スズちゃんとの進行①
さて、作戦はこうだ。まずリリーさん率いる華撃隊、これが本作戦の本隊となる。兵站管理としてツムジさんが付いている。このまま南方から北上していき、アムストル跡地を目指す。
見敵必殺とし、大人数でやや派手に行動をする事で別働隊の存在を隠す陽動の役割も持っている。華撃隊の面々は普段はあんなに陽気な人達であるが、実力に関して言うならばオスロが率いていた騎士にも劣らぬ力量を持っている。即座に敗北、なんて事にはまずならないと言えるだろう。
別働隊その1として、ラタン姉達。兵站管理としてヨッカさんが付いて回る。ドゥーチェ側から攻める手筈ではあるが、周辺の集落に生存者がいないかを調べて回る役割も担っている。数人、華撃隊の人にも付いてもらっていて、その中には昨日関わったサチさんもいた。
僕とスズちゃんの二人組は別働隊その2である。被害のあまり出ていないノーラ側から攻める。被害がないというと安全地帯のように感じるかもしれないが、アンデットを退ける位には強いノーラの兵がいるわけで。詰まる所は戦う相手が変わるだけになるだけだ。まだ、話し合いができるだけマシかもしれないが、騙される危険性もある。オスロという強敵もいるので、他2隊よりも危険度が高いのかも知れない。
以上三隊でアムストル跡地までのアンデットを掃討しながら進行するのが、本作戦内容となる。
スズちゃんとしっかりと手を繋いで、縮地で転々と移動する。グミさんが教えてくれた、交流のあった集落がある地点に飛んでみると、そこには生者の反応はなく、打ち壊された家々とそこに跋扈するアンデット。寒さから腐敗の進みが遅いのか、致命傷を受けた怪我がある以外は、彼らは生前の姿をほぼ留めていた。
僕らに気がつき、知能を失った瞳を向けて命の持つ熱を求め蛾のようにフラフラと寄ってきた亡者の中には幼い子の姿もあり、いたたまれない気持ちになる。
「せめて、安らかに」
こちらへと手を伸ばす亡霊を、一条の光が焼き払う。今のは僕の光の定規ではない。光の定規を真似た、スズちゃんの熱線魔法だ。子どものアンデットが手に持っていた木で作られた人形が主人を失ってポサリと地面に落ちる。その人形を手に取り、比較的壊れていない家屋へと横たえさせる。寒々冷えた外よりも、せめて雨風凌げる場所に。この人形を集落の人に見立てた、僕らなりの弔いだ。
「これ以上こんな悲劇が起きないように頑張りましょう、キルヴィ様」
「そうだね。はやくウルさん達を止めないともっと被害が出るね」
暗くなった気持ちを2人で切り替えて、再び手を取り合って先に進む。この先にあるのはノーラ側の砦の筈だ。警戒しながら進まねば。
砦が肉眼で見えるところまで来る。MAPで確認は出来ていたが、生存者反応あり。ここはまだ落ちていないようであった。さて、どう出たものか。戦力を見るに騎士レベルが数人いる程度で、僕が単体で攻め入るのには支障がない。……ここは一度、相手の出方も見てみようか。どうするかを説明して、2人で手を繋ぎ砦の前まで歩み出てみる。キリキリと弓を引き絞る音が聞こえてきた後、上に立っていた見張りから声をかけられた。
「止まれ!……止まるか。どうやらアンデットでは、ないようだな。見た所旅人のように思えるが、この砦に何の用だ?」
エルフの若者にそう問われる。同時に、弓を下ろした様な音も聞こえた。警戒はしている様だが、敵意は今の所は持っていないらしい。ノーラと言えばエルフ至上主義で多種族を見下している印象があったが、それも感じられなかった。
「僕達はアムストルに向かっている最中なのです。昨年の秋からもうすぐ春になるっていう今の今まで、アムストルにいるギルド職員から連絡がパッタリと途絶えてしまい、何かあったのではないか、確認をしてきてくれないかってうちのマスターに言われまして」
ギルドがあった事は流石にこの人達も知っているだろう。念の為にと借りておいたトトさんのギルドマークを見せて、なるべく怪しくない言い訳をしてみたが、さて。
「ベルストのギルド組員か……この先はノーラだ。少し方角がズレているぞ。アムストルまでは壁を伝っていけばいい」
信じてくれた、のか?敵対反応の色が薄くなった。お礼を言って立ち去ろうとすると、呼び止められる。
「ああ待て、焦るんじゃない。道中出会ったかは知らんが、今この辺りにはアンデットが多くたむろしている。それも、揃ってアムストル側からやってくるのだ。何かあった事は確実だろう。2人で行くのはよした方が身のためだぞ」
ふむ。他の国の若者に忠告をしてくれるとは、この見張りの人は大分親切な様だ。僕達は知っているが、アムストルに何があったかなど一般にはあまり浸透していないのかも知れない。……とはいえ、自国がアムストルを攻めた情報くらいは持っている筈だろうから、情報を選択している感は否めないが。
それでも、無駄に血を流す様な戦いはしなくてもいいというのは大きい。一度自国に戻ります、ときた道を戻る様に見せかけて見えなくなったところで縮地をし、僕達は先へと進んだのであった。




