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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
1区画目 幼少期
39/301

ツムジさんの家族

総合評価88!ありがとうございます。指摘、感想をいただけるともっと嬉しいです

「うちに来る商人がツムジじゃない時もあったって言ったろう?ツムジも立場があるからなかなか来れない時があったんだよ」


 アンジュさんがそう教えてくれる。


「駆け出しの頃から極力自分で行っていたし、どうしても用があって抜けれないと感じたときは信用の置けるやつをアンジュ様のところに送ってたんだけどね。それにつけてもラタン姉と会うタイミングはまっっっったくなかったわけだけど。ここのところは家内にこちらの仕事を全部任せられるようになったから駆け出しの頃同様アンジュ様のところに行けるようになったんだ」


 ツムジさんもその説明に加わりながら歩く。周りはいつしかしっかりとした石造りの建物ばかりとなり、道もどっしりとしたものになっている。その中の一つの門に手をかけるツムジさん。屋敷とまではいかないが確かに大きく、小さいながらも庭もあり、しっかりと手入れされた家のようだ。


「さ、これがウチです。少しここで待っててください、先に家族と話をしてきます」


 そうして馬車とともに1人、中に入っていく。クロムとスズちゃんはここに来るのも久しぶりだと話し合っていた。使用人としてのことを教えられたのはこの家でのことだと言う。


 しばらくするとツムジさんは女性を3人連れて出てきた。1人はツムジさんと近い年齢に見える。残る2人はだいぶ若く、どことなくツムジさんともう1人の女性の面影がある顔立ちをしていた。


「紹介します。アンジュ様はご存知でしょうが妻のヒカタです。そしてこちらが娘のイブキとナギです」


「お久しぶりですアンジュ様。夫のツムジが色々とお世話になっております」


 ヒカタと呼ばれた女性は深々とアンジュさんに頭を下げた。それをやめるように目の前で手を振りながらアンジュさんは答える。


「頭をあげてくださいなヒカタさん。こちらこそ、いつも辺境まで荷物を届けてくれるツムジに助けられてますから。イブキちゃん、ナギちゃん大きくなったねぇ!私のこと、覚えているかい?」


「お久しぶりですアンジュ様!小さい時からよくしていただいてましたのに忘れるはずがありません!」


「そうですよアンジュ様!遊んでもらった事もあるのに忘れられるはずもありません!」


 イブキとナギと呼ばれた女性が笑顔でそう答える。


「良い子に育ったみたいだ。ツムジ、それからヒカタさんの教育がしっかりしてたんだろうねぇ」


 しみじみとした感じでアンジュさんは頷いた。その言葉に照れた様子になるも、紹介が途中だからとツムジさんは続けた。


「アンジュ様とクロムとスズはもう知っているよな?ならこっちの利発そうな子がキルヴィ君だ」


 こちらに紹介が振られた。前に出て挨拶をする。


「よろしくお願いします、お世話になります」


「最近は夫がキルヴィ君の話ばかりしてたから、どんな子なのか気になっていたけれど……なんとなく、将来大きな事をする器に見えますね」


 ヒカタさんは僕の目の奥を見通したような顔でそう言った。不思議な目だなと感じていると、衝撃とともに突然視線が高くなる。


「わー、スズちんよりちっちゃーい!でも固〜い。これ筋肉かな」


 どうやらナギさんに抱き上げられたようだった。あちこちまさぐって肌触りの感想を述べられても困ります。助けを求めるべく周囲を見渡す。


「こらナギ!はしたないですよ……キルヴィ君、あとで私も抱きついても良いですか?」


 たしなめているように見えて実際は自分もやりたくてしょうがないというのが顔に出ているイブキさんの姿があった。ダメだ、助けにならない。クロムとスズちゃんの方を見る。クロムは顔を反らし、スズちゃんは遠い目をしていた。……あれは何かを諦めたような目だ。それだけでここにいた頃のスズちゃんの扱いがわかる。慣れている筈の彼女がそれというのは今後僕はどうなってしまうのだろうか。軽く絶望が襲ってきた。


「イブキちゃん?ナギちゃん?お客様に何をしてるのかなぁ?」


 万事休すと思われたその時、スパコーン!と気持ちの良い音とともに解放される。見ると頭を抑えるナギさんと、目の笑ってない笑顔のヒカタさんがセンスを構えている。どうやらそれで叩いたらしい。慌ててイブキさんが私はやっていないと弁明するも、再びスパコーン!という音が夜の町に響いた。


「……娘がすまないなキルヴィ君。年頃の娘だというに、これと言った縁談もなくさらには子供に目がないんだ」


 今まで聞いたことがないくらいにツムジさんが申し訳なさそうな声を出す。アンジュさんが小声でさっきの評価をちょっと訂正しないといけないかもねと呟いていた。


「さて、以上だ。では皆さんお待たせしました、中へどうぞ」


 そう言って中に案内しようとするツムジさんの袖を引っ張る者がいた。


「待て待て待て待てちょーっと待つのです。ボクは!?」


 なんというか、ラタン姉だった。


「あれ?まだいたのかい?早くしないと近場の宿が閉まっちゃうよ」


「まだ許されてなかったのです!?」


 ガーンという音が聞こえそうな表情のラタン姉、それをみてツムジさんがため息をついた。


「冗談だ。これがポンコツ……もといラタン姉だ」


「やっぱり許されてなかった!」


 そんなやりとりを見てヒカタさんはコロコロと楽しそうに笑った。


「あなたが、ラタンさんなんですね。まったく、あなたもいつまでもからかっていないの」


「そうはいうがな……」


 そのままラタン姉を含めて話し出すツムジさん夫婦。そこに復活したのかイブキさんとナギさんが近寄ってきてラタン姉を見つめてコソコソと話し合う。


「あれがラタンさんなんだね」


「お父さんも人のこと言えないよね」


「自分だって小さい子が好きなんじゃんか」


「初恋の人だから虐めたくなるのかな」


「「良い出会いないかなぁ」」


 ……最後にこちらを見てくる2人に対して、僕はなぜか悪寒を感じたのだった。


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