盗賊団の噂
いつもありがとうございます。
ラタン姉とスズちゃんとの和解から2日後、ツムジさんがやって来た。アンジュさんはいつもの生活用品の注文に加えて魔法の適性検査の道具も忘れずに頼んでくれた。
ついでにと今回獲ってきたランスボアを見せてみると、刀傷なしのランスボアの毛皮はなかなか高価だということで次回来た時に買い取ってくれる話になった。初めて自分の力でお金を稼ぐことができ、たまらず嬉しくなる。この日は他に特になく、また近いうちに来ると告げてツムジさんは帰っていった。
3日後、いつもなら1週間はかかるというのにもう荷物を揃えてやって来るという、すごく速いペースでツムジさんは来た。顔は笑顔だが、何か落ち着かないようでソワソワしている。じっとみているとこれが頼まれていた道具だよと小さな水晶玉を渡された。中に魔力を込めると自分の持っている素質をはかり、玉に色の割合で表されるらしい。
魔力を込めてみる。水晶玉の中に色が渦巻いていく。そして現れた色は茶色6割と青3割、それからいろんな色が混じったのが1割となった。茶色は土属性、青は水属性というので、どうやら僕の素質は地属性に長けているらしい。次いで水属性が高いという。
クロムやスズちゃんもついでということで測ってもらう。クロムは緑一色に染まったことから風属性に凄く適性があり、スズちゃんは赤く輝いたことで火の適性を持っているとわかった。お揃いだとラタン姉とはしゃいでいる。僕たちのやりとりを見てニコニコとツムジさんは笑っている。
「それで、いつもより早かったのはこの子たちを喜ばせるためかい?」
アンジュさんの言葉にツムジさんが笑顔を曇らせる。どうやらこれのためだけに来たというわけではないらしい。一息ついたのち、真面目な顔で切り出した。
「嫌な噂を聞いてね。最近盗賊団が出るらしいんだ。奴ら流れの冒険者崩れみたいで、なかなかの手練れ揃いだときく。女子供、貧富に見境なく襲うみたいだからその注意喚起に来たってわけです」
「盗賊団だって!?」
アンジュさんは大きな声をあげた。一体それは何かと尋ねてみると、人様のお金や物を奪うことに長けた連中を盗賊といい、それが組織立って動いていると盗賊団と呼ばれるようになるという。
「今回のはことが大きくなっているから捕まえれたら国から大量の報酬金がもらえるけど、そのぶん危険だし、戦争も行なっているから軍隊もあてにならない。まったく困ったものだ」
ツムジさんはそう呟く。
「ツムジ、そんな中1人で返すのは流石に危険すぎる。今回はしばらくうちに泊まっていきな」
「いや、家族がいるからね……心配だ」
「家族がいるのは町だろう?流石に常駐してる軍が働かなかったらただの給料泥棒じゃないか。いいから、1週間くらいはここに泊まりなさいな。そしたら町にみんなで行くというのも手だからね」
「そこまで言われるなら……わかりました、お世話になります」
さて、ツムジさんが泊まることになったがこれはいい判断になったと思われる。先程からツムジさんが来たルートを複数の人の名を表す白い点が行ったり来たりしている。恐らくはツムジさんがいっていた盗賊団って奴の一味だろう。そのことをみんなに伝えないとね。来るならそれ相応のお出迎えをしてあげよう。
◇
夜遅く、屋敷に忍び寄る影があった。
「まさかこんなところに屋敷があるなんてな。ここをいただければ見つかりにくいいい拠点になる」
「馬車の轍から、商人一人でこんな森の奥を通っているのかと思ったが思わぬ収穫っすね」
そういって、総勢18人の盗賊団の面々はこれからのことに思いを馳せ、笑い合う。
彼らは知らない。まるで大きな獣が口を開けて今か今かと入って来るのを待っていることに。
彼らは危機感を持たない。奪うことに慣れすぎて、奪えて当たり前と思ってしまっていた。軍相手にもひとりふたり減るだけだった。ましてやこんなはずれに軍なんているわけがない。ここはすでに取れたものだと彼らは思ってしまっていたのだ。
屋敷の外れかけた門を全員が通過した後、獲物を見つけた獣のような笑みを浮かべた少年がいたことなんて、知る由もなかった。