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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
1区画目 幼少期
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V.S.クロム

2話連続投稿です

 翌日の朝、昨日泊まり込んだツムジさんを含めて食堂で朝食を食べていると目の下に隈を作ったラタン姉が現れた。そういえば本を渡されてから一度も見かけていなかったが今までずっと魔法と向き合っていたのだろうか?フラフラとした足取りでこちらまで来る。


「ツムジ……アンジュ……ちょっとこっちに来て欲しいのです」


「お、おいおいラタン姉よそんなフラフラになるまで続けていたのか?」


「ボクのことはどうでもいいのです。試したいので早く来るのです」


「ツムジ、こりゃだめだね……いつものスイッチが入ってるからさっさとついていってしまったほうがいいよ」


 そうして大人組はバタバタと食堂から出ていく。自ら欲して魔法を覚えたのに対してうかない顔をしていたように見えたのは気のせいだといいのだが……。


 そのままにしていても良いことはないので取り残された子供組で後片付けを行う。用意されていたラタン姉の分の料理に関しては蚊帳をかぶせておく。そこから今日は何をするのかを話し合うことにした。


「私は掃除なり昼の仕込みなりするべきことがあるので、スズとキルヴィで遊んでいてくれればいいと思うけど」


 クロムはそう言うが、遊ぶのならば皆で遊んだほうがいい。なので手伝うことで早く終わらせ時間を多くとれるようにしようということで落ち着いた。


「スズ、昨日のすごろくってやつをやってみたい」


 そういえば魔法を覚えようと図書室に思いを馳せてしまったため、ツムジさんが新しいおもちゃを持って来てくれたのにちゃんと聞いていなかった。少し申し訳ないことをしてしまったのであとで謝ろうと思う。


「じゃあ3人で手分けをしてやろうか。私は料理を担当するので、2人には掃除を担当して欲しい」


 年長のクロムが仕切る。彼はいつの間にか清掃用具を抱えていた。ご丁寧なことにきっちり絞った雑巾まで持っている。


「わかった!じゃあどっちが早く終わるか競争だよお兄ちゃん!よーいどん!」


 掃除道具を受け取るなりクロムにそう言い残して返事も待たずにスズちゃんは駆け抜けていった。後に残された2人で苦笑しあう。


「競争だってさクロム。こっちは2人がかりで、もうスタートしてるみたいだけど」


「やるもやらないも聞かずに突っ走って行っちゃったなぁ。言っては悪いけれど、我が妹ながらここの人たちに感化されすぎだと思う」


「ラタン姉とか?」


「多分に君も含むよキルヴィ」


 心外な。僕だって人の話くらいはちゃんと聞いてるはずだ……多分。でも、競争するぞという気概でやれば早く終わらせようと努力できるのでいい考えだとは思った。クロムももちろんそれはわかっているようだ。一つ大きな伸びをしてから踵を返す。


「さて、では始めますかね」


 こうして、僕たちの戦いの幕は上がった。まずは掃除道具一式を持っていってしまったスズちゃんに追いつくことにする。スズちゃんはいつの間にか両手両足に雑巾を装備して廊下を掃除する姿勢となっていた。あの兄にしてこの妹である。多分にクロムも間違いなく含まれているだろうと苦笑する。


「キルヴィ様、スズがこの廊下をダーッてやっちゃうので空いてる部屋をやってもらいたいの」


「わかったよ」


 はたきなどを受け取り、分かれる。スズちゃんがすごい勢いでまた進撃を始めるのをみるが、完全に磨き上げられていた。……あれでしっかり掃除ができるのだからすごいと思う。僕が真似したところでぐっちゃぐちゃにしかならないだろう。自分は自分のできることをしよう。


 途中ラタン姉の部屋の前を通る。ツムジさんが泣いてるような声が聞こえた気がしたが、大人の話し合いに首を突っ込むべきではないだろうし今は競争に集中しよう。


 半分ほど終えたところで少し遊びごころが芽生えてきた。水魔法を薄く使ってみたらどうなるのか気になったのだ。うまいこと制御して魔法を発動させる。すると埃や汚れが水によって浮いてきた。それらをさらに制御して一つにまとめて宙に浮かべ、庭に放つ。後には綺麗になった部屋だけが残された。


 こうすれば魔法の特訓にもなるし先ほどよりも早く掃除ができる。残り半分も急いで終わらせ、同じくほとんど終わらせていたスズちゃんと合流する。


「屋敷のなかはコレで綺麗になったのです!カンペキなのです!」


 スズちゃんは胸を張る。……疑問に思ったのだがこの競争、相手のところに早く顔を出しに行けば勝ちということでいいのだろうか?とりあえずその程でクロムのところへ行こうと促す。


「こんなに早く終われたのだからスズちゃんたちの勝利は揺るがないのです!」


 すごく自信たっぷりに言うスズちゃん。確かにそんなに長くはかかっていないだろう。時計の針を見るに1時間経ったかそれくらいである。クロムの元へいって、できることがあるなら手伝おう。そう考えて厨房へ顔を出す。


「おや、もう終わったのかい?」


 そこにはお茶を片手にリラックスしているクロムの姿があった。


「ええーっ!お兄ちゃん、準備はどうしたのですか!?競争してるのですよ?」


「ああ、終わったよ。私が探しに行くよりも2人が終わったならこっちにくるだろうからこうして待っていたのさ」


 クロムの後ろを見る。スープやサラダなど、質素だが十分な量の美味しそうな食事が盛り付けられるのを待っていた。……一緒に生活をしていて時々思うのだが、この兄妹は時間でも止めれるのではないかと言うくらい家事をあっという間にこなすところがある。どうしてそんなに早くできるのか、尋ねてみた。


「え?……いやいや、これでも遅いくらいだよ。ツムジさんはもっと早くできるからね」


「あれは真似できなかったのです」


 どうやらツムジさんの仕込みらしい。……いやいや、ハイスペックすぎるだろう。これ以上早くできるのか。


 さらなる疑問が生まれたところでこの勝負、僕たちの負けで幕は降りたのであった。

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