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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
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訓練の成果

時間は流れ、間も無く日が暮れようとしている。春が近いこともあり、だいぶ日が長くなってきたが、それでもこの時間帯になると寒さが勝る。そんな中で僕達が何をしているのかというと。


「ら、ラタン姉……おじさんもお姉さんも困ってるから、もうその辺りにしない?」


「んぐぐぐー!」


「かきこんでる!?いつになく食い意地が!?」


ラタン姉に連れられて、元兵士のおじさんの洋菓子屋にお邪魔しているのであった。


「姉がすみません、物資が1番貴重な時期に……」


「せめて、片付けはさせていただきます……」


食べることに夢中で言葉を忘れてしまったラタン姉を横目に謝る僕とクロム。


「ははは……うちの味を姉さんは春まで待てなかった口かな?それなら、職人冥利につくってもんだよ」


おじさんは笑って許してくれたが、せめてもの気持ちとして多めのお金を用意しておこう。こうしている間にもラタン姉はドンドンとお菓子を食べていった。なんだこれ。


「へぇ……自分達で杖を作ったんだ!いいなぁ、綺麗だなぁ」


「ええ、キルヴィ様に手伝っていただいて作ることができました!生涯の宝とする所存です」


少し離れた所では、スズちゃんが本の一件から仲良くなったらしいお姉さんに杖を自慢していた。生涯の宝って表現に面映くなる。


「共同作業って、大変だけど繋がりが深く感じられるのよね」


そう言って愛おしげに男の子の頭を撫でてみせるお姉さんに「そうですよね」とスズちゃんは相槌を打った。しばらくお姉さんの行動を見ていたが、何故か突然顔が赤くなったのをみてお姉さんは「あらあら」と意地悪に微笑んで見せた。


「キルヴィさんも、共同作業っていいものだって思ったわよね?」


「はい。大切な人となら、尚更です」


そう返すとまたも楽しそうにお姉さんは笑い、ますますスズちゃんは赤くなり、何故かラタン姉は食べるスピードが上がったのであった。


「ご馳走さまでした。ここの味はやはり良いものなのです」


僕達に売れる分をほとんど1人で食べきったラタン姉は少しくたびれた様子の手帳へと何かを書き込んでみせる。その手帳に大切そうに挟んであるメモには見覚えがあった。


「できればこの感情を、またあの子とも分かち合いたかったのです」


メモを書いた人物、イブキさんは食についてうるさかった。今ここにいれば、ラタン姉とこの洋菓子についての評議を延々としていたことだろう。


その光景は、現状見ることが叶わなくなってしまった。彼女は既に人類の敵であり、明日からの僕達の討つべき対象である。ラタン姉がここに来た理由は、かつての友への敬意の表れだったのかもしれない。


「どういう事情かはよく知らんが、顔を見るにまた何か大変な事に挑もうとしているみたいだな」


おじさんが僕へと話しかける。


「前も言ったかもしれんが、英雄って言ってもまだ若いんだ、辛いと思ったなら逃げ出しちまってもいいんだぞ。あんたらに死なれると、その、なんだ。うちの売上も下がっちまうしチビも悲しむからよ」


「心に留めておきます」


「……ほら、キルヴィさん。少しだけど魔力インクも持っていってよ。いざという時、足りないと困るでしょう?」


そういって、インクの入った小瓶を僕に渡してくれるお姉さん。ありがたく受け取り、服の内ポケットへとしまい込む。こうして小分けに入れておけば、仮に荷物が使えなくなったとしてもリスクが分散できるのだ。


「私達はあなた達の次の来店をいつでも待ち望んでいますから、ね?」


お姉さんの言葉を背に、僕達は宿へと戻ったのであった。


「お、帰ってきたね。心残りな事はもうないかい?」


訓練に行ったはずなのに何故か先に戻ってきていたリリーさんが、開口一番でそう尋ねてきたので僕は首を横に降る。


「いいえ。気がかりなことばかりで、死ぬに死ねないなって感じです」


「それは結構。必ず勝って、生きて帰るよ」


笑い合う僕達。生きて帰ることを考えようとする意思の確認のしあいであった。


「あの、ところでリリー様、モーリーの姿が見えないのですが……」


キョロキョロとしながら、クロムがそう尋ねる。はて?何を言っているんだと首を傾げる僕とリリーさん。


「悪い冗談はやめてあげなさいな、今日一日、彼女はすごく頑張ったんだ」


「ほんと、見違えたのですよ。面構えが素晴らしいのです」


モーリーさんを褒めるリリーさんと、ラタン姉の賞賛。僕もMAPからの情報で今日一日で存在感が著しく上がっているのに、素直に凄いと感じた。


「あの、私今どこかおかしいでしょうか……?」


「もしかして貴女がモーリーなのか……?」


パートナーの態度に不安げにするモーリーさん。その声にようやく、クロムは目の前にいるのがモーリーさんであると認識することができたようであった。頷く彼女にクロムは呆然とする。そして我にかえったかと思うと叫び出す。


「いや、もうほとんど別人じゃないか!ライカンスの、動物要素がもうほとんど耳だけになっちゃってるし!細くて華奢だった体が足回りを中心に筋肉質になってるし!何があったんだ、訓練で何があったっていうんだ!?」


「はっはっはー……想定以上に頑張りをみせてくれたものだからつい、ね」


やっちゃった☆みたいに舌をぺろっとだし何をしたかをぼかすリリーさん。


「駄目、でしょうか……」


パートナーの突っ込みっぷりに自分が否定されていると感じ、涙目になるモーリーさんだったが、


「ああもう駄目じゃないよむしろドストライクだよ惚れ直しちゃったんだよ!!」


と大声で叫びながらクロムは勢いよくモーリーさんへと抱きついたのであった。

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