ラタン姉達の侵攻②
日が真上に登り、国境を表す壁がようやく見えてきたところで、ボク達はその異様性に気がつきました。
壁一面が白いもので覆われている。最初、それは雪であると認識をしていたそれは、近付くほどにその姿を露わにしました。
「これ、全て骨だというのですか……!」
1000は下らないのではないか?いったいどれだけの骸を作ればこんな事になるのか。国境は誰ともしれぬ骨で溢れかえっていました。あまりの光景に気をやられたのか、ふらついたモーリーをクロムが優しく抱きとめます。あの様子ならば、ケアは問題ありませんかね?
アンデットの可能性があるので下手に近づくことも出来ず、やや遠巻きに骨の壁を眺めながら砦があるはずの場所を目指して移動をするボク達でしたが、しかし、やはりというか待ち受けていたのは大きな物に食い破られたかのような有様の廃墟と、無残な骨の数々でした。
「……何があったっていうんや」
すでに役目が果たせなくなったその瓦礫の山に生存者がいようはずもなく、その疑問に答えられるものは居ませんでした。
不幸中の幸いと言うべきか、これらの骨はアンデットではなく、横を通過しても特に反応はありませんでした。とはいえ、このままにしておけば時間の問題でしょう。できうる限りではありますが、ボクは火と光の持つ浄化の力を使い、他の皆は聖水を用いて土地を清めることにしました。
こんな時、キルヴィがいれば光の定規で一瞬で終わるのでしょうか?思い浮かべてみて、なんとなくそうはしないだろうと感じます。すでにアンデットになってしまったならともかく、死者を弔う気持ちを人並みには持っている子ですから、今のボク達と同じ行動をすることでしょう。
「……この調子やと今日の所はここまでやろか。建物の役割を成しとらん以上、野営準備のがあっとるやろね。浄化組と野営準備組とに分かれて作業しよか」
まだ日は高いところにありますが、視界が悪くアンデットが活発になる夜間の行動は避けたいと状況判断したサチさんの言葉で自分に適した作業へと行動を移す皆。ボクやセラーノ、それから華撃隊の1人は引き続き浄化をし、後は設営に入ります。しばらく黙々と続けていると、反対方向にいたセラーノさんが首を傾げたのが見えました。
「どうしたのですか?」
持ち場を外れてセラーノさんへと尋ねる。
「ああラタンさん。いえね、気にしすぎかもしれませんがこの亡骸、どれもこれも砦に背を向けているんですよ。加えて頭骨の数に対して下半身の骨が異様に少なく思えて」
気にしてみると確かに砦のあった方と逆向きのものばかりでした。駆け足で砦の反対方向に向かうと、こちらも同様でやっぱり砦に背を向けています。
「砦を襲った何かから逃げようとしていたんですかね?」
それならば辻褄があうのか。ただ、よくわからないのは壁から大してはみ出す事なく死者の群れが伸びている事と、下半身の骨が少ない事だ。こうなった経緯がわからないのでは、これが仮にアンデットの仕業だとした場合、この先に進むのであればこれをやったであろう存在に出くわす可能性が途轍もなく高いのに対して策なしで挑むという事です。攻略の手がかりを見つけ出すのが、ボク達の明日につながる行為だと言えるでしょう。
浄化の作業に戻りながら、骨をよくよく観察してみますと、残っている部分において一番下に当たる背骨や肋骨なんかは、頭蓋骨に比べて下の面がかなりケバ先立っているのがわかりました。まるで荒い物でこそぎ落とされたような、そんな有様です。向きは砦に引き寄せられるように削られており、攻撃の着弾点はやはり砦らしい、ということがわかりました。
とりあえず現時点で判明した事をサチさんやクロムに通達をし、華撃隊の人から砦跡地を探る役を新設してもらいました。何かわかったことがあったら知らせてくれるようにお願いし、浄化に専念します。
浄化がひと段落ついた時にはもう日が沈みそうになっていました。夜灯の精であるボクの本分です。自分のランタンへと火を灯すと、ヨッカさんに用意してもらっていた共用のランタン全てにリンクさせ、光を発生。寒く冷たい闇に飲まれそうな世界の中で、火が持つ暖色系の灯がボクらを照らしあげます。
少し疲れたので適当な場所を見つけ座っていると、食事ができたとクロムが持ってきてくれました。
「モーリーとはもう良いのですか?」
「お疲れ様です。ええ、心配をかけました」
む。近くに華撃隊の人も居るからと、珍しくボクに対して丁寧な口調ですね。まぁでも良いのです、これで心配事が一つ減りました。……1番寄せ集めな、うちのチーム内での不和の空気はマズイですからね。
クロムから食事を受け取り、口をつけます。初日ということもあり、まだ鮮度のある食事を取れるのは良いことです。そのままエネルギーに変えることができますからね。
本当ならば、生きていく上で食事の必要がないボクが貴重になってくる食料を食べるのは管理の都合上避けた方が良いのかもしれませんが、ボクのやる気にも直結しますので、余力のある内だけでも食べさせてもらいたい所ですね、ハグハグ。




