挑戦
庭の片隅に座り込んで欠伸を一つ。上からさす木漏れ日を見るにまだ昼前の様だ。今何をしているのかというと、暇を持て余している状態だ。稽古をつける役から降ろされたので、ガトに対して僕がやれる事がないのである。
「楽しそうだなぁ」
目の前で行われている模擬試合を眺めて、そう呟く。ガト以外なら構わないんじゃないかと、混ざりたかったのだが、「次こそ人が死にますよ?」とラタン姉に笑顔で圧をかけられ口を閉じざるを得なかった。そう言ったラタン姉はというと。
「ほいっと」「グエッ!?」
ガトの振り下ろしを盾で受け流しつつ、盾の窓から閃光を浴びせ目潰しをし、スパイクで太腿を穿っていた。……あの、それもけっこうな重傷なのでは?
「そんな威力では正面からランスボアを叩っ斬ることはできませんので、何か工夫してほしいのです。でないと今みたいに身体を抉られますよ?」
ラタン姉なりに対魔物を想定して稽古をつけたらしかったが、とうのガトは痛みに耐え忍んでいてそれどころではなさそうだった。やれやれといった様子でラタン姉が回復し、次へとバトンタッチする。
次の相手はスズちゃんだ。ラタン姉の閃光がやや反則に見えたので、今回魔法禁止でやることになったようで魔法主体の彼女にとっては少々やりにくそうである。距離をとって石を投げ、間合いを詰められたらガトの攻撃をかわして、かわしてかわしてかわしまくる。そしてガトの動きが僅かに鈍った所で、僕から借りた棍棒(いつもの杖だとふとした拍子に魔法が放たれてしまうため)を顎めがけてフルスイングしてみせたのであった。女の子とはいえ、そこは戦いながら旅してきた実績がある。ガトの意識を刈り取るのには十分な威力であった。
「ああ!?ごめんなさい!」
手にした棍棒を放り出してガトに回復魔法を使う。彼は幸いにもすぐに意識を取り戻し、次の稽古をお願いしてきた。
次はトトさんだ。出会った時には組合職員として現場から離れていた彼だが、元々は魔物を狩っていた熟練の経験者だ。木剣を逆手に握り、攻撃を適度にいなしながら反撃をする。無駄が少ないやり方だが、僕達と違って一撃一撃が軽いらしくどちらも決定打が出ずに30分経つ。
「うん。ガトさん、だっけー?なかなかやるねー」
「……いや、これ木剣でなきゃ俺ァ死んでるんだろうなァ」
トトさんからの言葉に首を振りながら、自身に当たった場所を確認してガトが降参の合図をしてみせる。トトさんは重要じゃないと判断した攻撃を受けたに留めたが、ガトの方は無作為に食らっている状況だ。
「一つ一つの傷は小さくても、手数を増やしながら表面を狙い続けて裂傷を起こさせ出血過多。場合によっては毒も使って確実に相手を削る手だよな?やりあってるやつは消耗している事にも気がつかないまま死んじまうって寸法よ。そこまでの腕の奴とは会ったことはねえが、そのやり方は見た事あるぜ」
「ありゃ、知ってたかー。致命打分は達成しているとはいえ、消耗を自分で判断できるのは凄いと思うよ」
クルクルと手にした木剣を回して戯けた様子で答えるトトさんだが、対照的にガトの表情は暗くなる。実戦なら死んでいる判定を自分でも認識していたとはいえ、事もなげにやられ落ち込んでいるのだろう。
トトさんの戦闘スタイルは表面が硬い敵や回復型の敵には苦戦を強いられるものの、非力であっても格上相手にそれなりに戦えるやり方だ。
護身のためにも見習い組に真っ先に覚えて貰いたい気持ちがあったのだが、未熟故に戦力を見誤って、留守中に勝手に森へ行くかもしれないので今回は見送った。慣れてきた頃、適正を見ながら身につけてもらおうと思う。
セラーノさんの番になる。彼は武器を持たない戦い方なので、リーチはとても短い。魔物に例えるのは悪いがロックベアやオーガベアを想定する上で1番近いかもしれない。
これまでの稽古から、縦振りでは避けられやすいとみてガトが横薙ぎする。当てるという点で見ればそれは一見正しい選択ではあるのだが……セラーノさんの両手を使った打ち下ろしで完全に勢いを殺されたどころか、体勢が前のめりとなってしまって全身隙だらけの状態になってしまった。
「武器を離す選択も覚えた方がいいですねぇ」
セラーノさんがそれを見逃す筈もなく、かといってなす術もなく転ばされ押さえつけられる。振り解こうともがくが、セラーノさんは僕よりも格闘術が上の級である為びくともしない。そのまま絞技をかける素振りをした所で終了した。
次でひとまず最後だ。モーリーさんが動きやすい服装に着替えて来て、ガトの前に立ちはだかる。姿は人寄りではなく、未だ通常のものだ。彼女もまた素手での格闘スタイルなので手ぶらだが、相対するガトは困ったようにポリポリとその特徴的な頭をかく。
「あの、どうかしました?」
一向に構えないガトに対してこちらも困った風になりながらモーリーさんが尋ねる。
「ああすんません。前は兄貴に庇って貰いながらも怯えるだけだったのになァって、その姿見て思っちまいました」
「ああ、そうでしたね。雌兎って乱暴に言われて、私傷ついたんですよ?」
モーリーさんがクロムに連れられてスフェンで初めての散策の時の出来事か。既にお仕置きも済み、謝罪も成しているが、お互いなかなか忘れることはできないのだろう。
「でもあの頃のままだと思わないでくださいね?私、鍛えたので!」
ドン、と地面を蹴る音。モーリーさんが仕掛けたのだ。そのままとび膝蹴りに移るが……どう見ても加減が効いていない。これはマズいのではと思い間に入る。
まだ反応できてないガトの木剣を奪い、ガードする。木剣はまともに蹴りを喰らって、粉々に砕け散った。それだけでは勢いを殺しきれず、大きく後ろに吹き飛ぶ。そのタイミングでMAPが復旧したようで、縮地を発動して勢いを殺す。
「あれ!?」
放った威力がおかしいと自分でも分かったのだろう。次の動作に移ろうとしていたのをやめてモーリーさんが棒立ちになる。ここでガトも事態を把握して、たまらず腰を抜かしてしまったのだった。




