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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
3区画目 新婚時代
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 スズちゃんが用意してくれていた食事をとり、トトさんが荷物を纏めたのを横目で見ながら今日の予定を振り返る。


 グリムの仕事始めとして、ラドンさんが連れてきた人達の護衛をメンバーが行う手筈になっている。3組引き受けた内にそこまで遠くの村名は出ていなかったから、何事もなければ徒歩であっても10日くらいで往復できそうだ。


 商売の方についても、飲食はロイさんのお菓子に加え料理のプロであるトトさんという心強い味方が増えた事で上手くいく目処がたった。ミカさんの治療室はできればあまり繁盛してほしくはないのだが、それでも需要は高いだろう。暇があるようなら簡易ポーションを作って貰えるそうなので、それを売るなりため込むなりすれば良い。

 

 そうそう、思い違いは避けたいからと今一度確認したらトトさんはやはりハウスに残っていくつもりだった。スズちゃんがいない状態ではあるが村には立ち寄っていこうという話になり、ラタン姉と2人で墓参りする事で纏まった。血縁者ではないもののもう家族だから訪ねてもおかしくはない、だろう。そう思っておこう。


 そうこうしているうちに支度もすみ、トトさんがニニさんとルルちゃんに抱擁してひと時の別れを告げた。それにつられてか、スズちゃんから抱き寄せられる。軽く口づけを交わし、髪を指ですいてみせるとくすぐったそうに彼女は笑った。


「それじゃあ行くとしますか」


「気をつけていってらっしゃいませ」


 玄関前でクロムが引き連れてきた使用人一同とスズちゃん、それからニニさん達に見送られ、僕達3人と馬車はスフェン近郊へと転移した。


「ああ、久しぶりにこんなに多くの人を見るよー。それに色んな匂いが混ざってて、うっかりはぐれてしまったら迷ってしまいそうだね」


 手続きを終えて街中に入ると、馬車の中から顔を出したトトさんは何かを懐かしむような顔になりながらそうこぼした。きっと街並みは違えどアムストルのことを思い出しているのだろう。彼にこの町の地図(空間文字のない普通の物だ)を手渡し、道がわかるように馬をゆっくりと走らせながらハウスへと向かう。


「さ、着きましたよ。ここがグリムの拠点となるハウスです」


 馬車の収納スペースを作っていないが、それはひとまず置いておいて中へと入る。朝食どきという事もあり、入ってすぐのホールにもメンバーはチラホラといるようだ。僕の姿を認めると、挨拶をしてきたのでそれに応じる。


 MAPによると今はどうやらヨッカさんはハウスには居ないようで、ここから離れた駐留所にいるラドンさんの所にいるようだ。丁度そのことを説明しようとしてか僕の来訪を知ったチェルノさんが降りてきた。


「チェルノさんおはようございます、不在中、何か問題はなかったですか?」


「おはようございますキルヴィさん。あー、まぁ想定していた通りのことは起きましたかね」


 と言うと、一昨日グリムを去った元メンバーがここを嗅ぎつけて接触してきたか。建物内に気配がないところを見ると、立ち去ってはくれたらしい。


「連中、恨みがましく眺めていましたけど中には入ってきませんでしたね。恐らくキルヴィさんの不在を知らなかったんだとは思いますが」


 自分から去った手前、現段階では負い目が勝り僕に直談判しにくる程の度胸は持ち合わせてなかったか。もしくは少数だと怖いので数を揃えようと連絡を取り合っているのかもしれない。


「様子見してるんだろうね。でもその内コンタクトしてきそうだから気をつけてね?」


「ええ、肝に銘じておきます……所でそちらは」


 チェルノさんの視線がトトさんの方に向く。そこでトトさんがスッと前に出て深くお辞儀をした。


「トトと申しますー。キルヴィさんの屋敷でお世話になっていましたが、この度こちらに仕事をしようかと」


 いつもの、少し間伸びしたような挨拶。現状メンバーが増えた所でチェルノさんから何の仕事をするのかを目線で尋ねられた気がしたので、僕が引き継ぐ。


「トトさんには飲食部門で活躍して貰おうと思っている。屋敷に家族が残っているから定期的に不在にはなるけど、腕は確かだよ」


「そうですか。私はチェルノです、よろしくお願いしますトトさん」


 ガッチリと握手を交わす2人。そこに中庭で訓練していたであろうダイナーさんが遅れてやってきた。


「や、キルヴィさんおつきで。おはようございます……へっ?」


 挨拶を済ませトトさんに視線が動くと、彼は指をさしてどうしてここにいるのかといった顔になる。


「おやー?名前と種族を聞いてもしやとは思ってましたけども奇遇ですねダイナーさん」


 どうやら知古の仲であるらしい。聞いてみると流れの時に北方の町にも何度か行ったそうで、まだアムストルへ派遣される前のトトさんと仕事の紹介で知り合ったという。どこで繋がっているかわからないものだ。


「キルヴィさんについていくと決めてから驚きっぱなしですがね、聞こえてきた北の惨状からまさかまた知人と生きてあえるとは思ってなかったですぜ」


 またあの美味い飯が食えると喜ぶあたり、トトさんの腕は昔から良かったらしい。対してトトさんはあの頃よりも上達したよーと笑いながら返していた。お互いの近況報告をしながら、荷物を持って階段を登っていく。この様子なら案内はダイナーさんに任せていいだろう。


 しかし、トトさんがこちらにうつるにあたって懸念の一つであった打ち解けられる仲間がいてくれたのは大きい。いくらやる気であっても、不慣れな環境に家族と離れてというのはストレスが溜まるものだし。


「さて、今日から仕事始めになるけれどメンバーの支度は済んだのかな?」


「滞りなく。書類などの手続きもヨッカが用意して今行われている筈です」


 見渡すと食堂内に残っているのは僕達と今日から仕事を行う面々だけになっていた。装備も極端に悪いものはなさそうである。


「仕事としては護衛になるし、地元に向かう勝手知ったる道すがらなんだろうけれど、無理はしないように」


 予想される工程と事前の備えをみても十分だと思われるので初手任務失敗なんて考えてはいないが、何事にも不測の事態というのはつきものだ。もし無理だと悟ったのなら人命優先で引き返してもいいことを面々に伝えておく。丁度ヨッカさん達がこちらに移動を開始し始めたようであった。


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