新しいオモチャ
盗賊団騒動が終わり、一週間が経つ。いつもよりもたくさんの荷物を抱えて満面の笑みでツムジさんがやって来た。
「いやぁ、報酬金はすごいものでしたよ。今回はアンジュ様達の取り分と前回不十分だった物資を届けに来ました」
上機嫌なツムジに対するは、頬を膨らませているラタン姉だった。すごく不機嫌そうである。
「誰の声を聞いてしまうと死んでしまうっていうのですかツムジ?まるでボクが悪霊のような言い分だったじゃないですか」
「はっはっは、いい脅しになりました」
「むうううう!」
ブンブンと腕を振り回すラタン姉にツムジは持って来た荷物から古ぼけた一冊の本を取り出し投げ渡す。
「そう怒るなって……頼まれていたもの、見つけたので勘弁してください」
「!これは……し、仕方がないですね許しますよ。よくやってくれたのです」
本の中をパラパラと見て機嫌が良くなる。そしていそいそと自分の部屋まで戻っていってしまった。
「いったい何をあげたの?」
ラタン姉が落ち着きのないのはいつものことだが、あんなにもころっと感情を切り替えるのは見たことがない。気になったのでツムジさんに聞いてみる。
「あー、なんでも新しい魔法を覚えたいってね。ここにある本はもう読んだことがあるってんで頼まれて、外で探し回っていたんだよ」
少し言葉を選んだように感じるが、ツムジさんがそう教えてくれる。しかし新しい魔法か。せっかく自分の素質がわかったんだから自分にあった魔法を覚えるのもいいかも知らない。
「君たちには新しいボードゲームをあげよう。これはすごろくといってね、このダイスを使って……」
ずらっとオモチャを並べ始めたツムジ。クロムとスズちゃんはどんな遊びなのかと興味深そうに眺めているが僕は今回そこまで気が惹かれなかった。魔法のことで頭がいっぱいになってしまったのだろう。図書室に向かう旨を告げ、その場を後にする。
土属性と水属性、いったいどんな魔法があるか楽しみである。
◇
「ありゃ、気に入らなかったのかな……」
去っていってしまったキルヴィの背を見ながらツムジは呟く。人数が増えたからと多人数でも遊べるゲームを探して来たつもりだったツムジにとって、少しもの悲しさがある。
「いや、あれは新しいオモチャを手に入れたような顔に見えたよ。変なところがラタンに似て来たかもしれないねぇ」
ため息まじりに、それまで黙って見ていたアンジュがツムジの肩にポンと手を置いてみせる。それからクロムとスズに聞こえない小さな声でツムジに言う。
「ありがとう。ラタンが回復魔法を探して貰っているっていってたが早く見つかったね」
「私もアンジュ様に良くなってもらいたいと思ってますし、前回変なことを言ってしまった手前ラタン姉がどん底まで落ち込むかもしれないと思って、少し頑張りました。あとはその病に効くか、ですね……」
「今も鎮痛の魔法かけて貰っているからね。きっと大丈夫さ」
そう言ってツムジの背中をひとなでしてトンッと押す。
「あんたらにそこまでして貰ってるんだ、こりゃ当分死ねないね」
そう言って笑顔を見せるアンジュであった。
まだまだ幼少期は続きます