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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
228/303

対イブキ戦

「う、嘘よ!もう一度!」


 再び幻術にかけようとイブキさんが眼窩に灯った赤い光をこちらに向ける。また幻術に囚われかけたものの、すぐさまスズちゃんの本を手に取り打ち破る。さらに二、三度繰り返すが同様の結果となった。


「その本……くっ、そんな姿になってまでキルヴィを守ろうというの、スズ!」


 思い通りにならず、忌々しそうに本を睨んでくる。


「スズちゃんがこうなったのは、やっぱりイブキさんの仕業だったんだね。その技はもう効かないんだから、諦めてよ」


 こうなった以上もはや意味などないのかもしれないが、諦めて降伏をするように促してみる。イブキさんは項垂れてみせ、しかし何が面白いのか噴き出す。


「……ふっ、ふふふ甘いよキルヴィ大甘さ!こんなんで私の手を全て封じたなんて勘違いされちゃあ困るね!いざアンデットクリエイト!」


 その掛け声と共に、こちらのメンバーの足元からアンデットが呻き声をあげながら立ち上がる。くっ、地下に死者を仕込んでいたのか。アンデットの容姿を見るに、生前はエルフの騎士のようだ。攻撃しようにもメンバーの数が多く、ばらけている為一度には処理できない。


「おーっと下手に動かないでよねキルヴィ!このクラスになると流石に数は揃えられなかったけど、やっぱり物量こそよね!そしてクリエイトメイキーング!」


 みるみるうちにその姿は記憶に残るオスロのものへと作り替えられていく。測ることはできないものの、もしこれが本物と同じような強さであるならば僕ですら危うい。


 しかし甦らせるどころか自分で望みのものへと作り変えることができるとは。生産職であり、クリエイト系の魔法に元から適性があったとはいえ、ここまで強くなっているなんて想像していなかった。


 だが、その作業が終わるとイブキさんは口から血を流し、両手はだらりと力なく垂れ下がったのを見るに、おそらくこれも代償がつくタイプの能力なのだろう。


「ふふふ、やっぱり貴方が一番厄介だからね。これから貴方を攻撃していくけど、人質がどうなってもいいのならば充分戦って貰っていいよ!」


 イブキさんからなされる勝利宣言。くっ、これでは嬲り殺しにされるのを待つだけだ。僕がやられた後皆が助かる保証もない。まさに絶体絶命だと思ったその時。


「やれやれ、今度は人質か。人間どこまでも落魄れられるものだ」


 その言葉と共に、現れた各オスロもどきを押さえつけるように分厚い魔力の壁が現れる。これは結界か!


「なんで!なんであなたまで幻術を打ち破れるのよ!?」


 取り乱したイブキさんの言葉の先、リリーさんは近くにいたオスロもどきを手にした短槍で結界ごと貫きながら鼻を鳴らす。


「こっちは既に隊員を1人失ってんだ、その子を置いて幸せになんかなれると思うか?キルヴィ!こいつらは本物よりもずっと弱い!結界ごと打ち砕け」


 リリーさんの檄で僕は設置していた魔法陣を解放。捕らえられ動けなくなっていたオスロもどきを土壁で圧殺する。ガーランドには結界すら張っていなかったけれど、とりあえず氷結で氷漬けにしておいた。これでこの場の憂いは無くなっただろうか。


「う……こんなのって酷いよ!ここは撤退、撤退しないと!」


 もはやなす術が無くなったのか、慌てた様子で空に浮いて逃げ出そうとするイブキさん。まずい、幻術はそのままで逃げられると、皆がいつ目を覚ますかわからなくなる!


 転移で追いつこうとする前に響く、乾いた発泡音。音の出どころを探ると手に白煙上がる銃を持ち、血が滴るほどに強く唇を噛み締めたツムジさんが居た。彼も幻術にかかっていたはずだ。


「な……お父さん……?一般人の、はずでしょう?」


 アンデットというのは凄い、眉間を撃たれ脳に傷害を受けたというのに話せるとは。撃たれた衝撃からか落下し、仰向けになって倒れたイブキさんは、もう抵抗する気がなくなったようであった。そんなイブキさんに近寄り、覗き込むような形でツムジさんは立つ。


「俺の幸せは、もう終わったんだよ。もう、何をしたって取り返せやしない。取り返せやしないんだイブキ」


「なんで、銃を当てられるのよ……最近は目が霞んでよく見えない、ってよく言ってたくせに……」


「お前を見る事くらい、できて当然だとも。父親なんだから」


「なによ……なによそれ。そんな都合の良さがあって、たまるものですか」


 尚もイブキさんはうわごとのように言葉をかけ、ツムジさんはそれに回答しつつも銃を放り出し、ナイフへと持ち変えた。


「さぁ、もう寝る時間だよイブキ。ここまで疲れただろう?ゆっくりとおやすみーー」


 そう言って、首を刎ねる。眼窩に灯っていた光は怪しく明滅したかと思うと、しゅんと消えていった。それと同時に面々は意識が戻ったのか、周りをキョロキョロと伺い始めた。


「よく、決断したな」


 リリーさんがツムジさんの肩に手をかけると、堰が切れたように彼は泣き始めたのであった。

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