ラタン姉達の侵攻⑤ 迎える2日目
それぞれの後始末を終え、治療を行ってから一息をつく。クロムが水を含んだタオルを渡してくれたので、汗をかいてベタベタとなってしまった顔と髪を拭う。食事を挟んでから先ほどの襲撃についての考察を話し合うことになりました。
「あんな動いたの、久しぶりやわ……ひとまずは、みなさんお疲れ様でした」
サチさんの言葉に皆が礼をする。この様子だと今回の進行は任せても良いのでしょうかね?
「いざ当たってみて、何かしら思ったことがそれぞれあると思うんよ。夜通し見張っとったお姉さん、意見もろてもええ?」
「それでは。今回の襲撃、アンデット達は先日の日中にであったもののようにこちらを認識した後に手当たり次第襲いかかる事なく示し合わせたかのようにこちらを包囲し、襲ってきました。ボク達の事を高位のアンデットが認識したものだと思われるのです」
「本命やろか?」
すかさずサチさんが問いかけてくるが、首をふる。
「わかりません。どの程度こちらの手の内が分かっているのかすらも、です。殲滅する事はかないましたが、相手はこの結果から次の手を指すでしょうね」
「相手が本気でこっちを潰すつもりやったら、昨日みたあの砦跡の光景を引き起こす攻撃を伴ってくるはずやしなあ。ウチが当たったんは、せいぜい昨日の日中にいたアンデットに毛が生えた程度の強さに感じやし」
そうです。一番警戒していた攻撃を放ってくる相手がいなかったのです。サチさんも言いましたが、昨日の襲撃に現れたのは、多少は強くなっていたとは思うんですけど、正直なところ差があるかと言われると微妙な奴らばかりでした。
「ここからはより警戒して行動しないといけませんが、ある程度速度も必要ですね。まだ無事な集落があるか被害を抑えながら確認するのも我々の役目ですから」
クロムの言う通りで、相手がやる気を出したなら、生存者確保はより厳しいものになるでしょう。
それからポツポツ、と気になったところをメンバーで皆挙げました。例えばやけにライカンスのアンデットが多かったという事。
ライカンスの国であるドゥーチェ側というのは勿論関係あるとは思うのですが、それにしたって昨夜のアンデットの中には元々は非戦闘員であったろう老人や女子供の姿が半分ほどを占めていました。この国境周辺の集落が全部落ちているのか、それともドゥーチェに深く侵攻しているのか。どちらにせよあまり良い話にはなりません。
次の、こちらに対して明確に敵意を向けた襲撃のタイミングも話題に上がりました。
日中に来るならまだよし。次も、もしくはその次も今回と同じように深夜から明け方にかけての襲撃が続くようであるならば、ボク以外の睡眠をとらなければならない人にとってするとしっかりと眠ることもできず辛くなっていくことでしょう。
意見としてあげられたのは隊を二つに分け日中と夜間の戦闘担当を分けることでした。勿論、大規模な戦闘が見込まれるときはその限りではありませんが、神経を研ぎ澄ませすぎて擦り減らす度合いは軽減できるでしょう。これは取り入れられました。ちなみにボクはまだどちらも出来ると回答をしましたが、寝ない分疲労が余計に重なるといけないからと夜担当になりました。
最後にヨッカさんに消費した備品を補充してもらい、支度は整いました。
「準備はええやろか?そんなら、行こか」
サチさんの声と共にボク達はこの場を後にしたのでした。
「あ、あの!先の戦闘ではありがとうございました!」
移動を始めて間もなく、モーリーが近寄ってきてボクにお礼を言い始めました。いやいや、気にしないで下さいと返します。怪我をさせることなく守ることができてよかったのです。
「それにしても、ラタンさんの盾の使い方はすごいですね。自分だけでなく、他の人も庇いながら戦うことができるなんて……私も早く、強くならないと」
「この環境とはいえ、焦る事はないのですよ。むしろボクとしてはモーリーの戦闘面の成長がヤバすぎて戸惑ってるんですから」
こっそり鑑定を行った所、格闘や投擲が中級まで育っていました。つい昨日までスキルと呼べそうなものが全くなかったのにも関わらず、です。飲み込みが早いとかと言う次元ではないのです。彼女は武術に天賦の才を持っているのでしょうか。
そんな感じに、ボク達の2日目は始まったのでした。
次回、場面が切り替わります




