お金の話
総合PV1万、ユニーク2500超えしました!本当に皆さんありがとうございます!
「さて、ご飯も食べたしキルヴィ?もう買い物に出かけましょうか?町の中を歩くだけでも色々刺激があるものなのですよ」
朝食をとった後、のびをしながらラタン姉がそう告げてくる。それに対してスズちゃんが自分も行きたいとラタン姉にお願いをし始めた。……うん。理由は聞かなくてもよくわかる。
「でも買い物するにしてもこんなはやい時間にお店って開いてるの?」
疑問に思ったことを口にするとツムジさんが小袋をこちらに差し出しながら指を振る。
「キルヴィ君、商人にとったらこの時間が一番商売するのにいい時間なんだよ。なにせ前日仕入れたものを店が閉まっている夜のうちに確認できるから何をどれだけ出せれるか、それでどれだけ利益が見込めるか考えた上で品が出せるからね。原料の仕入れをするのにお店同士で商売している時間でもあるから物が一番多いんだ。……これを持って行きなさい。中にはソヨカゼ商会の一員であるという証明書と幾らかのお金が入っている。これで、ほとんどのお店と問題なく買い物はできるはずだよ」
わたされた袋を開けてみる。中には薄く緑に光る紋章が入ったカードと銀貨が5枚、銅貨が20枚、鉄貨が30枚入っていた。ラタン姉が覗き込んでくるが、中身を見てすこし顔をしかめる。
「キルヴィだから問題ないと思いますが、子供に渡す金額じゃないのです。その辺の町で大人1人が一月はかるく暮らせるくらいあるじゃないですか」
「そうだけど、問題あるかね?」
「まず子どもだし小さいから目をつけられる、そこからふっかけられるか脅されるか実力でぶんどろうとしてくるのは見えてることですよね」
「はっはっは、ソヨカゼ商会関係者と知っていながらそんなことをする命知らずはこの町の商売人にはいないよ……そのための証明書だからね」
つまりはこのカードは僕に何かしたらツムジさんが黙ってないぞということらしい。そこまで気にかけてもらって嬉しい。
「あ、キルヴィ君もう地図ができてるなら売るのも経験しとくかい?……俺の見立てだと、町周辺の地図は地形だけなら銅貨10枚、情報付きなら30枚、森の地図は方角が分かるようなシンボル情報込みで銀貨1枚が適正くらいだと思うけど、キルヴィ君のものだ、好きに値段をつけていいと思うよ」
こうやって目安となる値段も教えてくれるところができる大人力、といったことなんだろうか。言われた通りに地図も用意して行く。
「ラタン姉、準備できたよ」
「スズも大丈夫なの!」
「ですです、なら行きましょうか。はぐれないでくださいね」
外に出ると日はようやくでてきたかというところで、まだほとんど暗かった。ラタン姉がランタンに火を灯す。……なぜだろう?昨日も一昨日も火を灯していたはずなのにランタンがすごく久しぶりに出た気がした。
「スズ、このランタンの灯りすきー」
そういって、先を行くラタン姉の持つランタンに近づき眺め始めるスズちゃん。その言葉にラタン姉はとても嬉しそうにしていた。
「さておさらいですキルヴィ。鉄貨1枚で買える物の目安は何でしたか?」
「確か果物1つだったっけ?それくらいは覚えてるよ」
すぐに答えた内容に対して頷くラタン姉。
「その通りです。では小さな果物と大きな果物があるとしましょう。これは味も種類も同じですが大きさが倍近く異なります。それでも同じ価値でしょうか?」
そう言われて考える。買い手としては同じ価格で売ってもらえるなら嬉しいが、売り手は損した気分になるだろう。かといって1個は1個だから鉄貨2枚となると売れないかもしれない。難しいなと考えているとスズちゃんは不思議そうな顔をしていた。
「難しくないですよキルヴィ様。大きい方が、価値は高いのです」
その言葉で僕は尚更混乱する。
「でも、1個は1個だよ?倍の値段つけられたらお客さんは買わないかもしれないし、かといって鉄貨は1番下の貨幣だからそれ以下の値段はつけられないでしょ?」
「あー、キルヴィ様そこがわからなかったから悩んでるんですね?」
スズちゃんが納得がいった顔になる。ラタン姉はうんうんと頷くと、勉強で教えれてない内容だからちょっと意地悪しましたと前置きをしてから説明をしてくれた。
「スズちゃんのいう通りで、大きい方が価値があるのです。でもそれは多分キルヴィもわかっていたと思うのです。……最低貨幣は鉄貨、これは教えた通りなのです。ならどうするか?……これを見てください」
そういって懐から取り出したのは、折れ曲がったり半分に欠けてしまった鉄や銅の貨幣だった。
「見ての通り、折れたり割れたりしてて使い勝手の悪くなってしまったお金なのです。これを鐚銭と言います。これは状態次第で価値が上下しますが元の貨幣以下の価値にしかなりません。さっきみたいな問題にはこういった鐚銭を払うことで解決が可能なのです」
なるほど、貨幣の価値は不変的な物だと思っていたがそうでもないらしい。もらったお金が変形しないように気をつけないといけない。さらにスズちゃんがラタン姉の言葉に付け足す。
「同じような価値のもので物々交換という手もあるよ。むしろ村ではお金を使うよりもだいたいそんな感じなの」
お金を使わないという方法もあるのか。これは地図を売るにしても覚えておかないといけないことだろう。
「さて、話しているうちに大通りまで来ましたが……すごい人ですね。2人とも、ちゃんと手を握りあってください」
目の前に広がるのは人、人、人。馬車が5台は横並びで通れるだろう道に所狭しと人が行き交っているのが見えた。
「ブドウをおくれ」
「それは鉄貨2枚かかるよ」
「ベーコンを!」
「少しまけとくよ」
「痛いな!足ふんだろ!」
「卵6個で銅貨1枚?高い!」
「とんでもない!」
大きな声でいろんなやりとりがされているようだった。
「今の時間は飲食系のお店が仕切ってる時間帯みたいですね」
「なんというか、すごいね。僕こんなに人が集まっているの初めて見たよ」
そういって少しくらっとする。MAPで表されているのはもはや点ではなくグニャグニャと蠢く白い塊になっていた。
「ありゃ、もう人混みに酔いましたか……無理もないですか。流石にその状態であの地獄のような光景に行くのもあれですし、少し落ち着いてから買い物としましょうか」
「スズもそれに賛成なの」
そういって2人は近くにあったレンガ造りの花壇へ腰をかける。ここはその言葉に甘えさせてもらおう。謝ってから同じように座り、待つことにする。
「結構お金をもらいましたけどキルヴィはなにか買いたいものってありますか?」
「みてみないことにはどんなものがあるのかわからないや」
「まあ、そうですよね。……あ、ここからでも端の方の店は見えますね。あそこにある綺麗な水瓶にかかってる値段見えますか?」
そういってラタン姉が指差した先を見ると、ツムジさんの家にあったような壺があった。口のところに木の板で金貨5枚と書かれている。……金貨5枚!?
「見えたみたいですね。ただの水瓶でいいなら銅貨の範囲で買えますが、装飾などされてるとあんなに高くなります。屋敷にあった家具は覚えている限り、だいたい金貨10枚以上のものばかりでした。絵なんて40枚はするのです」
あまりの高値に頭が追いつかない。えっとつまり、凄まじい金額のものがあれだけ並んでいたということは……
「もしかしてツムジさんって大金持ち?」
「もしかしなくても大金持ちです。そしてアンジュはもっと持ってましたよ。図書室の本の数覚えてますか?」
図書室に所狭しと並べられていた本のことを思い出す。300はあっただろうか。
「薄い本でも銀貨くらいはするものだと考えてください。普通のなら20枚、魔導書なら金貨にも達します」
本や調度品は鑑定で出るステータスとは別の、お金持ちにとってのステータスみたいなものですねとラタン姉は言った。
「ちなみに家ってどのくらいするの?」
どう説明しましょうかね、と指を頬に当てラタン姉は考え込む。
「ピンキリなのです。手狭で、やすい素材だけで作ろうと思えば土地込みで金貨10枚でしょうかね?ツムジの家は50000枚くらいするんじゃないですか?」
「ごっ……」
ケタが違うことに驚いて絶句してしまう。それをアンジュさんはツムジさんにあげるつもりで貸してしまえるとは、一体アンジュさんはどれだけ資産があるのだろうか?
「すごいのです、スズのお父さんの稼ぎは狩りの結果いい時で月に銀貨20枚くらいでした……」
「村で暮らすにしては充分すぎる稼ぎなのです。スズちゃんのお父さんはよほど腕が良かったんですね」
ラタン姉がお金の話で落ち込んだスズちゃんの頭を撫でる。次第にこそばゆそうな顔に変わっていくスズちゃん。ラタン姉はこちらを見て、それから店の方を見てランタンの火を消し、ポンと立ち上がる。
「さて、キルヴィの顔色も良くなって来ましたし、人もさっきよりは少なくなりました。行きましょうか!」