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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
3区画目 新婚時代
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歓迎

 目の前に屋敷が現れ、周囲が森に囲まれていると認識したところで視界が肉眼で見える範囲だけになり、今度こそMAP機能がクールタイムに入り使用不可の状態になる。魔力だって今日だけで数回使い切っているわけだし、空間支配だってしたのだから当たり前なのだが。


 あとは空間支配によるクールタイム期間も他のクールタイム期間と同じかもこれでわかることだろう。


「はぁー、旦那ァ凄ェや。あっちゅう間にスフェンから遠くに行くことができるなんて。これが強さの秘訣なんですかい?」


 クロムから軽く説明を受けたガトが感嘆の声を漏らす。子供組も周りの風景が一瞬に変わったのに目を白黒させていた。


「ガト、それは少し違うぞ。確かに強さの一端ではあるが、キルヴィ様が転移を覚えたのなんてつい最近だし、それ以前から普通に強いのだからな」


 すかさずクロムがガトの言葉を訂正する。これができるようになってからできる事が大幅に増えたので一端というには割合が大きいものの、以前ガトを打ち負かした時にはほぼほぼ使っていなかったしなぁ。


「兄貴、旦那はスゲェ奴なんですね!……それにしても深い森の中に屋敷ですかい。少し前に聞いた怖い噂を思い出しちまいまさぁ」


 クロムの言葉に相槌を打った後、身震いするフリをしながらガトが言う。クロムの事を兄貴呼びすることにしたのか。僕への旦那呼びも大概だが、体格や年齢を考えるとどうにも滑稽に思えてしまう。と、それよりも面白そうな事を言ってるな。


「怖い噂?」


「前線から帰ってきた後、酒場で飲んでた時に兵士から聞いたんですがね。昔捕らえた、この辺りでも有名だった盗賊達が捕まえた頃には物凄く怯えた様子だったんで、そんなに縛首が怖いかと尋ねたらしいんでさぁ」


「ふむふむ。まぁ捕まった盗賊の末路なんて大抵処刑だから、怖くなっても仕方がないですよね」


 スズちゃんが頷きながらそう言う。まぁ、よくある事だ。刻々と迫ってくる死への恐怖から命が惜しくなったに違いない。だがガトは首を横に振った。


「そしたら奴ら、縛首なんざ怖くて盗賊ができるかって強がったらしいんですが、じゃあ何に怯えてたのかって聞いたら出てきたのが森の中の古ぼけた屋敷の話で」


うん……うん?なんか覚えがあるような。


「なんでもそこで悪霊の声を聞いたら10日もたたずに謎の発熱やらで死ぬってんで、そいつの仲間が実際に死んじまったもんだから次は俺の番かも知れねェ。そういった翌日にポックリだったらしいんです。だから森で屋敷を見つけても迂闊に近寄るなって話でさぁ」


 ……あー、思い出した思い出した。アレか。昔やった、ここに襲撃してきた盗賊を返り討ちにした奴。今もそんな風に噂されてるのか。「怖いです」なんて怯えた様子で言ってるけどラタン姉や、その悪霊の声ってのは君の事だ。


 クロムも当時の事を覚えているみたいで、目があうと苦笑いで返される。スズちゃんは当時母さんの元で寝ていたから覚えていないようだった。


「まぁ、でも多分こことは関係ないのですよ。ようこそボク達の屋敷へ、盛大に歓迎いたしますのです!」


 子供組を怖がらせまいと思って発したであろうラタン姉の言葉が、以前その盗賊達に言ったものに似ていたので今度こそ僕とクロムは吹き出してしまい、皆から白い目で見られる。


「キールーヴィー?なにがそんなにおかしいのですか!クロムも!」


 自分が笑われたのだと不機嫌になったラタン姉が膨れながら僕達を咎める。


「ああごめんごめん。悪気はなかったというか、思い出し笑いというか、ねぇ?」


「ごめんなさい、笑うなという方が無理な話です。私達からすればラタン姉さんが覚えてないのが不思議なくらいなんですけど」


 そうして2人でネタバラシをする。ガトは「まさか本当にここだとは」と驚き、ラタン姉はようやく思い出したのか顔を赤くして俯く。僕の妻は今日も可愛い。


「さぁ、いつまでも外にいるのもなんだしさ。改めて歓迎するから屋敷に入りなよ」


 僕の言葉にさっきまで会話に参加していた筈のクロムがいつの間にか扉まで移動をして、一礼しながら待っている。その様子にハドソン君達は自分がこの冬勉強の傍らで学んできた使用人のイロハ等、まだまだ序の口なのだと感じたようで戦慄していた。


 屋敷に入るとグミさんが正面に立って微笑んでいた。留守番組の中で唯一グリムメンバーに一度会っているので、ここで出迎えてくれたのだろう。見知った顔を見て連れてきたメンバーも少し緊張をといた、その矢先であった。


「あるじーあるじー。おかえりなさいー」


 ニョキッ、と僕達とグミさんの間の床に女の子の首が生えてきて、予想してなかったことにグミさんが微笑んだまま固まった。女の子の首とは、言うまでもなくアンちゃんである。


 普段屋敷にいる面々にとってはアンちゃんが神出鬼没なのにもう慣れたものであるが、新規メンバーは違う。子供組は泣いて屋敷から飛び出そうとする子がいたり、大人であるガトもさっきの話が効いてきて腰が引けてしまっているようだった。


「あーあー。またラタンがこわがらせたのー?」


「流石に今回はボクじゃないですよ!?ボクじゃないですよね!?えっ、あれ?何で誰も目を合わせてくれないんですかっ!」


 一部母さんの記憶が出てきているのか、今回の元凶が生首状態のまま呆れた様子でラタン姉を見るが、今回ばかりは本当にとばっちりである。ここまで上手くやっていたのにとラタン姉は涙目になっていた。そういえばラタン姉の悪戯好きって母さんの影響が強かったって話だったっけ。なんともままならないものだ。


 何はともあれ、取り乱してしまった子達を声を聞きつけて奥から来たセラーノさん達と回収しつつ、落ち着くまでゆっくりと待ったのであった。……しまらないなぁ。

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