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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
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次代の芽

胸元で落ち着かせたスズちゃんの提案で、練習の成果を見る事になった。


「とはいえ、キルヴィ様に比べると全然なのですけど」


と言いながら杖を構える。今までの杖と比べるとやはり慣れていないのだろう、ややたどたどしい持ち方だった。目を閉じ、集中している。


やがて、杖の先に淡い光が集まり始めた。ふわふわと杖先から浮かび上がると、僕の周りをグルグルと回り始める。そして目の前で止まったかと思うと、小さなハートの形に火花が爆ぜた。おや、これって……


「ボクの魔法、ですね。制御もよくできていますです」


ラタン姉が感心した様子で呟く。ラタン姉が言うには方向転換と停止を何度もさせたり、威力の調整をしないといけない魔法だそうだ。失敗すると即、昨日の威力の火の玉に変わるという。


「えへへ、今は1つ操るので精一杯。どうですかキルヴィ様?」


問われたのでスズちゃんの頭をわしゃわしゃと撫でる事にした。昨日の今日でここまで操ることができるのは並みの努力ではないと思う。羨ましかったのだろうか、ずいっとラタン姉の頭も寄ってきたのでそちらも撫でる。うむ、幸せ空間。


「次の芽は、着実に育っているという事ね。全くあなた達には驚かされるわ」


突如として戻ってきたリリーさんに反応が遅れる。その隣にクロムの姿はなかった。


「ああ、彼なら森の中に放り出してきたの。彼がお願いしてきた雪遁走術の他にも稽古をつけてあげたら、満身創痍になっちゃったみたいでね。体力が戻れば戻るでしょう」


何というスパルタ。あれ、でも他にも稽古ということはもしかして。


「彼、相当執念深いのね。雪遁走術をこんな短時間で無理やり物にしてしまうんだもの。間違いなく才能あるわ、あなたの付き人は。私もつい、うぬぼれの愚か者になる前にへし折ってしまったわ」


リリーさんにそう言わしめたとしれば、クロムも誇りに思うだろう。なんならあなたにも稽古をつけましょうか?と提案されたのでお願いしてみる。リリーさんの手を握り、森の中へ縮地。


「消耗してしまっては元も子もないからあなたは縮地以外の魔法は無し。スキルはありよ。ルールは先に武器を壊したり、手放させたら勝ちだから壊れてもいい武器にしてね。お手並み、拝見させてもらうわよ?」


「うーん、魔法以外はてんで鈍ってしまったので、お手柔らかに」


リリーさんはいつもの槍ではなく、その辺の木の枝を手にしてプレッシャーを解放しつつそう言う。僕も、うっかり発動させないように腕に巻きつけているスクロールを外し、久々のランスボアの骨棍棒を持つ。


「あなたの好きなタイミングで仕掛けていいわよ。全力できなさい」


そう言われたので、縮地で一旦リリーさんの視界の外まで移動をし、足元を叩きつける。移動して、また叩く。


「……何を、してるのかしら」


よく通る声でリリーさんがこちらに訪ねてくる。その声は困惑気味だ。


「準備ですよ。もう、始まってるんですよね?」


そう言いつつ、僕は今しがた地面を掘って会得した小石を使い魔弾の投石。当たったかといったタイミングでリリーさんの姿がブレたかと思うと、木の枝で打ってこちらに跳ね返してきた。


「そういえば、あなたはその投石でイベリの尖兵を退けたんだったわね!」


跳ね返した石と同じ速度でこちらに迫ってくるリリーさん。くっ、投石はやはり通用しないか?当たる確率も低い数値を示している。


「いいや、やるべきだね!」


当たる確率がある以上、試してみるものだ。そう思い拾った石を全てリリーさん目掛けてばらまく。自分めがけて一直線だった石をことごとく弾き飛ばすリリーさんだったが、


「くっ、闇雲な攻撃ではないみたいね。やるじゃない」


驚異の察知と反応速度で体を捻られたので威力が軽めになったが、背中から2発分被弾させる。いくつかはリリーさんを通り越えてから跳弾をするように調節してあったのだ。


「じゃあ、これはお返しよ」


こちらに跳ね返した石を、さらに枝で弾く。石が威力に耐えきれなくなり、細かい欠けらとなってこちらを襲ってくる。即座に縮地を行おうとしたが、ここでリリーさんのプレッシャーがさらに強く発揮し、縮地ができなくなった。というより身動きができない。


「うおお!?」


みっともないがどうにか横に倒れ込み、直撃を避ける。僕の後ろにあった木が、あっという間に蜂の巣状態となった。なにあれ怖い。


ザッ、という音とともに僕の目の前に立つリリーさん。倒れ込んでいる僕にはリリーさんの足元しか見えない。


「はい、チェック……と言いたいけれど、駄目ね。さっきので私の武器が壊れちゃったわ。だからあなたの勝ち」


その言葉と共にプレッシャーが解かれる。起き上がると、リリーさんの手元にはちょうど握っていたところだけを残した無残な枝があった。


「敵わないですね、まいりました」


「何言ってるのよ、あなたの勝ちだって」


「戦場でそうはいかないでしょう?倒れ込んだ時点で僕は負けで、捕虜か死です」


「……そう。そう思えるのなら、心構えはまずまずね。明日からはあなた1人じゃないのだから、より強くなりなさいな」


そう言ってリリーさんはこちらに微笑んだ。その顔に、僕は何故かすごく懐かしさを覚えたのであった。

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