兄妹の行方
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ツムジさんに連れられて皆で歩く。いつも騒いでいるラタン姉もおとなしくしている。
「お父さん、お母さん。久しぶり……半年ぶりだね。わた……僕もスズも、この通り元気だよ。雇い先に恵まれて、すごく良くしていただいてるよ」
「スズね、文字を読めるようになったし背も伸びたんだよ」
墓地と呼ばれる場所で石に向かって語りかけているクロムとスズちゃんの姿があった。アンジュさんが後ろから花束をその石の前に供える。2人とも驚いたようにアンジュさんを見上げたが、すぐに感謝の言葉をつげ、再び石に向き直る。2人の肩にそっと手を回すアンジュさん。そして石に向かって挨拶をする。
「はじめまして、クロム君とスズちゃんを雇わせていただいているアンジュと申します。突然の訪問な上、このようなもので申し訳ありませんがお納めください。2人ともとてもよく働いてくれるので私は助かってます」
3人とも、まるで人のようにその石を扱っていた。どういうことなのかラタン姉に尋ねてみる。
「もしかしてメ族にはお墓の概念ってないのですかね?あれは死んでしまった人を想い、死体の骨などを埋めた場所にシンボルを立てたものです。故人と対話するていをとることでその人に感謝し、自分の気持ちを整理したり行うのです」
この墓地というのはその墓の集合体なのだという。しかし死んだ人を想う、か。聞いたはいいが、ピンとこなかった。死んでしまったら誇りに殉じれたかどうかという考え方であるメ族では考えもつかないだろう。せいぜい、自分よりも先に死んでしまった子がいた親くらいしか、死者を強く想う事などしないのだ。死体は離れに捨てる。そのうち森が分解してくれるからだ。
「この世界の国に左右されずに広がっている数少ない共通思想なのです。でも時々キルヴィが教わったような考えの集落……というか、死の概念が薄い精霊みたいな存在はだいたいそんな感じなのですよね。死と密接である人の間には根強いです」
ボクはアンジュの家族と一緒に長く暮らしたから死者を尊ぶ思想が普通だと感じるんですけどね、とことわりがはいる。まだ全然理解が及んでいないが、そのうち僕にもわかる時が来るのかも知れない。
「皆ついて来ていたんですね。わざわざ足を運んでもらってすみません」
終わったのか、クロムがこちらに向き直り深く礼をする。
「いや、すまない。家族の対話の時間に水を差すような真似をしてしまったかな」
「ちょうど皆さんのことを説明していたので、良かったです……今日のこの後の予定は?」
「宿を取るだけだね。そんなに長旅でもないから買い込みも少ない」
リストを開き、今日はこれ以上予定がないことを確認するツムジ。自由時間はまだあるようだった。
「それなら、この村をよく知らないキルヴィ、様に案内する時間はあるんですね」
その言葉に反応したのはアンジュさんだった。
「ああ、色々と初めて知ることがあるだろうから、それを教えてあげてくれると助かるね」
「かしこまりました。行こう、キルヴィ、様」
「……仲がいいのは知ってるからその取って付けたような様呼びはしなくてもいいんだよクロム?」
「……かしこまりました」
そこからはクロムとスズちゃんに村を案内してもらった。先ほどアンジュさんが花束を買っていた花屋もそうだが、この村にはお店がいくつかあり、それぞれ売られているものが違っていた。村の中を見て回っているとクロムやスズちゃんに対して何度か声をかけられる。いずれも最近どう?とか元気?といったものであった。気にかけてくれる人がいるだけ嬉しいよ、とはクロムの言葉である。
村の隅々まで案内してもらい、最後に宿屋に着く。ここは寝る場所を提供してくれるお店らしい。中に入るとラタン姉が待っていた。ラタン姉に案内され、部屋に通される。屋敷の物より質素だが、しっかり手入れされたベッドのある部屋だった。
「大部屋ではなく、私たちも個室ですか。ありがとうございます」
「お礼はアンジュに言うといいのです。もっとも、なにを当たり前のことを……と言われると思いますよ?」
アンジュさんの声真似をするラタン姉。意外にもよく似ていた。それから食事をとり、旅の1日目は終わったのであった。