スズちゃんとの侵攻②
まばらに雪の残る地をとびとびに移動する。先程の砦はアムストルから比較的遠方という事もあり落ちていなかったが、やはりちらほらと落ちてしまった、もしくは放棄した砦もあるようで、そこでは兵士姿のアンデットが徘徊していた。ナワバリ、というか決められた行動範囲があるらしく、定められた敷地外に出たら目の前であっても引き返そうとする動きを見せた。それ以外は、一般的なアンデットの様に振る舞っている様に見えた。
パターンはもう1つあるようで、砦間を巡回するアンデット群もいるようだった。こちらはリリーさんから報告を受けた通り、命令系統が生きているのか連携して行動している。魔法を使わず物理的に壊滅させて泳がせてみると、おちている砦に向かっていき、そこからノータイムで援軍を得てまた挑んでくるという行動をしてきた。倒したはずのアンデットも復活し挟撃もしくは包囲してくるというのは、対策も無しに挑んだ時の死を意味していた。
「なかなかにめんどくさいですね」
そう呟いたスズちゃんと背中合わせになり、光の定規と熱線魔法でお互いの前の敵を薙ぎ払う事数分。そう、数分もかかってしまうほど奴らは数が多いのだ。途中からは意図的にまばらに現れるという、いやらしさまでみせてくる。
「まだ、魔力は大丈夫?」
「お気遣いありがとうございます。新しい杖のおかげでそこまで疲れは来てませんね。キルヴィ様は、ストック数大丈夫ですか?」
お互いに多少息の上がってしまったくらいだ。ストックもそんなに減ってない。
「どのみち今日の侵攻はここまでの予定だし、さっさと終わらせてゆっくりしたいところだね」
他の隊とある程度足並みを揃える為にも初日はあまり進まない予定になっている。大した疲弊なく素早く移動ができる縮地は、やはり反則並みの代物だと認識できる。
「……それにしても多すぎではないですか?それに、エルフというよりはライカンスが元のアンデット割合が高く思えます」
ライカンスの国である、ドゥーチェ側に多くいるのであればわからないでもないが、此方はエルフの国であるノーラ側なのだ。
つまるところはアムストルの一件の後、ドゥーチェはノーラに対して侵攻していたのだろうか。それとも、同時侵攻をしていた?
「どちらにせよ、これだけの兵を外にやるなんて大した軍事力だね。あとは実力が伴っていればなおさらなんだけど」
アムストル侵攻の兵を見る限り、あれが騎士と渡り合うのは到底無理に思えた。しかし、それは少数対少数の場合だ。帝国の強みはその数で、例え騎士が物理的な戦闘力で百人力、千人力であったとしても、それ以上の物量で当たられればいつかは膝を折ることになる。
ニニさんの話だとライカンスは猫同士、狼同士など同族で交わった時には多産になるらしい。ドゥーチェでは自分の家を継ぐ嫡子を定めた後、それ以外の子は国軍に徴兵されると言っていた。
ここにこれだけの兵を送っていたとしても、いくらなんでも全兵力投入して西化しているわけではないと思う。国防の為に残している兵もいるだろうし、自らも戦うという帝王や側近、近衛兵の方が質は高いと考えられる。そう考えるとやはり軍事力はなかなかのものだ。
「ほいっ、と」
最後の一閃。MAPには映らない為確実性はないが、それでも見えている範囲のアンデットを文字通り跡形もなく消し去ることができた。
「お疲れ様です、キルヴィ様」
スズちゃんが荷物からタオルを渡してくれたので、「ありがとう」と受け取って顔を拭う。
さて、攻略自体は本日分のノルマを達成したものの、まだ日も高く、当初予想していたよりも早く終えてしまったらしいのは明らかであった。
「スズちゃん、もうちょっと先までーー」
「ダメですよ?今日はここまでであると、作戦をたてた段階で合意したではないですか」
先に行こうと提案しかけたところで、スズちゃんがニッコリとしながら即却下をしてきた。色々と甘言を用いるが、ニコニコするばかりで受け流される。くっ、僕のお目付役をしっかりと全うしてるなぁ。
「わかった、降参だよ降参。今日はここまでだ。拠点の作成に移るよ」
「キルヴィ様にわかっていただけて何よりです」
お手上げのポーズをすると、スズちゃんはより笑みを深めたのであった。
拠点か。いつもの設置魔法でやってしまうのもいいが、そういえば手に入れてから使用していないMAPの機能があったと思い、巻物を広げてこの辺りを投影させてみる。……改めて見ると、光の定規によってだいぶ地形が変わってしまったようだった。なんとも言えない表情を浮かべてしまったのだろう、スズちゃんが巻物を覗き込んできて、そんな表情をしてみせた。
魔力インクをペンに仕込み、地図を拡大して自分の周りに大きめな四角を描いてみる。すると、頭の中で「上げますか?下げますか?」と言った選択肢が浮かんできた。上げる方を選んでみると、突然足元が揺れ、驚いたスズちゃんが抱きついてくる。足元は隆起し始めたかと思うと、元の高さから2メートル位上がった所で、先程の選択肢の隣に高さの調整を表すような数字が1から10までプルダウン式で浮かび上がった。5に合わせるとその高さまで迫り上がる。
もう一個、先程の四角の内側に一回り小さい四角を描き、今度は下げるを選ぶとその範囲が凹んでいく。あっという間に出入り口が上方向にしかない、簡易的な砦が出来上がってしまった。
「なるほど。地図に描いたものが反映ってこんな感じなのか」
便利、なんて言葉では片付けられない。アムストルで息を切らせながら行った壁作りが、より簡単に行えるようになってしまったのだ。消費だってうんと少ない。
「凄い。確かに凄いですけれど……あっという間に終わらせてしまったらこの後の時間どうするつもりですか?」
「あっ。ス、スズちゃんやっぱりもう少し先に」
「だーめーでーすー。調理始めるのでおとなしくしていてください」
結局、スズちゃんから許可が降りなかったため、今の力を使って周りの地形をある程度修復することで僕は残りの時間を費やす事にしたのであった。




