3部隊合流、そして決戦へ……
僕が先行しながら道のりの安全を確保しながら合流地点まで急いで戻ってくると、リリーさんは華撃隊の面々を整列させながら待ってくれていた。こちらに気がつき、リリーさんが一歩進み出てくる。
「お、来たね。これでようやく全部隊合流か……そっちは生存者がいたみたいで何よりだ。そうだな……サチ!」
「はい!」
「お前は引き続き生存者の先導を行え。西も東もダメならこのまま南に突っ切って本国領土に戻るしかない。お前達、サチについてサポートだ」
「了解しました!」
僕が連れて転移すれば早い話ではあるが、付き合いも浅く、ましてや他国の人間だ。そうそう転移などという切札に匹敵するものを見せられるわけがない。これから決戦も控えている為、無駄な消費もしたくない。かと言って保護している手前見捨てるわけにもいかない。
その辺を目線で会話し、リリーさんは隊から数名を指差して選出し、そう告げた。実力的には低級のアンデットならば全く問題にならない戦力であった。それならば、と戦闘向きではない人を戦線から遠ざけようとここまで着いてきてくれていたヨッカさんを呼ぶ。
「ヨッカさんもお疲れ様でした。人数がそこそこ居る以上、物資が必要になるのでそっちについて行ってください」
「私はここまで、ですか。わかりました、御武運を願っています」
ヨッカさんは少し残念そうに、それでも任をしっかりと引き受けてくれた。申し訳なさを感じるが、グリムのこれからを考えるとなくてはならない存在だ。しっかりと生存できるようこちらも願う。
分隊した彼らの背を見送りながら、城の方を振り向く。あたりは雪のせいもあるだろうが不気味なほど鎮まりかえっていた。一網打尽を狙える黒い水を使ってくる気配もない。
「さてどうする?奴さん、こちらの状況をどういうわけか把握しているにも関わらず打って出てこないないとなると」
「こちらの攻撃を誘っているんでしょう、ね」
「あの入り口を見てくれ。さっきまで門はピッタリとしまっていたにも関わらず、今ではここから入ってきてくれとばかりに全開にされている」
あからさますぎる誘い。場所がアムストルということも相まって、いつかの自分の策の意趣返しをされている気分になる。
「十中八九罠が仕掛けられているであろう真正面から行く必要もあるまい、とりあえず城側面に取り付いてみるかな」
リリーさんがそう言い、華撃隊へと指示を出す。MAPで察知できるような罠はないようだが、察知できるということは以前イブキさんに話している。仕掛けるならば対策はしてくるだろう。
さあ攻城戦の始まりだと気を引き締めようとした所に悪寒が走る。
何か、何か見落としているのではないか?
本当にアムストルでの策への意趣返しだとしたらどのタイミングで仕掛けてくる?あの悍ましい城は一体何で形成されている?
「だめだ、さがって!」
言葉が華撃隊の面々に届いたかどうかのタイミングで城を形成している骸の顔が一斉にこちらを向いた。口々に初級の魔法を唱え、大小、属性すら様々な魔法が形成されていく。
「くっ!」
魔法の直撃に対し壁の形成がすんでの所で間に合った。威力こそまちまちであったが、どれも貫通することなく防ぎ切る。すぐさま、各所に遮蔽できるだけの土壁の形成を開始する。
「この城自体が大きなアンデットだと!?」
「これは流石に私の拳でも浄化しきれませんね……」
強大な敵に動揺する面々だったが、リリーさんの「狼狽えるな!」という檄が飛ぶとすぐに落ち着きを取り戻した。
「接近は中止!各自形成された土壁を利用しながら遠距離から火力の高いものをぶつけていけ!」
「おうっ!」
適度な距離をとり、先程の土壁を盾に反撃が始まった。僕も光の定規を放ちつつ、天候操作で周囲の雲を集め始める。相手の大きさに最初は戸惑いこそしたが、反撃こそくるもののそれら全てを防ぎつつも相手を削っていくというこの状況は徐々にこっちへと傾いているように思えた。
突然、隊員の1人の腕が吹き飛ばされる。続けてその近くにいた1人の腹に大穴が開き、血飛沫が雪原を赤く染めた。腕を飛ばされた方はまだ生きているが、大穴が空いた方の生命反応が消えていることから治す余地もなく即死だった。
「エイナ!……ミリー、戦線離脱せよ!全員、警戒を怠るな!何かが周囲を跳ね回っている気配がする」
敵からの見えない攻撃。透明化を無効する視界に意識を集中させ、透明化しているであろう敵を探り、捉える。
「あそこだラタン姉、獣のような姿の奴がいる!」
「姿の見えない敵ならボクにお任せなのです!フラッシュボム!」
ラタン姉の魔力が宙空に飛んでったかと思うと、弾けて強力な眩い光を放つ。その輝きが目に見えない何者かの足元へと影を作り出した。
「そこですかっ、アンチブラインド!」
魔法によって僕の目には見えていた、透明化していた敵の姿が映し出される。それはまさしく黒い獣で、立髪を棚びかせ、こちらに歯をむき出しにしながら唸っている。その顔には何処か見覚えがある気がした。
「アァ漸く、漸く来たか小僧めがァ!」
「その声、貴様まさかあの時の!?」
「あの時受けた雪辱を果たさんが為にこのガーランドが!こうして戻ってきてやったのだ!」
「気をつけて!こいつはドゥーチェの将だった1人だ!あの時アムストルに攻めてきていたのはこいつの部隊なんだ」
「ドゥーチェの……将ですか?」
話を聞いていたモーリーさんが呟く。その姿がブレたかと思うと、衝撃が走る。
「何のつもりだ、半人前の小娘がぁ!」
「もはや果たせぬと諦めたつもりでしたが……今こうして目の前に出てきたのならば、父の仇を取らせてもらいます!」




