ラタン姉達の侵攻④ 夜襲
「お疲れ様ですラタンさん……なんだか相当にくたびれているようですが大丈夫ですか?」
開口一番心配の言葉を投げかけてくれたセラーノさんに、ちっとも大丈夫じゃないけれど大丈夫と返し、自分の頬を張って気を引き締める。
ここまでこれといった襲撃がなかった。日中に出会ったような雑魚を含めて、全くだ。あまりにも静かすぎるのは喜ばしいというよりは一層警戒した方が良いだろう。
「ああ、そういえばセラーノさん。遅れましたがおめでとうございますなのです」
先ほどの恥ずかしさを誰かへと少し八つ当たりしたい気持ちでもあったのか、ポンとそんな言葉が出てきてしまった。そんな言葉に対し、セラーノさんは少しだけ困ったように眉を下げながらありがとうございますと微笑んだ。
「種属が違うとはいえ、綺麗どころに好んで囲まれるなんて、セラーノさんがいかに徳が高いのかわかるのです」
「ははは、その道を先に示した張本人があまりからかわれまするな。それにまだ結ばれる、とも限らない話なのですから」
居る。来ている。確実に。闇の中に潜むありもしない息遣いがひしひしと感じられる。
それに対してセラーノも気づいており、表向きボクと2人でとりとめもないような話をしながら、バレないようにゆっくりと聖なる力を練り上げていく。ボクはというと、その間櫓に巻きついている糸を何度か弾いていました。
「……時にラタンさん。夜に咲く花はおありですかな?」
弾いた糸から、ボクが弾いたのとは違う手答え。それと同時にセラーノさんからこの場にそぐわないような質問が飛んでくる。否、これは質問ではない。あらかじめ取り決めておいた合図の言葉だ。
「ええ、ここで咲かせて見せましょう、か!」
ボクのランタンに灯る火を音が聞こえるくらい瞬かせると、リンクさせておいた他のランタンが真昼の陽の光のように白く輝き出す。せいぜい薄明かり程度であった世界は一瞬のうちに昼間に放り込まれたかのように明るくなった。
照らし出されたのは身体が半壊しているような亡者の群れ。中にはレイスやゴーストのような、厄介なやつらも見受けられます、僕らの逃げ場を無くすようにひしめき合っていましたが、突然の白昼を思わせる光をみて、戸惑いを生じさせたようでした。
その姿を確認次第、隣から力強く跳びだすセラーノさん。一度は心ない仕打ちから潰されたとはいえ、その一歩は早く、鋭いものであった。あっという間に距離を詰め、近くの一群を吹き飛ばす。このまま一点突破が出来そうな勢いで、立ち竦む亡者どもを薙ぎ払っていく。
仲間が吹き飛ばされていく光景を見てようやく我に帰ったのであろうか?それとも近くにある生命に惹かれたのか?ともかく一斉にセラーノさんめがけて群がり始める亡者。
だが、それは許さない。ヒュン、と空を切る音が聞こえたかと思うとセラーノさんの右前面の敵が半壊した身をさらに崩させられる。
二度、三度。風切り音がなる度に細かくなっていくアンデット。やがて姿を保てなくなるほど細かくなったところで、セラーノさんが放つ聖気によって討ち払われていった。そこに降り立つ、長身の青年。うっすらと緑の魔力を纏い、手から伸ばした糸を自在にうねらせていた。
「助かりましたよ、クロムさん」
「セラーノさんもご無事でなにより」
そのまま息のあった殲滅を始めたそんな2人がいる反対の方角でも、アンデット達は優位に立つことはかないませんでした。
「せっかくもう一眠りしよう思うた時に来るなんて、えらく不作法な奴らやなぁ」
凄く不機嫌な様子を見せるサチさんが、手にしたふた振りの刀を擦り合わせていくとそれに合わせて扇状に広がる光弾が現れ、彼女に仇なす眼前の敵をその形へと削り飛ばしていきます。光弾が出るまでの繋ぎを他の華撃隊がフォローに入り、見事な連携で討ち滅ぼしていきます。
さて、ボクもやりますか。とはいえ、魔法はみんなの視界を確保する為のこの明かりを維持するのに結構持ってかれているのでたいしたものが出せません。なのでランタンの次に相棒とも言える、盾の出番なのです。
買った当初は円形だったこの盾も、自分なりの使いやすさを考えて改造を続けた結果長円形になりました。長いスパイク二本の合間に新たに口径の大きな筒を構え、中から杭を勢いよく突出させる機構を設けましたし、小窓を増やし、そこからキルヴィにもらった呪符を発射することもできる優れものです。
スパイクと杭に聖水をまぶし、櫓から飛び降ります。皆奮戦をしている中を見渡し、戦闘経験がほぼ皆無であるモーリーがヨッカさんの近くにいるのを見つけて近くへと駆け寄ります。
「大丈夫ですか、モーリー!ヨッカさん!」
「ラタンさん!は、はい!なんとか」
2人は恐怖からか強張った顔をしていましたが、ボクが近くにきたということで少し安心できたのか緊張が和らいだように見えました。
駆けつけることができたはいいもののそこは対集団戦を考慮していない盾、ましてや威力の高い魔法が使えない状況では目立った活躍はできそうもありません。せいぜい自分含めたこの場の3人が怪我しないで済むように数体を倒すするので精一杯です。モーリーも足から聖水を滴らせながら蹴り技を放って貢献してくれていますが、やはり場慣れしていないこととリーチの短さからスキも多くその分ボクはカバーに回ります。ヨッカさんも傭兵経験があることから少なくとも自衛はできている様子でした。
どれほど続けたでしょうか?時間感覚が危うくなってきた時、ボクの近くを緑の糸が走っていきました。それと同じくしてドン!と鈍く響く着地音。
「お待たせしました」
クロム達が自分達の方向を殲滅し駆けつけてくれたようでした。ふと見上げると華撃隊も欠けることなく近くで戦っています。
まもなくして、殲滅を確認。こちらの被害は軽傷多数死者ゼロと戦果を上げることができたのでした。




