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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
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ラタン姉達の侵攻③ 夜営

夜の帳がすっかり落ち、明るいのはボクの影響下だけになりました。砦を調べてくれた華撃隊の方によると、中心に向かってやや傾斜が付いているように感じたのと、洪水でもあったのか、高いところまで残った壁には水位の跡に思われる痕跡が残っていたそうです。なかなか全体像がつかめませんね、これが繋がっているのか、はたまた別の影響なのかが分かればよいのですが……


それはさておき、人間には睡眠は大事です。寝ずに見張りをする役割を決めねばなりません。ボクは寝なくても良いので、自ら立候補しましたが、視野的にも気持ち的にもはあともう一人欲しい所です。話し合いの結果、三交代制として、クロム、サチさん、セラーノさんの順でする事に決まりました。


まずはクロムとの番ですね。華撃隊の人が作ってくれた簡易櫓の上で布団に包まり、背中合わせになって座り込みました。もたれてみてわかる背中の感触。昼間には小さく思えていましたが、いつの間にかこんなに大きな背中になってしまって。


「どうしたの、ラタン姉?……ああ、そうだ。改めて、日中はありがとう」


「ボクは何もしていないのですよー。ただクロムとモーリーが勝手につまづいて転んで、自分で起き上がった。それだけのことなのです」


「そっか。それでも、ありがとう」


わしゃわしゃと頭を撫でられる。むう、気安く結婚前のレディの髪を触るものではありませんよ?


「ねぇラタン姉。実を言うとさ、今私はすごく悩んでいるんだ。スズ以外にも自分に大切な人ができてーーああ、もちろんラタン姉やキルヴィは別だよ?それで、その人達をもし失うようなことがあったなら、イブキさんの様にならないなんて、自信がないんだ」


見張りの作業に戻ってから暫く経ち、少し沈んだ声でクロムがこちらに語りかけてくる。


「ボクだって、貴方達を失ったらと考えると怖いのです。それでも、前を向いて歩かなくてはなりません」


このまま生きていれば、例え争いによって命を磨耗しなくたって、愛しいこの家族達は、アンジュがそうであったようにボクを残して先立つ事だろう。そうあるべきだし、仕方のない事だ。そう、自分にも言い聞かせる。


「でも、2人で行った買い物の時、私が浮ついていないで異変に気付けたのなら、こんな討伐作戦自体がなかったんじゃないかって」


そういえばイブキは、クロムと買い物に行った先で今回の騒動の元である死者蘇生の本を手に入れたんでしたっけ。その事すらも、この子は自分の責任なのではと背負ってしまっていたのか。


「全く、うちの弟達には困ったものなのです。大人になってからも、いつまでもウル君に囚われていたのはあなたがしょいこむことではありませんよ?」


そう、この子達の責任ではない。悪いのは、ケアをしきれなかった当時から大人であるボク達だ。きっと、イブキとナギはあの日からずっと泣いていたのだろう。ナギは良い人に出会えて立ち直れたみたいだが、イブキは変わらず泣いていたのだろう。そのサインに、事が起こるまで気がつかなかったボク達は愚か者だ。


「……そろそろ、交代の時間なのですよ。ひとまず全て忘れて、眠ると良いのです」


クロムはまだ何かを言いたそうな顔をしていましたが、言葉を呑み込んで寝床へと戻っていった。


「お疲れ様です。いやぁ、もうすぐ春やけど夜はやっぱり冷えますねぇ」


「お疲れ様なのです、サチさん」


次にやってきたのはサチさんだ。寒いとのことなので、暖かくなるように魔法をかけてあげると、「おおきに」とニッコリ笑ってお礼を言われた。


「好意に甘えてしまってすみません。ウチら軍属やのに一般にだいぶ負担させてしもうてますよね?」


「そんな事はないのです。元を正せば身から出た錆に付き合わせてしまって、帰って申し訳ないと思ってます」


話してみればサチさんは人柄も良く、何処かの国の訛りがありますが話しにくさというのはそんなに感じる事はありません。短時間でだいぶ仲良くなれたと思います。


「あー、ラタンさん?その、昨日から気になっとったんですけども……あの少年と付き合っとる言うのはホンマなん?」


いくつかの世間話を挟んだ後、凄く興味があります、といった顔をしながらそんな事を尋ねられました。楽しく話しているうちにすっかりと昨日の醜態が頭から抜け落ちていました。


「あ、あはは……そういえば昨日は大変見苦しい所を見せてしまいましたね。キルヴィの事を言っているのであれば、確かにボク達は恋人同士なのですよ」


「キャー!それでそれで、どんな馴れ初めやったんですか?どこまでいってはるんですか!?」


鼻息荒く、グイグイと質問をされます。年頃の女性というのはどうしてこうも人の色恋沙汰が気になって仕方がないんでしょうか?いや、ボクも人の事は言えないんですけども。


彼女の質問に、キルヴィと出会った時の事を振り返ってみる。初対面の時の、澄んだ水を表すような蒼く醒めた瞳は、未だにふとした拍子に思い出すほどだ。


始めに抱いた感情は驚きであった。透明化していたのに気付かれたというのもあるだろうけれど、もうすぐ冬になる、そんな時期にやや開けた所とはいえ深い森の中の小さな丘に1人、幼子がポツンといるのだから。


次に、哀れさを感じた。あの子の生まれの境遇に、親を持たぬ精霊の身でありながら憤りを覚えた。せめてボクだけでも、近くにいてこの子を認めていてあげたいと思った。


そこからアンジュの元に連れていって、色々な思い出を重ね、気がついたら幼子は1人の男の子に成長していて……姉でいたい、というよりも愛したい、という気持ちが強くなった。


同じように歳を重ねるスズに嫉妬する事だってある。いや、恋人同士になれた今だって本当はしている。顕現してから積み重ねた年齢が今となっては足枷となり、今一歩踏み出せない所があるのだ。


それでも、まだマシだろう。同じ歳の頃に見える今の段階までは。ここから先はアンジュやツムジのように、ボクをおいて老いていく。同じ時間軸を歩いているようで、やはりズレているのだ。そしていつかーーそのいつかがたまらない怖い。


口には出していないつもりでしたが、サチさんはボクのその葛藤を読み取ったらしい。


「ホンにまあ、かいらしいお方やね。人に執着しとる精霊なんて隊長以外おらんと思っとったわ。お姉さん、よう隊長に似てはるわ」


ああ、そういえばリリーさんもボクと同じ経験を、ボクよりも多く長く体験しているんでしたね。


「今の隊員の多くはウチ含めて初期の華撃隊メンバーの二世や三世なんや。人に恋した精霊は難儀なもんやっていうのは、隊長を見てれば思うわ」


ああ、彼女達がリリーさんに対して妙に距離が近く感じるのは代を超えた親交という事もあるんですね。


「まぁ、お姉さんがかいらしいのはわかったわ。でもはぐらかされへんで?それで、あの子とどこまでいったん?」


ちぃっ、過去の話とか交えてなんかシンミリさせてあやふやにしようというのは失敗しましたか。


結局、交代までの間ボクはサチさんに根掘り葉掘り聞かれてしまいましたのです。は、恥ずかしい……

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