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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
3区画目 新婚時代
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誕生と再会

 とりあえずやる事としては、だ。スズちゃんの体調を伺い共に行けるとの事だったので、いつの間にか布団を抜け出していつものようにと屋敷のテラス部分でトワの精霊石と共に夜風に当たっていたラタン姉の元へと突撃を行った。


「おや、二人ともどうしたのですか?眠れなかったのですか?」


 今まで僕達が未来に召喚されていたなんてつゆ知らずのラタン姉に二人がかりで無言で抱きつきにかかる。


「えっ、えっ。本当にどうしたと言うのですか。何か言ってくれないとわかりませんです、怖い夢でも見ましたか?」


 オロオロと、すごく戸惑った様子になって心配するラタン姉だが、僕達はお構いなしにひっつきまくる。


「結婚してくれてありがとうラタン姉」


「トワちゃんを産んでくれてありがとうラタン姉」


「何でまた、今その事を振り返ってお礼をしてくるんですか二人とも……ボクこそ二人に感謝してますですよ。勿論、トワにも」


 当たり前のことを今更お礼されてもと、彼女は照れると言うよりはあらあらと困ったような優しい笑みを浮かべ、こちらにお礼の言葉を返してきた。


 少なからず衝撃的である、先程まで経験してきたあり得た世界の顛末にならない為にも説明を行わなければならないが、はたして彼女にどこまで話して良いものか。


「ラタン姉、あのさ……」


 話始めようとしたその時。トワも起きていたのか、それとも起こしてしまったのか。精霊石が間隔の長い明滅を繰り返しはじめた。こんな事は今まで起きなかった。心配になってラタン姉に尋ねても「ボクにもわからないのです」と不安そうな顔で返される。


 トワの精霊石は抱えていたラタン姉や僕達から距離を取るようにひとりでに転がり落ち、言葉を発することもなく、長い間ゆらゆらと揺れて、宙へと浮かんでいく。そして一際強く輝いたかと思えば、そこにはアンちゃん位の背格好の、幼い少女の姿が現れた。


 突然始まった事に驚いたが、これが精霊の、僕の娘の誕生なのか。はじめての体験に居合せられた事に胸の奥がジーンとなると共に、先程まであっていたモニカが重なって見えてしまう。容姿を付け加えるのであれば、ラタン姉の魔力だけで育ったモニカよりも、スズちゃんや僕の魔力を栄養としたおかげか鮮やかな紫の中に黒髪が混じった、綺麗な髪色をしている。


 トワの瞼が震え、目が開く。スズちゃんに似て少しつり目の紫色の瞳がキョロキョロと周りを見渡し、そして状況を理解しきれていないといったようにコテンと首を傾げてみせた。


「まさかの成長速度に驚きが隠せませんが……ボク達の元へ、生まれてきてくれてありがとうなのです、トワ」


 ラタン姉はそんな目覚めたばかりのトワの後ろから、愛おしそうに抱きしめる。そのまま抱き上げると、僕達の方へと向けて説明を始めた。


「ほらトワー?キルヴィお父さんなのですよー」


「キルヴィ、おとうさまー」


 よかった、さっきは話さなかったから少し不安であった。肉体を持ったからか、これまでよりも少し舌ったらずな感じで僕の名前を呼ぶ。僕はそれに頷いて応える。


「しっかりと挨拶ができて偉いのです!こっちがスズお母さんなのですよー」


「スズおかあさまー」


 よくできました、とスズちゃんがトワの頭を撫でる。えへへと顔を綻ばせるトワに癒される。なんだ、ここが天国か。抱えたトワをくるっと自分の方へと向けて、満面の笑みをラタン姉が見せる。


「そしてそして、ボクもあなたのお母さん。ラタンお母さんなのですよー」


「ラタン」


「「「えっ」」」


 それまでの少し舌ったらずな間延びした呼び方ではなく、ピシッと低く短く言い切るトワに驚く。少し怖さを覚えた位だ。


「ラ、ラタンお母さんですよー?」


「ラタン」


「なんでボクだけ呼び捨てっ!?」


 ラタン姉がめげずに再挑戦するも、先程同様に呼び捨てにされる。トワはそのままイヤイヤともがいて、ラタン姉の腕から離れ自分の足で立つ。そして険しい目つきでラタン姉を一瞥する。


「じゃ、じゃあ僕はー?」


「キルヴィおとうさまー!」


 ニパッと眩しい笑顔で呼ばれる。我が娘ながら可愛過ぎてつい抱きあげてしまった。


「私はー?」


「スズおかあさまー!」


 隣に来たスズちゃんが呼びかけると、嬉しそうに手を伸ばし、そちらに移る。スズちゃんの腕の中でも屈託のない笑顔を咲かせるので、僕達もつられて笑顔になる。


「うんうん、じゃあボクはー?」


「あの女」


「名前ですらなくなったのです!?」


 流れ的に行けるだろうと踏んだラタン姉であったが、先程までの笑顔がスンと消えてしまったトワに一蹴される。これが噂に聞く反抗期なのですかー!?と悲しむラタン姉であったが、娘から出てきた言葉に僕とスズちゃんは驚きを隠せなかった。もしかしてこの子は!


「まさか、おとうさんたちにまたあえるとは」


「あなた、モニカなの!?」


「はいー。とはいえ、なんでこうなったかわかりませんし、いちじてきなものかとー」


 そこに居たのは、僕達にとってはついさっきまで話していたモニカの精神が宿っている、こちらの世界のトワであった。

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