ツムジという男
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スフェンの町は夜だというのに明るく、とても賑やかであった。あちこちでお客を呼び込む声がかけられていて、その中にはツムジさんに対してお帰りなさいの声も混じっていた。それらに対して手を振って応じるツムジさん。
「うちの商会傘下の店ですね。ぼちぼち繁盛してます」
「さっきも気になったのですが、ソヨカゼ商会っていえばここ最近できた、商会主が一代成り上がりの商会のはずですが……ツムジはそこの上役なのですか?」
ラタン姉の問いかけに対しアンジュははて、と首をかしげた。
「なんでそこまで知っているのにツムジのことを忘れることができたのかね」
「それを承知の上で頼みごとをしてきたんだと思ってたのに……ラタン姉のポンコツ姉っぷりには俺も頭が下がるよ」
呆れた様子の2人からの返しに対し、ラタン姉はのけぞった。しかし倒れるかといったところで踏みとどまった。
「うぐぅ、突然2人していじめるのです。それよりもツムジ、質問に答えるのですよ!」
ビシィッ!と指をさすラタン姉の手を下げさせながらアンジュさんは呆れ顔で答える。
「自分が語った中に正解があるじゃないか……1代で成り上がった、その商会主こそがそこのツムジのことだよ」
「根回しとか横のつながりとかだいぶアンジュ様に助けられた覚えがありますけどね」
紹介されて頭をかくツムジさん。そのまま笑顔になりながらラタン姉に握手を求めるための手を差し出す。
「どうも、ソヨカゼ商会の主人をしてますツムジと申します。あれ、お嬢さん何処かでお会いしたことありましたか?いやーまさかまさか!はじめまして!」
ツムジさんの皮肉がかった言葉に対し、ラタン姉は両手で目を隠しながら震え始めた。
「うわーん、ツムジがいじめるのですー!」
「ちょっ、シャレにならないからごめんなさい、あー、大丈夫です、知り合いです!憲兵呼ばなくていいですから!じゃれてるだけです!はい!」
街中で突然大声で泣き始めるラタン姉に何事だと視線が集まったが、さきほどまでとはうってかわって慌てた様子で取り繕うツムジさんの様子で多少訝しがりながらもそれぞれの行動に戻っていく。しばらくしたらほとんどの人がもう気にしてない様子であった。この街ではこういったことは日常的に行われているのだろうか。
ぐしぐしと顔をこするラタン姉だったが、涙の跡は見られなかった。ついでに言うと口の端がわずかにつり上がっている。
「くそう、嘘泣きかよ……ポンコツ姉あとで覚えとけよ」
ツムジさんがボソリとつぶやき、アンジュさんはスズちゃんにあんな風になってはいけないよとラタン姉を指差しながら教えていた。
「ふっふっふ、女の子を侮ってはいけないのですよツムジ。こんな人通りのあるところでいじめたら一気に悪役に落とし込めるのです」
あくどい顔でそう答えたラタン姉に対し、みんなの目は冷ややかなものになった。ツムジさんも結構頭にきているらしく、顔がビクついている。
「そんなことを言うならもうラタン姉は他で宿を取ってくれ。よし、アンジュ様、みんな、うちに案内しよう」
ラタン姉に背を向けて、そのまま僕たちを自分の家に案内すると笑顔で言い出した。
「グフッ!?あ、あれー?ここでお姉ちゃんごめんなさいーってなるはずだったのに……ツムジー?ツムジくーん?いいのですかー?また泣き声あげちゃいますよー?」
思った通りの反応じゃなかったのかラタン姉が動揺している。脅し文句にしてもなかなか情けないことを言っている。それに対しツムジさんは一瞥すると、
「勝手にしてくれればいい。さっきはああしたけど、そんなに簡単に落ちぶれるほどの信用は築いてないから」
と僕たちを背中を押しはじめた。どうやら本気で置いていく所存のようだ。置いていかれると感じ、慌てて服の裾を掴むラタン姉。
「ええい、離してください!どうせ!俺は!ラタン姉にとって名前も忘れられる程度の存在なんですよ!」
「ちょ、ごめんなさい!ごめんなさい!ボクが悪かったです!ツムジ本当に申し訳ないです!」
ギャーギャーと騒ぎあいながら進んでいく2人。アンジュさんは深いため息をついたのであった。