夜襲
「庭があまり手入れされてない……これは住んでいる人も少ないな」
「みろ、馬車がある。やはりここに来ている奴がいるんだな。あの中はあとで漁るとして、まずは住民にご挨拶をしないとな」
「人が来なさすぎるこんなところに俺たちが訪問したら、驚きすぎて息の根が止まってしまうかもね」
侵略者は声を潜めて笑い合う。この辺りで住んでいるのは偏屈な老人とここに来ているであろう商人くらいであろうとあたりをつけたようだ。そのまま進んでいくと半開きになった玄関が見える位置まで来た。
「おいおい、玄関の扉が半開きじゃないか……不用心な。盗賊みたいな奴が来たら格好の場所だぞ?」
そういって笑いながら玄関に近づく盗賊達。その時、ふいに声が聞こえてきた。それは年端もいかない、少女のような声。
「こんばんは、こんな夜更けに当屋敷になんのご用ですか?」
盗賊達はあたりを見回してみるが、声の持ち主の姿は見当たらない。盗賊の1人がこういう。
「いやぁ、森で道に迷ってしまってね。この屋敷が見えたのでひとつ、屋根を借りようかと思いまして」
「なるほど、遭難されたのですね。でしたらコソコソせずに訪れてくださればいいのに」
「いやぁ、突然の訪問だったので寝ているといけなかったので……お許しくださいな。ところで姿が見えませんが、どちらにおいでなのですか?」
あたりを見回しながら、無意識なのか手をナイフに添わせ、握り込む盗賊の男。
「そんな物騒なものを離さないで夜半に訪れる常識知らずの方に表す姿はないのです。近頃盗賊の噂も聞きますのでこのままお引き取りください」
追い返しにかかった言葉に頭にきた男は突然怒鳴り始める。
「……チッ、大人しくしてりゃずけずけと!どうせ俺たちが多いんでビビっちまって出てこれないんだろ!?」
その様子を見た周りの盗賊達は呆れたような感じでその男を見つめる。
「おいバカ!それじゃ盗賊だって自己紹介したみたいなもんだろうが!……仕方ねえな、姿の見えないあんた!今出てきてくれりゃ命だけは助けてやるよ」
「だれが信じるとでも?それよりも、盗賊だということで間違いないのですね?回れ右しておかえりしてください」
その声に笑い出す盗賊達。怒鳴ってた男は一際大きく笑い声をあげていたとおもうと
「だぁれがハイそうですかって帰るかよ!おまえ、バッカじゃねえの?決めた!おまえ見つけ出して散々いたぶってから自分から殺してくださいって嘆願させてやるわ!」
と意気込んで見せた。
「宣戦布告、受けました。……せいぜい楽しむといいのです」
特に動じた様子もなく、淡々と言葉をきる相手。これでコソコソやる必要も無くなったので盗賊達は灯をつけ、周囲を照らし出すことにした。そのうちの1人、弓を持った女が仲間に声をかける。
「気配察知には近くにいるって引っかかってるんだけど、誰か見つけれた?見当たらないんだけど」
「まさかゴーストか?」
「いやいや、あんなに自分の意思が残ったような会話をするゴーストなんて冒険してた頃に会ったことあったかよ?間違いなく生きてるぜ」
そうはいうがやはり見つからない。となると屋敷から聞こえていたのか?そう思った時だった。
ヒュン
ガッ
「グフッ!?」
「おいどうした、突然そんな声あげ……お、おいおまえ!う、腕はどうしたんだよぉ!?」
くぐもった声をあげた盗賊にみんなの注目が集まると、その盗賊の腕は途中から変な方向に折れ曲がっていた。
「あ、あ、オレのウデがアアアア!?」
ヒュン!ヒュヒュ、カッ、カカッ
叫ぶ盗賊。その声に紛れていくつもの風切り音と何かがぶつかり合う音。
そしてどさり、と倒れる仲間。なにが起こっているのか把握できている盗賊はだれもいなかった。
「攻撃されているぞ!各自警戒しろ!」
盗賊のリーダー格の男が仲間に呼びかける。リーダー自身は屋敷に対して壁になるように、近くにあった石像に身を隠す。また声が聞こえてきた。
「ここから先は命の保証はできませんが、引いていただけないですか?」
「バカにしてんのか!?こっちは仲間がやられてるんだ、手ぶらで帰れるか!」
先ほどから怒鳴っている男。あんまりにもうるさいと感じたのか再び風切り音が鳴り、その男の腕が吹き飛ばされた。
「こちらもうんざりしてるのです。さっさと眠りたいのにこんな馬鹿げた見え見えの夜襲を喰らわないといけないなんて。……夜の灯をこんなことに使われる屈辱も受けるなんて。許さないのです」
謎の声に初めて怒りの感情が含まれる。
「あなた達を照らす夜の灯はありませんのです」
指を鳴らす音の後、盗賊が灯していたあかりが一斉にかき消された。あかりに慣れてしまった目が突然暗くなったことで闇に包まれる。
「う、うわあああ!?」
突然の闇と先ほどまでの光景からパニックを起こしたのか、奇声と突然駆け出す音が聞こえたかとおもうと再び風切り音。鈍い音とともに倒れこむ音が聞こえる。
「今更途中退場は許されないのですよ……ようこそボク達の屋敷へ。盛大に歓迎いたしますのです」
盗賊リーダーの耳元でクスクスと笑う声が聞こえた。