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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
1区画目 幼少期
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お買い物

いつもありがとうございます!感想などお待ちしております

 先ほどよりは人もまばらになり、それぞれの店が扱っている商品が子どもの背丈でもよく見えるようになった通りへと足を踏み出す。料理に使う原材料を扱っているところは早々に店じまいをして他の店に場所を譲っているようだった。


「市場はどこもだいたいこんな感じですね。仲良い店同士で組んでおいて朝早く出てくる方に良い場所を取っておいてもらってることもありますです」


 なんでもあちらこちらで好き勝手にやるよりも、その方が効率がいいとのことだった。


「今回の目的であるお金についての勉強は、もう先程済ませてしまったのでキルヴィの好きなように買い物をしていいですよ。スズちゃんも欲しいものがあるなら教えてくださいね」


 そう言われて、とりあえず目を惹くものがないか辺りを見渡してみる。


 肉や果物などの食品、違う。

 ツボなどの調度品、使わない。

 首飾りや髪留め、気にならないでもないが今自分に必要だろうか?保留。

 宝石、高いしわからない。違う。


 そんな感じでぐるっと見て、気になったのは本を扱っているところと武器を扱っているところだった。その旨を2人に伝える。


「まあ食べるに困ってないのなら実用的なものが欲しいところですよね。じゃあ覗いてみましょうか」


 先にのぞいたのは武器屋だった。雑多に置かれているものからしっかりとした箱に入ったものまで大小様々取り扱っているみたいだ。


「剣ひとつ取るにしてもこんな露店でダガーからツーハンデットソードまでよく取り扱えますね……あ、ランタンシールドまであるのですか」


 ざっと眺めていたラタン姉があるものを持ち上げた。それは盾のように見えたが鋭い刃の部分も持っている不思議な形状だった。手元まで覆う籠手と接着されているようで、盾の表面の一部が指の動きで開閉できるようになっていた。


「珍しいものをよく仕入れましたね。この品は売れてますか?」


 ラタン姉が店主に聞く。その言葉におどけたように肩をすくめて「いや全く」と答えたのだった。


「物珍しさで手にとってくれる人はいるが、扱いにくそうだからと誰も買いやしない。稼げるものといったら手垢だけってきたもんだ。お嬢さん、いるかい?」


「ボクは使ったこともあるし価格次第ですかね?いくらでしょう?」


「おっ、経験者かい。そうだな、銀貨10枚」


「ふっかけすぎです。銀貨1枚」


「おいおいそりゃないぜ。銀貨8.5枚」


 突然店主とラタン姉が互いに好き勝手な金額を言い始める。しばらくそのやりとりが続いたが、銀貨4枚と銅貨25枚でお互い譲らなくなり、納得をしたようだ。変形していない貨幣を店主へと渡すラタン姉。


「いや、参った。子供の姿だからと油断したがさてはお嬢さん精霊の類だな?初々しさがありゃしねえ。とんだ食わせもんだ」


 そう言いながらも店主はあまり悔しそうには見えなかった。なかなかはけない在庫がはけて嬉しかったのだろう。


「こちらこそありがとうございます。ふふ、ボクの種族はナイショなのですお兄さん。でも、こっちの子達は買い物に慣れてないので優しくしてあげてくださいね?」


 ウインクをするラタン姉に苦笑いをしながら店主はこちらを向いた。


「こわやこわや。坊ちゃん達は何か良いもの見つけたかい?」


 そう尋ねられる。……うーん、僕はラタン姉のようにピンと来るものはなかった。スズちゃんの方を見る。


 スズちゃんは遠慮がちに小さな杖を指差した。よく見ると握り手に赤い石が埋め込まれている。


「お嬢ちゃんは魔法使い志望かい?これは入門にはちょうど良い杖だ。……よし、新たな魔法使いの門出だ。銅貨10枚でどうかな?」


 店主がそう言うので、ラタン姉を仰いで見る。ラタン姉は指で丸を作った。


「では、これでお願いします。あとツムジさんがこれを見せたほうがいいっていったので」


 銅貨と、朝にもらった証明書を出す。それをみた店主は驚いた顔になったが、すぐに納得したような顔になった。


「噂で聞いたツムジさんとこの麒麟児ってのは坊ちゃん達かい。その証明書を持たせるとは、よっぽどお熱と見える。……坊ちゃんがあの地図を書いたんだろう?俺にも一枚売ってくれないか?」


 そう言われたので情報つきと地形だけの物との差を説明しながら地図を出す。


「なるほど、版画でもないのにどの地図もほとんど差がなく精巧にかけている。一体どんな技を使っているんだか……よし、この町の情報つきのものを貰おうか。銅貨40枚でどうかな?」


「ありがとうございます!」


 自分の作ったものが認められ、なんだか嬉しい気分になった。何気なくツムジさんが見積もった金額よりも高いのもポイントの1つだ。その感情が表に出ていたのか、店主はにっこりと頷くと


「さあさ、今回限り!枚数限定!ソヨカゼ商会のツムジが抱え込んだ麒麟児の地図がここにあるぞ!俺も買ったが、なるほどこりゃすごい!自分の地図に少しでも不安があるならよっといで!」


 と周りに呼びかけをしてくれたのだった。その声で注目を集め、近くをうろついていた人が押し寄せる。持っていたものは森の地図を含めて全部売り切れてしまう。買えなかった人たちは残念そうに立ち去っていった。


「ありがとうございます、まさか見ず知らずのボク達に店の一角を貸してくれるとは思いませんでした。集客までしてくれて……」


「お兄さんありがとうです」


 店主に対してラタン姉とスズちゃんもお礼をする。店主はいいものを見せてくれたお礼だよと笑ったのであった。


「それに、俺の方だって利益があるんだぜ?来た奴ら、ついでにとうちの商品も見ていくから売り上げが伸びたよ」


「商魂たくましいお兄さんでしたね」


 何度かお礼をしたのち、いつまでも陣取っていても申し訳ないので武器屋を去ることにする。少し離れてからスズちゃんはそう言ったのであった。


「利用できるものは活かす、商人の模範ともいえる人でした」


 ラタン姉はそう答える。地図を売ったことで手持ちは銀貨10枚と銅貨210枚になった。鉄貨は使っていないのでそのままだ。


「それだけあれば、本屋でも何か買えますね」


 ラタン姉の言葉でワクワクが止まらなくなる。身近な人と属性が異なる僕にとって新しい魔法を覚えることができるチャンスかもしれなかった。


「いらっしゃーい」


 本屋の主人は露出の多い服を来た女性であった。猫なで声で挨拶をかけてくる。座り方からして胸を強調しているように見える。が、僕たちのことを見るなり普通の座り方になる。そして改まったように普通の声で再度挨拶をしてくる。


「なんだ、オトナなお兄さん達じゃないのね。いらっしゃいませ」


「……びっくりしました。一瞬いかがわしいお店かと思いました」


「おませさんなのねお嬢ちゃん……いや、この感じは精霊のお姉さんかしら。恥ずかしいですが、こうでもしないと誰も見ていってくれないんですよ」


 そういって大きくため息をつく。なかなか苦労されているようだ。


「字が読める、読めないっていうのも大きいと思いますよ。ボク達女性陣は文字なんか覚えても仕方がないって風潮は廃れつつありますがまだ残ってますし」


「そうよね……こんなに面白いのに女の子は識字率の低さで損をしているのよね」


 意気投合したのかラタン姉と店主で世間話が始まる。長くなりそうだからその間に見させてもらおう。扱っているのは字が読めなくてもわかるような絵本、心くすぐる英雄の物語が大半であった。世界の事情という、数枚の紙からなる新聞と呼ばれるものも扱っているみたいだ。魔道書もちらほらとあるが、どれも屋敷で見たことがあるものに見えた。残念。


 視線を動かしていき、一番端にある筒状の物のところで止まる。これも本なのだろうか。僕の視線に気がついたのか世間話をやめ、店主が説明をしてくれる。


「ああ、それは巻物ね。そんな形だけど一応本なのよ。その巻物は白紙なんだけどちょっと特殊でね」


 そういって広げて見せてくれる。驚いたことにどんだけ伸ばしてもまだまだ紙が出てくる。


「まさか魔法具ですか」


「お姉さん正解。これ、無限巻物っていうの。効果は見ての通りどこまででも紙を伸ばせるってことね。こんな感じで途中で切れても本体と繋がっている方に留め具が出てくれるわ」


 そういっておもむろに引き裂く。出ていた紙の方から留め具が消え、本体の方に移ったのが見えた。……どうしよう、これが欲しいかもしれない。


「お姉さん、これ、いくらですか?」


「んー?気になっちゃった感じかな?そうね……こんなんだけど魔道具だし、結構高いわよ?銀貨15枚かなぁ」


 ギリギリ足りなさそうだ。ラタン姉が出そうとしてくれるが、自分の手持ちでなんとかして見せたかった。何か価値があるものがないか探して見る。


「あ、それ……それ見せて!」


 主人が指差したのは、集落を出るときに餞別にもらったナイフであった。店主にそれを渡す。


「……うん、これ気に入ったわ!これと銀貨12枚分でどうかしら?」


 そう提示されて少し考える。少し惜しい気がしたが妥当だと感じた。こうして、銀貨とナイフの引き換えに魔法具の無限巻物を買うこととなった。


「また大きくなったら来てねー」


 そういってバイバイと手を振ってくれる本屋の主人さん。こちらも振り返す。買うものも買ったのでそのままツムジさんの家に帰ろうとなったのだった。


 楽しかった気分が暗転、ぞくりとする。


 MAPが示したのは、この町の、遥か西の方から赤い点の群れが押し寄せて来ているということだった。

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