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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
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閑話 ガールズトーク2

「キルヴィさん達はこんな所に住んでいたんですか……森に囲まれている温泉付きの屋敷なんて、とても風情がありますね」


 ヨッカはそう言いながらぐるりと周りを見渡し、目を細めながら「はふぅ」と溜息をつきました。


「私はスフェン育ちなので、こうした人混み外れた場所での暮らしに少し憧れてしまいます」


「その気持ちわかります。街中だと、なんだかんだと人目を気にして肩が凝ってきちゃいますもんね」


 ヨッカの呟きにそうやってモーリーが同意を示しました。ボクとしては生まれた場所がここになるので、寧ろ街中での暮らしに憧れた時期もありました。自分が持ってないものに憧れを抱くというのは人のサガなんでしょうかね?


「皆さんが良ければ私もこの辺に家を構えたいですね」


「あはは……それはお勧めできませんのです」


「えーっ、なんでですか!?」


 ボク達が揃って辞めた方がいいと態度で示すと、ヨッカさんはとても驚いた様子になりました。


「いや、別にここで暮らすのはボク的には構わないんですよ?ただ、ヨッカがランスボアやロックベア等と日常的に遭遇しても大丈夫かっていうのと、冬の間は他とは比べ物にならない猛吹雪に耐えられるのかが心配で」


「昨日も冬眠明けのロックベアが2体、壁を殴ってたからな」


 因みにそのロックベアはさっき食卓に並んでた奴だぞ、とカシスが何でもないことのように言うが、ヨッカの顔は明らかに血の気が引いていました。ああやっぱりそうでしたか。冬眠明けの奴らの肉は全体的に脂のノリが悪くて他のシーズンに比べると味が落ちるんですよね。


「ロックベア……し、しかしそうそう遭遇なんかしないです、よね?」


「いやー?さっきラタンさんが言ったとおりにほぼ毎日会うかなー?寧ろ昨日は少ない方だねー」


 現実逃避気味に食らいついてきたヨッカですが、ニニさんの発言に今度こそ絶句する。この森での魔物との遭遇率は、森の外と比べるとかなり高い。大概ランスボアで対処法さえ知っているならば逃げる事も容易いが、時にロックベアや首刈兎のような対処の面倒な奴らも現れる。傭兵を経験しているとはいえ、それでも一般人の域を越えてないヨッカには厳しいと思います。


「わかります、わかりますよその気持ち。ここに来たばかりの時はとても壁の向こうになんていけるものかと思いました」


 またモーリーが同意を示しましたが、今回の道中であれだけアンデットを屠っていた今のモーリーが言っても説得力が薄いですね。この子も少し前までは本当にただの町娘だったはずなんですが、なにがどうなってこうなってしまったのやら。ここで共生しているグループ、なんやかんやで一般人と言えるのは生まれたばかりのルルちゃん位なのでは……?


「もう少ししたら年少組をここで働かせるのに、不安になってきました……」


 そういえばそんな話でしたっけ。グリムの年少組は冬の契約が満了した後は使用人見習いとして住み込みで働いてもらうんでした。ヨッカをグリムのところに返した時にあと1週間だと伝えるとキルヴィが言ってたので、もう少ししたら来るんですね。


「使用人見習いっていっても、すぐに働けるなんて皆思ってないですからまずはこの環境に慣れてもらう事から始めるつもりですよ」


「助かります……」


「私も来て1週間くらいは働こうにもおっかなびっくりしててまともにできませんでしたからねー、ねぇラタン姉?」


 うぐっ、スズの目が笑っていません。来たばかりの幼いスズをボクが驚かせギャン泣きさせた事をまだ根に持ってますね……


「まさかまた私と同じことを繰り返そうなんて思ってない、よね?」


「しませんしません!アレはほんとーに悪かったと思っていますからもうしませんってスズ!」


 ボク達の脅しつけ……もとい、じゃれあいの様子に何があったのかと周りが聞いてきて、昔あった事を自分の主観から語るスズ。ボクを見る目が心なしか冷ややかなものに変わりましたが、ボクは挫けませんのです。


「しかし皆纏めて結婚できるなんて、夢みたいですねぇ……キルヴィさんやスズちゃんラタンさんも一緒にするんでしょう?」


 おっとグミちゃんからの助け船が来ました。流石は同志、皆の興味がボクよりも結婚の話に向きましたよ。


「ってよく考えたらここにいるの私以外既婚者か婚約者持ちばかりじゃないですか!何でそんなに良い出会いに恵まれてるんですか皆さん!」


 ヨッカが吠える。そんなに焦らなくともヨッカ自身まだ十分に若いんですから気にしなくても良いと思うんですけれどね。


 さて、相手との出会いと聞かれて各々が考え始めてしまいました。ボクもキルヴィとの出会いを思い返します。


 初めは憐れな可哀想な子が森の中で彷徨っていると姿を消しながら近づいたんでしたっけ。けれどもそれはボクの勘違いでした。キルヴィは確かに里から追われ、栄養不足でガリガリに痩せこけていましたけれども決して生きる事を諦めておらず、透明化していた筈のボクへと体当たりをかましてきました。

 ……よくよく考えたらファーストコンタクトは最悪に近かったですね。聞いたらこれも透明化による正体不明な相手が接近したのが原因でしたし。ちょっと反省。


「私は、一緒に過ごすうちにいつの間にか恋心を抱いてましたね……でも使用人と主人。憧れはあれど諦めようとしていました」


 スズが語ります。


 そうでしたね。スズもボクも、望みはすれど結ばれる訳がないと諦めかけていた恋でした。


「幼馴染で主従関係、妹属性持ちに今後は幼妻とはつくづく属性モリモリだなスズちんは」


 まーた訳の分からない事を言い出しましたよカシスさんは。まあでも、すっかり以前の調子を取り戻せたのは良い事ではありますかね?


「あの人の妹であるスズちゃんがいる前で申し訳ないんですが、私は顔から入りましたね。あ、この人カッコいいなぁ、って」


 だいぶ正直にぶちまけますねモーリーは。この旅で一皮どころか二、三枚剥けてそうなのです。こらスズ、「お兄ちゃんは顔だけはいいからね」なんて同意してどうするのですか。クロムが聞いたら泣きますよ。


「あの人カッコよかったなと思っていた矢先にまさかまた会えるとは、祠にお祈りした甲斐がありました」


 ……まぁその後のこと考えてイチャイチャずっとしていられるくらいなのですから、相性は良いのかもしれません。そういえば今はもう跡形も残ってませんが、あの祠に祀ってあったのって何なのでしょうね?


「私は悪漢から助けてもらったのがきっかけでしたね。颯爽と現れた彼は……とてもカッコよくて」


 グミが頬を赤らめ、体をクネクネと悶えさせる。自分を助けてくれた英雄なんて、とても憧れるシチュエーションなのです。


「それまで政治のことしか考えてこなかったのに彼と話を合わせられるようにと必死で食事について勉強したんですよ、私」


「頑張り屋だもんなグミっちは。遊びに行った時に一部灰になっている炭の塊をキッシュだと出された時は拷問かと思ったが」


 昔のグミは料理下手だったんですね。カシスの暴露によって発覚した過去に今度は別の意味で顔が赤くなってます。皆で「よくあるよくある」とフォローします。


「私はだな「あ、いいです」何で!?」


 カシスが語り出そうとしましたが周りから手で止められる。初対面のヨッカすら止めている。これまで周りの話に余計な茶々挟んでいた事が原因でしょう。そもそもあなた問題の塊なんですよ。あの場にいましたけどセラーノとのファーストコンタクトなんてボクより酷いじゃないですか。


「くっ、私は負けないぞ!彼は「とても優しいですからねぇセラーノは」それに「オイタしていたカシスちゃんを許してくれるしー」この「なんというか包容力が凄いですよね、自分の子でなくとも愛してみせますって」うわーん!?」


 憐れカシス。発言しようとするとアムストル出身の3人から発言を被せられ、終いには泣き出す事になろうとは。でも自業自得感が凄いのです。


「ニニさんは?トトさんとどうやって出会ったんですか?」


 そして何事も無かったかのようにあっさりと流したヨッカさん。この短時間でカシスの扱い方がわかったようで何よりですが、春からは一応グリムの上長になりますから気をつけて下さいよ?


「んーとねー、私が認識したのは組合職員になってからだったかなー?」


 首を傾げつつ答えてくれましたが、うん?認識した?


「これでも職員になる前は冒険者として生計立てていたからねー、アムストル周辺の依頼をひたすらこなしていたんだー。トトさんが言うにはその頃にはもう私の事知ってたみたいだけど」


 そういえば戦乙女の精霊であるリリーさんと認識があるのならば、ニニさんだって戦いに身を置いていた時期があると言う事ですね。ニニさんはどうやら結構なうてな冒険者だったらしいのです。


「あらかた依頼を片付けちゃったらできることがなくなっちゃってー、困っていた時にそれならば職員にならないか?って話が来たの。それを言ってくれたのもトトさんだったらしいんだけど」


 そこからこんな優しい人がいたんだ、好き!ってなったそうな。なるほど、最初は全然眼中になかったという訳か。思うに、トトさんはずっとニニさんのことを気にかけていたんだろうなという話であった。


「いやーしかし、これでようやくトワちゃん含めて家族になれるなんて、漸くずっと願っていた夢が叶います!」


 皆の恋愛話について聞けて気がすっかり緩んだのでしょう、爆弾発言が飛び出しました。誤魔化せますかね……


「トワちゃんって?」


「それは私達の子……あっ」


「え?」「うん?」「ほう……」


 あーあ、スズが更なるうっかりを発動しましたですよ。面倒ごとの予感しかしませんのです。皆の視線がまたボク達に集中します。


「どういう事ですか?スズちゃんの子となると相手は勿論キルヴィさん、よね」


「そういえばチーム分けで2人は一緒に行動していました!という事は同衾だってしていてもおかしくないですね」


「ふむ、つまりは一線超えてしまったのか?2人ともまだまだあどけないと思っていたのだが、やはり男と女であったか……」


 あーあー、憶測が憶測を呼んでますよ。スズが必死になって否定していますが本人の否定は寧ろ逆効果です。


「い、いや皆待って!子を成していたとして、たかだか1週間で妊娠から出産までできるわけないでしょ!?」


 グミちゃんの意見はごもっとも。だけどさらにややこしくなる要素があるんですよねー。


「いや、そうとも限らないのですよグミさん。スズちゃんは1年分、書の中で経過してから出てきたのですから。ほら、1週間なのにこんなに様変わりしているでしょう?」


 間髪入れずその要素をモーリーが説明しましたです。見た目の変化という事実が、間違っているにも関わらず憶測を事実であると裏付けている感じになってます。なるほど、と納得している皆はすでに冷静さを欠いていて、端的にいってヤバいですね。


「でも私達、肝心な赤ちゃんを見てないよー!?産まれて間もないであろう子から目を離すなんて普通なら考えられないよー!?」


 自身が一児の母であるニニさんが困惑しながら叫ぶ。恐らくは自分に置き換えて考えたのでしょうね、その気持ちは今ならばボクにも分かりますです。


「と、いうよりも。普段からあれだけキルヴィキルヴィと言っているラタンさんがダンマリなのが私的には気になるんですが」


「確かに!?って事はラタンさん何か知ってますね!どういう事なんですか、教えて下さいよ!」


 くっ、同志グミに裏切られました!皆の視線がボクに集まります。でも誤解を解くならばこのタイミングしかないですかね?……はぁ、できれば皆に打ち明けるのに対して、もっと心の準備の時間を設けて欲しかったのですけれど仕方がありません。


「良いですか皆。確かにボクは知っていますのです。落ち着いて聞いて欲しいのですが、トワとはボクの子の事でしてーー」


「ラタンさんの子!?」


「つまりスズちゃんとラタンさんの子!?」


「両刀使いだったとは恐れ入ったぞラタンさん、よもや同性とも子を成せるとは!」


 落ち着いて聞いて欲しい、というボクの願いも虚しく更なる誤解を生んでしまいました。いや、あながち誤解でもないのが面倒です。


 それから。一度火がついた話題が鎮火するのに、一晩を費やすことになりましたとさ。

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