるってんならこんなチンタラと進行する意味もなくならぁな。よっしゃ、ラッパ兵!騎兵に早駆けを指揮しろ!」
マドールの言葉に、近くにいた年老いた男が待ったをかける。この男はマドールの副官を務めている男であった。
「お待ちください!町の侵攻には降伏勧告をする習わしではないですか!それをマドール将軍、あなたは……!」
「ばっかお前、これは強襲で、相手が敵なのにそれやってどうするよ?戦争やってる中奥地でのんびりやってるっていうの、気にくわねぇんだ。ここにくるまでの町を見て来ただろ?どいつもこいつも平和ボケした顔引っさげて……戦争してる実感ってのがないんかね」
上官であるマドールは狂っている。
戦争にも守るべきルールがある。武装していない民間人は安易に傷つけてはならないということだ。マドールはそれをこの作戦で全く守るつもりが感じられなく、ここにくるまでの町にいた老若男女構わず全てを皆殺しにして来ている。これはあってはならないことなのだ。
「へへ、ここを抑えればいよいよもって首都圏まで手が届くってもんさ。お前らも早くこの戦争を終わらせたいだろ?」
マドール将軍は狂っている。だが、イベリ王国に対する忠義は厚く、この戦争をイベリ王国の勝利で収めようと躍起になっているのを我々は知っている。故に付き従い、こうして黙認しているのだ。
ラッパの音が響く。突撃の合図だ。マドール将軍の前へとゾクゾクと兵が進む。いくら備えがあると言えども、情報がきてからそう時間は経ってないだろう。ならばこの町も先にあった町同様に長くないだろう。全ては国のためだ。そう割り切って私も進行に加わった。
こうしてスフェン攻防戦が始まったのであった。
◇
「クソが、奴ら降伏勧告も宣戦布告もせずに仕掛けてきやがった!」
騎兵の突撃が始まったのを見て、ラドンはそう悪態を吐く。相手は戦争のルールなど守る気がないようだ。門が突破されたら最後、住民の命はないものと気を引き締める。
「弓、構え!魔法を使いそうな奴がいたら優先的に狙え!間違っても奴等を通すな!」
号令をかける。ギリリ、とツルが絞られる音が聞こえ、皆が狙いを定めたのを確認する。
「放て!」
第1射。矢の雨が相手の騎兵に降り注ぐ。
「このまま射続けよ!魔法部隊!各自威力の高いのを使ってくれ」
色とりどりの光が放たれる。その衝撃で土煙が立ち上がり、相手が見えなくなった。
「やったか!?」
無駄撃ちを避けるため、撃ち方やめさせる。次第に土煙が晴れていく。そこにあったのは……
「そんな、ほぼダメージなしだと……」
十数人だけ倒れているのが確認できるが、目の前にはいまだ健在な軍があった。無事な相手の騎兵が壁の近くまで到達する。彼らは馬を走らせながら弓でも、剣でも槍でもない、穴の空いた棒状のものを構える。
「魔法攻撃か?各員防御体制を!」
魔法による衝撃に備えるために大半が身をかがめる。魔法弾ならこちらに着くまでに軌道もわかるからと攻撃を続ける者もいた。
何かが弾ける音がする。それと同時に攻撃を続けていた者の頭が吹き飛んだ。
「ざんねぇんでぇしたぁ……遅いんだよぉ!」
遠くから悪魔の笑い声が聞こえた気がした。
察しのいい人ならイベリ王国の武器はわかりますよね