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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
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スズちゃんとの侵攻⑥ 再会

「ようイレーナ。会えると思っとったぞ」


転移した先で忘れようにも忘れられない声。とっさに縮地で間合いを取ろうと思ったがスズちゃんと騎士の男が居たことで行動の合間に隙ができてしまった。その僅かな隙が仇となり、あっという間に手を掴まれてしまうともう、縮地で距離を取ることができない。


「まぁ、まぁ。別に今日やり合おうって言ってる訳じゃねぇんだからそんな邪険に扱うな、私と貴様の仲じゃあないか」


「なんでこんな所にこんなおっかないのがいるんだよ……オスロ!」


名前を呼ぶと壮年の風格を漂わせるエルフ、ノーラの騎士長オスロは不敵な笑みを浮かべる。


「軍属のノーラの人間がノーラの砦にいることの何がおかしいのやらな。私にとってみればお前さんがいまだにこんな所をウロついている方がおかしくってたまらんわ」


口でも敵いそうもない。敵対反応の強さだけで判断したのが仇となった。MAPに反応していないアンデットならともかくこんな危険なやつを見落とすなんて、まだまだだと自覚する。


今のオスロは先ほど自分で言った通り、やり合おうとは考えていないようで、色も赤を示していない。昨日は間違いなくここにはいなかったはずだからあの後にここにきたと言うことだろう。


「僕達にだって理由はある!」


「言わずとも良い、勝手に聞くでな。ふむ、ふむふむ。なかなかに厄介な案件が発生しているのだな」


オスロはジ族であり、このように人の心の声を聞く心聞という技を使う。相手に取るにはなかなかにやりにくい相手だ。内情を知られすぎないよう、今抱えている事以外を雑念の中に隠し込む。


現状をある程度把握したのか一つ大きなため息をつき、責めるような目をしてみせる。


「よもや自我がはっきりしているような、高位のアンデットの一芝居を信じる阿保がおろうとは驚きだ。ケジメをつけにきたのには感心するがな」


「こちらにはこちらの事情がある。……確かに、無知だったけどさ」


「ふむ?……ああ、恩あるイレーナ家の実子か。それは確かに、知らなければ情に流されても仕方がないのやも知れんな」


「あ、あの。キルヴィ様、先程から話されているこの方は?なんで私達の事情を知っているんですか?」


呆気にとられていた状態からようやく頭がついてきたのであろうスズちゃんが尋ねてくる。そこで興味を覚えたのだろうか、オスロがスズちゃんをジロジロと眺め出す。


「予備知識のある貴様より、こっちの娘の声を聞いた方が良いことを知ることができそうだな?」


「やめろオスロ。スズちゃん、こいつがクロムがあんな事になった原因だよ」


その言葉でスズちゃんはキッとオスロを睨みつけた。


「クロム?誰だ其奴は?」


しかし当のオスロはクロムの事など覚えていなかったようだ。


「あいにく、経歴が長いものでな。興味を持った奴以外の有象無象など、いちいち覚えておらんわ」


貴様もいちいち全ての相手を覚えているわけではないだろう?と言われると、返す言葉がなかったが、それでも悔しかった。


「まあ、よい。今はそれよりも目先の事を考えるべきだな。ところで、そこで呆けておるのがうちの騎士なのだな?」


「ああ、そうだ。体を治すことはできたが、心までは治すことができなかった。近くで無事な砦がここにしかなかったから、戻ってきたんだよ」


「ふん、壊れ物か。直属のものではないとはいえ、騎士として恥ずかしいものよ」


相変わらず、仲間意識というものが薄いらしい。興味を失ったのか目線をこちらに戻す。そして何かを思ったのかニタリと笑ってこう切り出した。


「だが、一応そんなでもうちの兵が世話になった事には変わりねえ。ここはひとつ、ビジネスといこうや、なあ?」


協力して、ではなくビジネスときた。嫌な奴だとつくづく思う。そんな内心を読み取ってかヘラヘラとオスロは笑う。


「共通の敵ができたなら、はい皆さん手を取り合って意欲的に無償でご一緒にってか?そんなもん上手くいくわけがないわな。同じ組織に属さない以上、敵の敵はただの第三の敵でしかない」


まるで見てきたかのような言動だ。


「おうとも、見てきたさ。それこそイレーナや、貴様だって経験した事だろうが。同じ敵を相手にしていたはずなのに、アムストルの民にお前は何を見た、何を聞いた?」


この場所、この相手だから余計にかも知れないが、フラッシュバックするアムストルの人々。自分達は部外者ではあったが町の人共々一丸となって立った、その筈だった。


だが、それはとんでもない勘違いで。結局は部外者でしかなく、ある程度の脅威が削がれた所で敵認定をされたのだ。


「人はダメだ、すぐに裏切る。他人、ましてや国が違う奴なんざ信用するだけ無駄だ。その点金はいいぞ、金は。裏切らんからな。金がある以上は、私はお前さんがたと同じ方を向いてやろうって言ってるんだ。よしみだ、まけてやろうじゃあねぇか」


「その言葉こそ、信用できるかわかったもんじゃない。金を取られて裏切られちゃ、とんだ笑い話だ」


「金が絡む以上は裏切らない、こればっかりは私の信条だが、まぁ、そうだわな。誰もが私のように高潔な意思を持っているわけではないから、信用しろなんて言えやしない。だが、お前さんも何処かでそう思ったからこそ、傭兵団を雇おうなんざ思ったんだろう?」


何を、言っている?


そう言おうとしたが、僕はつい聞き入ってしまったのだった。

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