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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
3区画目 新婚時代
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スカウトをしよう

「ガト?無理してアピールしなくてもいいんだよ?」


「無理なんかしてねェぜ旦那ァ。俺ァ元々農家の出なんだ、家継げねえし居場所もねェから飛び出してきたってだけでよぅ」


 む、そうなのか。巨躯のガトが農家の出というのは僕としては意外に感じたのだが、周りの反応からして特に驚きはなさそうであった。


「あー、だがキルヴィ様や。ガトの実家で作ってる作物はちょっとばかし変わり種なんよ」


 恐らくはガトと同じ出身なのだろう、ガトに似た独特な髪型のメンバーがそう告げてくる。それをガトは余計な事を言うんじゃねえと睨みつける。


「変わり種?どういう物なのさ」


「別に普通ですぜ、実りもいいし育てやすい。味だって悪かねえ。だのに気味悪がって俺ン家以外誰も手をつけやしねえんです」


 ふむ。育てやすい上に味も実りもいいというのが本当ならば渡に船といった所なのだが、周りの反応が芳しくない。と、そこに手が挙がった。


「つまり、未開の味という認識で良いんですかね?ならばボクはガトに任せてみたいと思うのです」


 よだれを垂らしているラタン姉だった。それを見てスズちゃんがすぐに口元を拭ってあげると、


「しょ、食欲に負けた訳ではないのです!ガトの実力を見定める為にですね!」


 などと誰に向けているか分からない言い訳が始まる。そこに説得力はなかった。


「よしわかった。ガトさん、任せてみるよ」


 まぁ別にラタン姉の食欲を否定する必要もないだろう。思いつきからなのだし、失敗したって構わないのだから、ガトさんのその意欲を買ってあげたいし。


「ありがてェ!姐さん、感謝しますぜ!」


「なんかニュアンス違いません!?」


 ガバリと頭を下げたガトさんに対し、ラタン姉が狼狽え、笑いが起きる。あの荒くれ者であったガトも随分と腰が低くなった物だと周りも感心せざるを得なかった。


「さて、仕事の話も済んだし私は帰らせていただきますかな。日程についてはまた後日連絡しますぞ」


 ガトさんのすっかり改心した様子にうんうんと頷き、自分のすべきことは済んだとラドンさんは服装を正してここを後にしようとする。


「あら、今日からでも構いませんわよ?仕事を片っ端からこなして皆に認知してもらいたいですので」


 ヨッカさんの言葉に今回の仕事を請け負うつもりのグループも頷く。


「いやいや、仕事熱心なのは感心しますが引越しした当日で大変でしょうしな。こちらも出街管理するのに少し手間取るでしょうし」


 そう言ってラドンさんは僕に目配せして見せたのは、さっきの始末もあるからだという事なのだろう。


「ラドンさんの言葉に甘えよう。まだ皆、荷物も置けてないじゃないか。それに引越しはまだ完了していないんだからさ」


 そう言って僕はハドソン君達を見やる。子供組はまだこれから屋敷まで行かないといけないのだ。それで不承不承といった様子でヨッカさんは引き下がった。どんだけ働きたいんですかあなたは。


 去っていくラドンさんを見送りながら、まだ恨めしそうに見ているヨッカさんへスズちゃんが溜息混じりに声を掛ける。


「大体、そんな心配しなくともヨッカさんに関してはこれから大仕事が待ってるじゃないですか」


「はっ!?そ、そうでしたわ!それどころじゃありませんでしたわーっ!?」


 あの夫婦のスカウトやらグリムのお店としての経営方針を決めなくてはならないヨッカさんには他を心配する余力なんてなかったのだ。


「それでは、私達はこれからツムジさんと共に備品を揃えに動きますので。ハドソン、早速だけど荷物持ちを頼めるかい」


「お任せを!これからよろしくお願いしますクロムさん!」


 そそくさとモーリーさんやツムジさん、子供組を従えてクロムは己の職務を開始し始める。優先度が高いというのもあるが、このタイミングで子供組を連れて行くことをわざわざ口に出してやるのは、ヨッカさんの退路を塞ぐ為だろう。それを露わにするように、彼女は助けの手を求めて伸ばそうとした手を彷徨わせ、わかりやすく絶望してみせた。まさに鬼の所業である。


「まぁスカウトに行くなら立場的にも僕も行くつもりだからさ、そう落胆しないで」


「本当ですの!?言質とりました、急いで仕度しますわ!悪いですけど階段に近い角部屋貰いますわよ!」


 ダッ!バタン!ダダダーッ、ドン、ドン、ガシャン!バタン!ドッドッド!


「お待たせ、しました、わ」


 止める間もなく駆け出したヨッカさんは戻ってきたら息も絶え絶え、途中から何か割れたような音もしたが部屋や荷物は大丈夫何だろうか。


「はぁ、そんなに急がなくても良かったんだけど」


「い、いえ……時間は、待ってくれませんもの……チェルノさん、ダイナーさん。この場は任せましたわ」


「お、おう。じゃあ部屋割と行くかー」


 2人がゾロゾロとメンバーを引き連れて2階にあがっていったのを見届け、「此方もいきますわよ」とヨッカさんに引き摺られるように僕はグリムハウスから外に出る。スズちゃんが仕方がないなという表情になり、ラタン姉はくっつきすぎだとヨッカさんに苦言を漏らす。


「ヨッカ、なんか無理してないですか?いい加減素の自分でメンバーと接したらどうなんです?」


 ハウスから離れた所で尚も寄りかかっているヨッカさんへ愚痴気味にラタン姉がそう言うと、ヨッカさんは「だってだって」と友達の、素の状態での言い訳が始まった。


「最初のイメージが凛とした大人の女性だったんだもん!まとめ役になった事もあって、今更崩せないんだもん!」


 いや、だもんって……確かに最初のイメージを崩したくないのはわからなくもないけれど、それで無理を続けているのは問題だと思う。


「同年代の女性メンバーだけにでも打ち明けたら楽になるんじゃないですか?」


「わかってない、わかってないよキルヴィさん!それが一番危険なの!」


 僕が提案をすると、バシバシと背中を叩きながら抗議してくる。すぐに何してるんだとばかりにスズちゃんによって引き剥がされたが、余程鬱憤が溜まっているようで地団駄までしだした。人目につくし、やり辛いなぁ。


「立場が違う同年代の独身同士だったら足の引っ張りあいなんですよ!弱みを見せたら骨まで食われるんです!わかるでしょう、2人なら?」


 同意を求めたヨッカさんに対して、話を振られた2人は顔を見合わせる。それから申し訳なさそうに


「えっと、わからないです」


「ボクもスズも村とか町のコミュニティにあんまり加わってなかったですからね、疎いのです」


 と返事をすると彼女はガクリと膝を折った。グミさんやニニさんがいたら話は別だったかもしれないが、この場に味方はいなかったようだ。


「えっと、じゃあお姉さんと友達になればいいんじゃないですかね?既婚者ですし、歳も近いので」


「実は友達だった事もあるんですがねー、彼女の結婚を境に会わなくなって久しいんですよ」


 最後の方は惚気とか散々聞かされて嫌になっちゃって……と項垂れたまま答える。まだ復活できないようだった。そんなタイミングで向こうから目当ての人達がやってくる。


「およ、新婚ホヤホヤの英雄さん達じゃん。どうしたの、こんな道の往来で」


 声をかけてきたのはお姉さんだった。その後ろで坊やを抱きかかえたおじさんが軽く会釈をしてくる。


「お久しぶりですお姉さん。その節はありがとうございました。今から向かおうと思ってたんですが家族揃ってお出かけですか?」


 僕達に気がついた坊やが手を振ってくるので振り返しながら質問してみる。家族団欒している場面なら出直した方が良いだろう。


「春の陽気に誘われてね。ってあれ、そこに居るの、もしかしてヨッカじゃない?」


「あ、あはは。どうも」


 自分だと気が付かれたことで硬い笑みを浮かべながら振り返るヨッカさん。それに対してお姉さんは明るい笑顔を咲かせてみせた。


「わー、やっぱり!最近疎遠だったけど元気だった?英雄さん達の組織に入ったって人伝に聞いてたからその内会えると思ってたけどまさか今日こうして会えるなんて!」


 久しぶりの友達に会えたといった感じでとても嬉しそうに振る舞うお姉さん。それに対してやや負い目を感じているのだろう、愛想笑いで返すヨッカさん。それを横目におじさんが僕へと話しかけてきた。


「すまんな、うちのカミさんはああなったら止まらないんだ。代わりに要件を聞こう」


「ええ、実はーー」


 おじさんにメンバーになって貰えないかと話をしてみる。おじさんはチラリとお姉さんの方を見て、それから天を仰いだ。あまり芳しくない反応に思える。


「嬉しい誘いではあるし協力したいんだが……実はな、今お腹に2人目が居るんだ」


「えっ、おめでとうございます!」


 僕からの祝いの言葉に、話の手を止めお姉さんが微笑む。そこのヨッカさん、唇を噛み締めながらおじさんとお姉さんを何度も見比べない。


「俺だけなら偶に顔を出せるだろうが、カミさんは無理だなぁ」


 とても残念そうにそう言うおじさん。他所ならそこで話は終わりだろうがうちはグリム、話は終わらないのだ。


「妊娠中に無理はさせたくないし、休隊扱いにしてその間も給金とか出す予定だけど」


「ええとその話詳しく聞かせてもらえないかしらキルヴィさん?」


 おじさんは失意に沈みかけていた顔をあげ、お姉さんが僕の手を握りながらその話に食いついてきたのであった。

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