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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
3区画目 新婚時代
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閑話:イレーナ夫人の呟き

 見送ってから暫くして。お兄ちゃんは女子組を置いて見習い組達と共に今日の仕事へと戻っていった。ニニさんもルルちゃんを背負い、庭先へと出かけていったので、ここに残っているのは私と女子組だけである。


「あーあ、これさえこなければ一緒に行けたのに」


 一度始まってからは毎月恒例で少し慣れつつあるが、こればっかりは本当にどうしようもない。ついていく事自体は問題なくできるだろうが、万が一足を引っ張るような事態になっても嫌だしそもそも戦いの最中という避けようのない非常時というわけではないのだから、私は残る事にしたのだ。


 さて、と。決めたことをくよくよ考え込んでいても仕方がない。私も私のできることをやる事にしよう。そう思って見習い女子組に声をかける。


「はい、イレーナ夫人」


 私とラタン姉を区別するために、私はイレーナの姓を。ラタン姉はアースクワルドの姓をそれぞれキルヴィ様からもらった。外に出た時にそう呼ばれても反応できるように、昨日からそう呼んでもらっているのだ。


「あはは、そう呼ばせているのも私なんだけど、やっぱり少しこそばゆいね。今日は一日よろしくね」


 私の言葉に恭しく礼をとる女子組。少し前まで自分もそちらの立場だったこともあってだろう、なんだか親身になって色々と教えたくなる。


 とはいっても、見習いではあるが彼女達も使用人としての仕事は一通りこなせる教育を受けている。昨日だってお兄ちゃんが教えていたのだから、物覚えの良い子なら私が教えられる事は少ないかもしれない。どちらかと言うと手伝ってもらったりお話しするのがメインとなるだろう。


「寄り道してくるってことだしお昼に帰っては来れないとして、あの人に夕飯を作ってあげたいの。3人とも料理はどれくらいできるのかな?」


 腕前を聞くと、このメンバーなら年長であるインベルを主軸にしてあとは少し手伝うくらいの力量のようだ。そのインベルも、下手でこそないが得意かと言われたらそこまでではないという。


「なるほどね。じゃあ今日は私が指示するから、それに沿って作れるようになろっか」


 それぞれの名前を呼んだらはにかんで頷く3人。その内のインベルが、少しモニョった感じになったのでどうしたのかと聞く。


「あの、もし差し支えなければベルとお呼び下さい。親しい人はそう呼びますので」


「うん、私もベルと仲良くなりたいな。勿論、あなた達2人とも。えっと、じゃあ初めにーー」


 私の出した指示に従い、準備を始める3人。手際は申告されていた通りかそれよりも少し上だろうか。体調不良の波からくる不快感が邪魔をしてつい自分の技量と比べてしまいそうになるが、それは経験差からくるものだから酷だろうと静かに回復魔法で紛らわせて口をつぐむ。


「うん、良い感じだね。料理ができるようになれば普段の生活にも活かせるからね。好きな人の笑顔も増えるし」


「それってキルヴィ様の事ですか!?」


 出来を誉めるために思わず口から出た言葉に、きゃー!っと黄色い声があがる。乙女にとってしては恋の話題は年齢関係なく、1番幼い子ですら目を輝かせている。思えば自分だってこの子達よりも幼くてもその手の話題は好きだった訳で、これもまた仕方のない事なのだ。


 だからこそ、先を行く者としてちょっと大人びた答えをしようとそれらしいことを言ってみる。


「それもそうだけど、例えばラタン姉やお兄ちゃんみたいな家族も含むよ」


 おおーっ!と自分の想定以上に感心されてしまい、逆に恥ずかしくなってしまったので軽く咳払いして誤魔化す。


「でも、そう。そうね。特にベルは自分の料理が美味しいって言ってもらいたいなら修行はしたほうがいいかもね」


「はぅわ!?な、なんのことでしょうかイレーナ夫人!私、私に限った話じゃないですよね、ね!?」


 彼女達の望み通りの答えをそう付け足すと、ベルは耳の端まで真っ赤になりわかりやすく狼狽して見せた。ベルの恋心をからかうつもりはカケラもないのだが……少しだけ、かつてイブキさんが私達の恋心を焚きつけた気持ちがわかった気がする。


「そうね、ベルに限った話じゃないのは確か。いつまでも近くにいられるのが当たり前だと思って何もしないのは後悔に繋がるって、かつて私はある人に言われたよ。今動けっていうわけじゃないけれどこの言葉、心の隅にでも覚えておいてね」


 私の番から次の子たちへと言葉を繋ぐ。進行形であり今も口の中で言葉を反芻しているベルと違って、他2人にとってはまだ恋心のことを上手く理解できていないだろう。でも、それでもいいのだ。


「さて、一品は完成したから残りもどんどん作っていきましょう」


 パン、と手を合わせこの話はここまでにする。料理が終わったら、掃除や洗濯の前に彼女達に合わせて魔法や知識の勉強をしようかな、まだまだ今日は長いのだから。

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