vs
「戦争からあぶれた傭兵をまとめて雇い上げ、己の部下にしたか。冬が近くなってから解散させるとは、ルベストもなかなか酷な事をするが、貴様にとっては幸いであったな?そこまで高くない金額で恩も売れて、お買い得であっただろう?」
やめろ。やめてくれ。僕の思いとは裏腹に、オスロによって暴露が続けられる。
「その上、戦争孤児も得ることができたか。奴らはいいぞ。子供は実に愚かだ。最初こそ大人に比べるとできることは少ないが、時間をかければ今の大人よりも優秀な手駒になる。恩と刷り込みで貴様を盲信してくれるだろうからな」
心の声を聞かれまいとノイズを走らせるが、オスロはあざ笑うかのように読み取っていく。
「早いうちに反乱分子を潰せたのも良かったな?立場の分からぬ雇われものなんぞ、見せしめで殺してしまっても良いものを生かしているのは甘い気もするが。自分の考えに合わぬもの従わぬものを追い出すのは、間違いではないぞ」
違う、確かに自分のためでもあったけれど、本当に救いたいという気持ちで。
「違わぬな。貴様も結局は己の都合の良い命を金で買いたかっただけなのだ。死ねと命ずれば死ぬ、他者と異なる自分を化け物と呼ぶことのない手駒を得たかったのだろう?」
いや、僕は、仲間のことをそんな風には、違う、違う、違う……違う?
ふと疑問に思う。こいつは、目の前の奴は本当にオスロなのか?ここまで僕の感じている通りの、嫌なだけの人物なのか?
「そうだ、そうだね違わない。確かにお金で僕は仲間を集めた。だって、それも強さじゃないか。何も間違ってはいない。力あるものが弱きを従える事は正しい姿だろう?」
沈黙からの突拍子な肯定にそれまで面白がっていた風に見えたオスロは真顔に、そして後ろでオロオロとしていたスズちゃんは小さく驚いたような声を出した。
おかしい。スズちゃんならば、例え僕が怖くてもこんな時は諌めるか落ち着かせるような発言をするだろう。
「アハハハ!僕は一体なんだって意固地になって否定しようとしていたんだろう!そうか、彼らは僕の手駒か!ならばどう使おうが僕の自由だよね!」
「……気をヤったか。メンタルが随分と弱いのだな今代のイレーナは」
真顔のままオスロが何か言っているが、気にしない。怯えたような気配が後ろからする。
「良いよ、オスロ。この戦い、あなたも僕のこの戦いの盤面に参加させてあげるよ!」
成り立たせていない会話。それなのにオスロは頷いてみせた。
「良かろう、共に戦ってやろうではないか。報酬はーー」
話している最中に棍棒で一振り。確かに当たる距離ではあったが、その一振りはオスロの体をすり抜けて空を切った。気にせず、続けざまに後ろにいたスズちゃんの胴元へと棍棒を振り抜く。打撃音と共にそれは、しかし彼女の手によってしっかりと止められていた。
「キ、キルヴィ様?おやめ下さい、当たったら怪我をしてしまいますよぅ」
懇願するかの言葉。しかし、それに似つかわしくない顔でけたけたと笑っている。
「この場にいてもおかしくない強敵と恋人に化けるなんて悪趣味が過ぎるよ」
グニャリと目の前のスズちゃんの姿が、オスロが、置物と化していた騎士の男が、歪んでいく。全てが交じり合い、そしてうっすらと笑みを浮かべた女性を形取った。まとう雰囲気こそ変われど、紛れもなくイブキさんであった。
「絶望にのまれて心が壊れるまであと少しの所までいけたと思ったのに残念。追い討ちでスズの姿を使おうと考えていたのに、先手を打たれるなんてね」
そんな事を悪びれることなくのたまう。
「どうやって僕の心を読んだのさ」
「私、人の記憶を弄れるんだよ?そんな事今更聞くまでもないと思うんだけどなー?他に聞くことはないの?」
それならばと問う。
「いつの間に現実から幻の世界にすり替えられていたのかも聞きたいな。一体どんな種や仕掛けがあるのか教えてくれないかな?」
一度気がつくとこの世界は異常だ。色も輪郭もはっきりしないものが自分の周りを踊っているかのように、伸びたり縮んだりを繰り返している。地面すら、おぼろげなものに感じる。到底現実世界とは思えない。MAPすらも偽装されており、それらしく見せてはいるもののうんともすんとも言わなかった。
「さあ?あえていうなら私が見ている世界は今も昔も変わらないよ?夢も現実も、私にとっては悪夢でしかないからね」
はぐらかされたような、しかし嘘はついていないような答え。こんなものがイブキさんが見ていた世界だというのか。
「そんなことより普通、本物のスズが大丈夫かどうかを聞くところじゃないかな?」
僕に対して少し呆れたような質問がされる。確かに、そうかもしれない。
「でも答えてくれはしないんでしょう?」
「クスクス、じゃあ期待通り教えてあげなーい。付き合いの長い、恋人であるスズでさえもキルヴィにとっては都合のいい駒で瑣末なことでしかないんだね?」
そんなことはないさと反論する。精神攻撃してくるとわかった以上、相手の言葉に惑わされないよう注意しなければならない。
イブキさんはまさに、僕にとって相性最悪の相手であった。




