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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
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出来ること

「リリーさん、どうか私に雪遁走術を教えて下さい!」


杖作りが終わった翌日の朝一番のこと。よく通るクロムの声で目が覚める。外を見ると雪が降っている。以前から積もっている事もあり、前に話していた発動条件には適している状況と言えるだろう。


「あー、覚えたいって言ってたもんね。でもこれって資質に左右されるし、資質があったとしても、一朝一夕で身につくようなものではないんだけどね」


リリーさんがそう返答をし、それでも教えて欲しいですとすぐさま食い下がるクロム。


「私が、キルヴィ様の足を引っ張るわけにはいけないのです!以前の戦いでは惨敗をしてしまい、危険な橋を渡らせてしまった。アンジュ様の言伝として、使用人として、なにより友として!隣に並んで立ちたいのです」


「……君、見かけはクールに見えるのに話しているのをみると随分と印象が違うな。ああ、なるほど。自分達とキルヴィ君達と似ている環境なのにどうして差ができたのか考えていたけれど、クリーブに足りなかったのは君のような同性の友なのだろうな。いいでしょう、時間はありませんのでちゃんと心するように」


昨日の杖作りで思った以上に疲れていたのだろう。後半にかけてまた意識がまどろみだし、加えて声量も抑えられていったことから聞き取れなくなる。が、MAPを見ると外に向かって移動を始めたことからどうやら、説得に成功したらしい。無事教えてもらえるようだった。頑張って、クロム。


◆◇◆


「キルヴィ様。キルヴィ様。起きてください!」


スズちゃんに揺すられて意識を覚醒させる。しまった、二度寝してすっかり寝過ごしてしまった。


「お休みのところごめんなさいキルヴィ様。私もつい先ほど起きたところなんですけど、お兄ちゃんとリリーさんが居なくなってしまっていて皆が探しているんです。キルヴィ様、見つけれませんか?」


急にいなくなったことに不安に思ったのだろう、ラタン姉やモーリーさんがクロムを呼ぶ声が聞こえる。


「2人なら大丈夫。朝早くから、森の中で特訓してるよ」


身体を起こしながら、そう答える。


「特訓?……あぁ!そういえばあの移動スキルを教えて欲しいってずっと言ってましたもんね」


なーんだ、とスズちゃんは安心して僕のベッドに腰掛ける。その仕草が可愛く見え、つい頭を撫でてしまうとコテン、とこちらに体重を預けてきた。雪が降っているだけあって、人肌はとても温く感じられた。


「ねぇキルヴィ様。イブキさん、助けられないのかな?」


「好きな人を想い続けるのって、悪い事なのかな?確かにイブキさんは方法を間違えたかもしれないけど、同じ立場ならきっと私も」


「助けられるなら、助けたいさ。だってイブキさんだよ?あの、不思議でどこか抜けているのに実はお節介なお姉さんを、助けたくないわけないよ」


でも、考えてしまうのだ。僕の思う救いと、イブキさんの思ってる救いはきっと方向性が違う。イブキさんにとって今が救われているのだとしたら、僕らにとっての最善の方法で救ったつもりでも苦しめることになる。


それならばいっそ、この手で。


「キルヴィ様、辛そうな顔してる。そうですよね、助けるっていっても難しいですよね」


僕のこの葛藤を知ってか知らずか、スズちゃんは頭を撫でていない方の手を握ってそう言う。


「おなかすいちゃった、クロムの無事を報告しないといけないし、皆の所に行こう?」


ネガティヴなままではいけない。話題を変えるためにそう話しかけるとスズちゃんも乗ってくれた。


「はい。この温もりが名残惜しいですけど、モーリーさんたちがかわいそうですからね。あ、服の支度はできてます」


「それは助かるよ。じゃあ、行こうか」


2人仲良く僕の寝室から出た所で、モーリーさんがこちらに向かってきたのでクロムとリリーさんの無事を伝える。


「はぁ……無事でよかったです。相手が怖い存在との事で、謎の力で連れ去られてしまったのではと考えてしまって」


アンデット及び魔法生物は僕のMAPには映らない。移動技があったなら、その可能性はないわけではなかった。もっとも、クロムやリリーさんを誰にも気がつかれずに連れ去ることができるのであれば、とても太刀打ちできない存在ということになるが。


モーリーさんの元に他の人も集ってきて、クロムの無事を共有する。


「主人が主人なら、従者も従者なのです」


ラタン姉からの苦言をまあまあ、とかわす。自分を鍛える努力を怠らないのは良い事だと思うんだけどなぁ。


「まぁ、クロムが無事でよかったのです。となると、今日すべきなのはモーリーの武装ですね。モーリー、何か武具を使ったことはありますですか?」


いつの間にかラタン姉がモーリーさんの事を呼び捨てにしている。知らぬ間に距離が縮まっていたみたいで、仲良くしようという意思が感じられた。それに対してモーリーさんはかぶりを振る。


「いいえ、包丁やフライパンくらいしか、それっぽいものは持ったことないです」


「うーん、となると何を装備していてもらいましょうかね?ひとまずナイフは二本渡しておきますね。キルヴィ、何かいいものありますかね?」


こちらに振ってくる。昨日できたスクロールを広げ、扱いやすいものを見繕ってモーリーさんに差し出すことにした。


「スクロールを数枚渡します。使い方は後で教えますね。後は、盾にできるものもあれば……」


「あ、そういえば私大きな鞄を持ってます。これ、使えますかね?」


そういってモーリーさんが大きな肩掛け鞄を持ってくる。鞄か。一部に鉄板を仕込めば防御力がありそうだ。盾というには心もとない気もしないが、使い慣れているなら咄嗟に動かすことができるかもしれない。鞣し革を使用した丈夫そうな鞄の中には薬の類が多く入っていた。


「結構色んな使用用途の薬が見受けられますが、薬の知識はありますですか?」


「ええ、一通りは応用もすることができます。ちょっとした調合もできますよ?ラタンさんのあの回復魔法に比べたら微々たるものに思えますが」


「そんなことは無いのです!あれは知っての通り負担が大きいですし、薬だと使い方次第では回復魔法よりも即効性があるので、侮れないのです」


調合もできるとなると話が変わってくる。少しだけ魔力を回復させる事ができる薬も作れるそうなので、いざという時に頼ることができそうだ。


「回復薬はアンデットの弱点でもあるので、十分活躍の場がありそうですね」


セラーノさんからの後押し。モーリーさんは自分でもできることがあるのだと少し安心したようだった。


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