町へ
2日目の朝。食事をとりながらツムジさんが言うには道中何事もなければ夕方に町へ着くらしい。村よりももっと人が集まった活気のある場所らしいので、どんなものか楽しみである。食事を終え、身支度を整えてから馬車に乗り込む。名残惜しそうに村から出るクロムとスズちゃんだったが、すぐに気持ちを切り替えたようだ。久々の町についてあれこれ話している。
「2人は町にいたことがあるの?」
「あるよ。と言うよりも町にあるツムジ様の家で使用人のあれこれを住み込みで教えてもらっていたんだ」
「あのね、ツムジ様の家も大きくて立派なの。町の中だから、あの屋敷よりは小さいけれど。ツムジ様はお金持ちなの」
スズちゃんの言葉に馬車を運転しているツムジさんが突然、笑い声をあげる。いきなりどうしたのか尋ねてみるとごめんごめんと謝りながら
「いや、実は俺の住んでる場所なんだが本当は俺の持ち物じゃないんだ。使わないからって貸してもらっているだけなんだよ」
と教えてくれた。その言葉にクロムとスズちゃんは驚いた顔になる。
「あんな一等地にあって大きな家を使わないからって貸してくれる人が居るんですか?」
「いるよ、そこに。2人の目の前に本当の持ち主がね」
クロムとスズちゃんは前を見る。そこには我関せずといった顔をしていたアンジュさんがいた。2人に見られていることを感じ、ふぅ、とため息をつく。
「あの家は確かに元々はうちのものだったけど、もうツムジの物だっていってるのに貸してもらっているんだって聞きゃしないんだよ。困ったものさ」
「「えっ……ええーっ!!??」」
つまりは、アンジュさんは屋敷から出たツムジさんに自分はもう使わないからと町にある家を譲ったらしい。そのことに対してクロムとスズちゃんは信じられないと言わんばかりの顔をしていた。
「町の一等地の家をタダ同然ではいどうぞって言われても困ってしまいますよ……いやはやほんと、アンジュ様には足向けて寝られませんよ」
ツムジさんの追撃にさらに目を見開く2人。物の価値をよく知らないから驚くに驚けないが、おそらくとてつもなくすごいことを言っているらしいというのはわかった。ラタン姉は話についてきているのかと見てみる。アンジュさんの方を変な目で見ていた。アンジュさんもアンジュさんで何か意味がありげな目の動きをしている。しばらく目と目の応酬をしていたがラタン姉が諦めたようにブンブンと首を振り、ため息をついた。
「キルヴィ、町についたらボクと2人で買い物に行きましょう。金銭的に規格外の人といると価値がわからなくなるものなので、庶民的なボクが物の価値について教えてあげるのです。そしたら今クロム達が感じているような気持ちがわかるのです」
僕的にはラタン姉も大概な気もするが、確かに今後役に立つことなのでしっかり勉強させてもらうことにする。
その時、MAPの進行方向上に最初から赤い点が3つ写ってきた。鑑定で人の名前が出る。
「ツムジさん、気をつけて。進行方向に最初から敵対状態の人がいるみたいだ」
「……ここからだとまだ見えないな。距離と数はわかるかい?」
「距離は6キロ先、数は3。この道なりにある木に隠れているみたい。道の地形の一部が大きな穴になっていてそこに何か薄いものを置いてる感じのところがあるね」
「野盗の類で落とし穴の罠付きか。最短距離の道はこれだけど、少し遠回りにしようかな……ありがとうキルヴィ君」
そういって少し道をそらすツムジさん。相手は気がついてないのかそれとも他の獲物を待つのかはわからないが、動く様子はなかった。
「……改めて、キルヴィのそのスキルは旅をするのに向いているものだと感じますです。地形を知るのもそうですが、罠や野盗の類を事前に察知して回避できるなんて、世の旅人は皆喉から手が出るほど欲しがるスキルですよ」
「それには同意だが、透明化ができるラタン姉も俺からしたら羨ましい限りなんだがなぁ。ああ、何故俺にはそんな便利なスキルがなかったのか」
そんなこんなで、すっかり日が暮れた時刻になり、予定よりは少し遅れてしまったものの無事に町に着くことができたのであった。町の入り口には門があり、そこには武具を身につけた2人の男が立っていた。町に入ろうと近づくと静止の声がかかる。
「あー、止まってください。夜分の旅、お疲れ様です。身分を証明できるものはお持ちですか?」
優しそうな顔のお兄さんがそう尋ねる。ツムジさんは何やらカードのようなものを取り出し、その人に見せた。
「この街のソヨカゼ商会のツムジ様でしたか。失礼いたしました。残りの方もお願いいたします」
「ああ、それなんだがこの子は町に来るのが初めてでね、ステータスカードを持ってないんだよ」
ステータスカード。それが先ほど見せていたカードの名前らしい。周りを見るとアンジュさんやラタン姉、クロムとスズちゃんの2人もそれらしいものを持っていた。
「そうでしたか。こんばんは、ボク?ちょっと鑑定してもいいかな?」
目線を合わせて話しかけて来る優しそうな顔のお兄さん。頷いて肯定する。鑑定といえばラタン姉にされた時のような光は飛んでこないが、あの時感じた何か見られているような感覚はした。その間にもう片方の少し強面のおじさんが残りの人のステータスカードを見ているようだった。
「よし、キルヴィ君だね?このカードを無くさないで持っていてほしい。このカードが身分の証明に……ああいや、とにかくだいじなものなんだ」
鑑定が終わったらしい。ラタン姉と違って最後まで光が飛んでこなかったが、いつの間に終わったのだろう。そして渡されるカード。そこには名前と年齢、犯罪歴と所属と書かれた欄があった。後ろ2つは空欄である。大事なものらしいのでしっかりとしまいこんでおくとお兄さんはニッコリとしながら頷いてくれた。
「お引き止めしてすみませんでした。それではツムジ様、お帰りなさい。そして他の皆様ようこそスフェンの町へ!」
ようやく町までたどり着けました!