託された道
「あんなに強くて、愛国心の高いオスロさんが国に戻ることができなかったって……帰りの道中で何があったんでしょうか?」
スズちゃんも僕と同じところを疑問に思ったようだ。力だけでなく、ジ族である彼の情報収集能力は高い。途中で罠を仕掛けていたとして、それを看破できない彼ではないと思うのだが。
「私は直接会ったわけではないですが、お父さんやクロムさんを追い詰めたこともあったほど強かったのだとお母さんから聞かされました。でも、ノーラを攻める際にお父さんの前に立ちはだかることも、合流することもなかったんです」
消息不明、という事か。僕が知っている彼の矜持的に命惜しさに逃げ出したという事はありえないだろう。戦える最後の1人になってでも、国や家族の為に立てる男だ。そうなると、国に帰るまでの道中でやはり何らかの理由で戦闘不能、もしくは死亡した可能性が高い。
ジ族なのに害意を読めなかったとなると、自然災害、こちら同様に心聞による看破が効かない人形使いによる罠、若しくは同等の力を持つ相手、例えばリリーさんと正面からぶつかった?これが人為的なものであるならば、オスロの事を危険視しているという事だ。その仮定で言うならタイミング的に僕と繋がられると困る、というのも知っていて手を打った敵なのだろう。
知らなければそのまま過ぎていた出来事だったが、まだ間に合う可能性があるというわけだ。オスロから貰ったブローチ。それで短時間でも連絡が取れたなら、オスロなら対策を取れるだろう。大まかにでも位置を教えて貰えば飛んで行くことだって出来る。オスロに問題が起きていなくても、今の僕の現状を話せば相談に乗ってくれるかもしれない。最も、高くて希少と言っていたからそんなことで使うなと彼は嫌がるだろうが。
「託す、というのはこれのことか?」
ともかく、現状打つ手が見えなかった僕にとって、これはようやく巡り会えたフネイに対する未知の選択肢であった。
「リリーさんしかり、オスロさんまで。ことごとく先にキルヴィ様の暴走を止められる人間が消されていますね。いや、ラタン姉が最期にとめていますか」
ラタン姉が僕を止めた方法だが、謝りながら燃え尽きたという状況からするにグラウンさんが言っていた精霊石による対アードナー用の攻撃のものだろう。僕が自分のせいで囚われ、更に心が病んでMAPに反映しない状態であるならば、透明化さえしていれば暴走している僕では接近に気が付かなかっただろう。
「でも、気になるのは精霊石でなくランタンで攻撃してなんですよね。割と武器として使っていた覚えもありますし、誤射が起きない仕組みとかもあるんでしょうか」
顎を指で挟んで首を傾げたスズちゃんの疑問に、自身も精霊石を持つモニカは「ああ」とわかっているように頷いた。
「精霊同士だからかそれとも一応は親だからかはわかりませんが、ラタン、さんの本体の精霊石があるのはランタンだったって知識があります」
「「ええっ!?」」
スズちゃんと同時に驚く。以前ラタン姉からは精霊石とは人で言うところの心臓のようなものと言っていたから、てっきり人体と同じ位置にあると思っていたのだ。アイデンティティであり命の次に大事なものという認識で考えていたがまさかの命そのものであるならば、あんなにも頑なにランタンを他人に触らせたくない理由が頷ける。逆に、いくら心を許しているからと僕やスズちゃんによく触らせてくれるなとすら思ってしまう……いや、だとしたら武器として扱うのもどうなんだろうとは感じるが。
「だからトワちゃんの精霊石はランタンから出てきたんだ……あれ、モニカ?」
何故か顔を赤くしている事に気がつき声をかけると、恥ずかしさからかモニカは顔を逸らした。
「その、自分のことながら生まれた時の事を説明されると流石にラタンさんに同情するというか」
首を傾げる僕に対して、スズちゃんは理解が及んだのか気の毒そうな感じになった。どういうことかと耳打ちしてくれないか頼むと、身内とはいえ大勢の前で公開出産をしたに等しいのだと言う。……思い返せば確かに、子供が生まれたという嬉しさが来るよりも先にラタン姉は恥ずかしそうにしていた。
「カシスさんがそのことに思い至ったら喜びそうだ」
「変な飛び火を起こしそうなのでくれぐれも説明するのはやめて下さいね」
変なことが頭によぎってしまい口をついて出てしまったがスズちゃんに釘を刺される。僕とてそんな事は望んでいない。
「あれ?でもお風呂とかには持ち込まなかったりしていたけど肉体と離れていても大丈夫なものなの?」
「そのくらいの距離なら大丈夫ですし、多分短期的に精霊石を肉体に移したりしていたんだと思いますよ。すぐに動かせるわけではないですけど、急所を動かせるので人と比べると肉体的な縛りは割といい加減だと思います」
極端な話だが胸や頭を潰されてもそこに精霊石がなければ人とは違い簡単に死にはしないそうだ。とはいえ痛みを感じないわけではないので、ショック死する可能性もあるらしいのだが。
「お父さんの好きな人の正体はランタンでした、ってなってもまだラタンさんの事は好きでいられる?」
あまり父をみくびらないでもらいたい。これ
までの様子からラタン姉の事を言っているように見えて自分もまたその人外の娘であり、嫌わないで欲しいと思っているのを読み取れないほど、まだ僕は落ちてはいない。そう思ってモニカを強く抱きしめると、気取られたのを察知したのか「そうじゃないもん」と少し膨れながらも安心した気配を感じた。




