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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
3区画目 新婚時代
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きざし

 トトさんに作ってもらった料理を啄みながら螺鈿細工についての説明を聞いていく。一応これが実物だよと言って、彼は年季の入ったナイフの鞘の部分を見せてくれた。それは質素ではあったが味があるもので、この辺りでは珍しく見える事だろう。


「出来がイマイチなのは目を瞑って欲しいかなー。見様見真似で作った、最初の作品だから」


 聞いてみるとどうもアムストルに流れてすぐの頃の作品らしく、言われてみればなるほど、どことなくぎこちなさが見えてくる。初心を忘れないようにとその頃のものを手放さないあたり、トトさんの人となりが伺えるだろう。


 それに、トトさんはイマイチな出来だと言ったが、見様見真似でも手先が器用であればこれくらいのものができると言う指標があるのはとても大きかった。


「何度もやるうちにコツは掴んだし流石に今はこれと比べればまともな物が作れるよー。後は細工を施す物と貝殻次第かな」


「となると、少し活路は見えましたね。キルヴィさん達の住む森から木材、貝殻、他魔物素材の収集をグリム内で行えれば仕入れの費用をだいぶ抑える事ができるでしょうから」


 ヨッカさんが情報をまとめてこれからの算段を立てる。まだまだ不透明な部分ばかりだが、光明が見えたのは大きい。


 当たり前の話ではあるが、素材にも向き不向きはある。トトさん自身がジャンボターボの実物を見た事はないので、こればっかりは想定できないのだ。そうなると海までのルートを開拓するか、別のものを代用することも考えなくてはならないだろう。だが、それは現段階ではまだ考えない事にしよう。


「さて、と。難しい話もひと段落ついたところでそろそろお暇しませんかキルヴィ?」


 食事を摂れた事で満足したのか、それとも久しぶりの2人だけの時間が待ちきれないのだろうか。ラタン姉は僕の袖を引っ張りながら少しだけ甘えた声を出す。そういえば我らがリーダーは新婚さんだったねとグリムの面々は苦笑い気味ではあったが察して話を切り上げてくれた。


「あー、ごめんなさい皆さん。とりあえず次はまた近いうちに来ます。それまでにグミさんに確認や貝のことも調べてきますね。ロイさんやトトさんも改めてよろしくお願いします」


「任されたが、こっちにももう少し頼ってくれていいからもうちょっと気楽に行こうキルヴィさんや」


「グリムの面々はなんだかんだ大人になるまで生きてきた人達です、今の境遇で失敗なんてそうそうないですから家庭を第一に考えてあげて下さい」


 そう言って貰えると素直にありがたい。


 グリムハウスにいた他のメンバーにも一通り挨拶だけ済ませてまわる。途中メンバーの数人からこんな物を個人としてではなくグリムとして売ってみてもいいだろうかと提案があったことには驚いた。彼らも彼らなりに運営を考えてくれているのだと改めて実感し、感謝と共にまずは試してみようと許可を下しこの日はグリムハウスを後にしたのであった。


「さて、ここからどうしよっかラタン姉。街を離れる前にツムジさんの家にでもよる?」


 歩きながら僕の肩へと頭を寄せてくる妻に、抱き寄せ顔を近づけてそう尋ねる。


「キルヴィがそうしたいのならそれでも良いですけど。たまにはこうして、のんびりと2人で歩きたいのです」


「そっか、じゃあ今日は寄らずに街並みを見て、食べたいものがあったら買い食いとかして過ごそうか」


 賛成なのです!とコロコロと楽しそうに笑うラタン姉。しばらく歩いてからそういえば、とスズちゃんの不調についてを尋ねてみた。するとラタン姉はちょっと困った顔をして見せたが話し始めた。


「あー、あまり表でする話ではないのですがね……カシスの自殺未遂のこと、覚えてますですか?」


 勿論だ、あんな衝撃的な事はなかなか忘れられないだろう。切羽詰まっていたとはいえ、カシスさんの剣を握り止めた時はなかなかに痛かった。


「あれはカシスが自身は妊娠しているとわかったから起きた凶事だったのです。じゃあなんでわかったと思います?」


「たしか、つわり?って言っていたような」


「まぁそれも間違いではないのです。つわりっていうのはなんといえば良いのでしょうか……ともかく、お腹に子を宿した時に気分を悪くしやすくなる症状なのです」


 その言葉にドキリとしてしまう。スズちゃんの不調はつわりではないかと思ってしまったのだ。時期を考えるならまさか婚前の別行動の時に気がつかない内に何かを?


「早合点しないで下さい。そもそも妊娠するような行為は避けてきてますし、不貞だってする訳もないのはキルヴィもわかっているでしょうが」


 不安になった僕を嗜めるラタン姉。そうだ、そうならないようにお互いにセーブはしているのだ。不貞は疑ってすらいなかったが、そもそもその期間中は戦乙女の精であるリリーさんとも共にいたのだからそんな事をしていたら即バレしていた筈だ。


「じゃあ他の理由が?以前旅していた時にはそんな事なかったよね」


「ボクも経験した事はないですが、子を宿せる身体になったら毎月のように起きる現象なのです。症状が軽い人もいれば重い人もいるみたいなので難しいかもしれませんが、察したとしてもあまり触れてほしくはない事なのですよ」


 ラタン姉曰く、スズちゃんがそうなったのはごく最近だと言う。と言ってもアンデット討伐に行った頃にはもうなってはいたというので体調不良自体はもう何度も経験しているらしい。


「心配でしょうし気にするなとは言えませんが、気にかけられ過ぎるというのもそれはそれで負担になりがちですので……」


 どうしてあげることもできないのはなかなか歯痒いですよね、とラタン姉は少し遠い目をしながらそう付け足したのであった。

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