共同作業
さて、杖の作成とは言ったものの、魔力を通す回路を作ったりしなくてはならないため単純に魔晶石と骨をくっつけてハイ終わり、というわけにはいかない。僕の素材の味を活かしまくっているような骨棍棒とは訳が違う。
魔力の伝達を補助する芯。魔力の増幅器としての軸。そしてガワの3つの素材があればそこまで時間はかからないとリリーさんは言う。今回の場合軸は魔晶石玉、ガワは飛竜の骨という形になる。
「杖の芯は、差し支えなければ前々から使ってるその杖を使おうか」
リリーさんがスズちゃんの杖を指差す。やはり馴染んでいればいるほど、伝達がスムーズになるという事らしい。スズちゃんは「思い出の品……」と小さく呟いたが、背に腹は変えられないと涙目になりつつも差し出した。
「確かに思い出が詰まってそうだね……よく使い込まれている。いや、使い込まれてすぎていると言ってもいいかもしれない。このまま使っていたら壊れていたかもしれないよ」
受け取った杖をいろいろな角度から見てリリーさんはそう言った。どうやら今の杖はメンテナンスでどうこうなるレベルはとっくに超えていて、寿命も近かったらしい。もし見直そうと思わなかったら、スズちゃんは途中で武器がない状態で戦わなければならなかったかも知れない。
「だからね、スズちゃん。これで生まれ変わらせるんだ。新しい杖の芯となる事で、この杖は生き続けることができるのだから」
「……はい」
これで材料は揃った。それ以外の素材は一旦片付けて机の上にはこの3種類だけが置かれている状態とする。
「で、杖って言ってもどのサイズにする?これまでのは所謂バトンと呼ばれるすごく小型の杖だったけど、これを軸とするわけだからどうしてもそれ以上のサイズのものになるわね」
一概に杖といっても種類があるらしい。バトンよりも少し大きい程度のワンド、僕の棍棒と近い大きさのスタッフ、それよりも大きいメイスが挙げられる。他にはステッキやロッドがあるが、今回のガワである飛竜の骨では長さが足りないらしい。
「使いやすさで言えば、ワンドなら今までと同じ位の間合いと感覚で使えると思うけど、スズちゃんはどうしたい?」
「そうですね……悩みます」
飛竜の骨を手に持って、振ってみせるスズちゃん。僕が使っている棍棒も何回か振らせて欲しいと言われたので渡してあげる。自分にとって扱いにくい武器では、いざとなった時に命取りになる。だからこそ、よく悩まなくてはならない。
「ちょっと重いかも知れないですけど、スタッフのサイズでいきたいです」
散々悩み、スズちゃんは結論を出した。
「一度加工を始めたら後で手直しするのは難しいけど、本当にスタッフで良いんだね?」
リリーさんが念押しするのに対して頷くスズちゃん。じゃあ、とリリーさんはどうやれば良いのかの指示を僕に出した。
「いい?キルヴィ君。この杖を芯にするには、骨にぶっ刺すような力業ではできないわ。そこで、あなたの土属性の魔法が必要になるの」
土属性の魔法を応用させれば、物を柔らかく、他の物体に融和させることができるという。ここにいるメンバーで一番土属性に適性があるのは僕だ。リリーさんからアドバイスを受けつつ、魔法を仕掛ける。む、これは良い魔力の制御の修行になりそうだ。
「まーたキルヴィがなんかくだらない事を考えてますね。修行になりそうだ、とか思ってそうです」
「ああ、あれは間違いなくそう思ってますよ。もう、病気みたいなものですからね」
ラタン姉とクロムが頭の中を見透かしたかのようにそう話している。くそう、オスロのような心聞の技なんか使われてないのに、一緒にいる年月がものをいう。
「こら、手元に集中しなさい。そろそろ丁度いい頃合いじゃないの?」
リリーさんに叱責され慌てて手元を見る。確かに、杖が飛竜の骨に融合し始めたところだった。
「あのまま続けていたらどうなったのですか?」
スズちゃんが気になったらしく、リリーさんに疑問を投げかける。
「両方が融合した後まだ融和させていたら、今度は台にしている机と融合し始めるわよ。机を武器に振り回すのは、流石に私でもあんまり経験ないわ」
経験あるんだ。想像しようとして、あまりの絵面に吹き出しそうになる。いかんいかん、スズちゃんの武器が机にならないように集中しないと。
「ん、いい具合だね。じゃあ今度は軸だけど、これは魔晶石で、いわば魔力の塊だ。さっきよりも難しいよ」
そう言って、何故か僕ではなくスズちゃんに魔晶石を渡すリリーさん。
「加えて、これは杖を使う本人が一緒にやらなければならない。本人が使うなら1人ででもやれるんだけどね。というわけで、協力魔法だ」
「共同作業……!」
戸惑うそぶりを見せていたスズちゃんだったが、協力魔法と言われた途端に目を輝かせた。
「協力魔法よ協・力・魔・法!きょう、までしかしかあってないわよ」
即座にリリーさんが訂正する。
「えへへ、でも共同作業でも間違いではないですよね?」
「そうなんだけど……うーん、悪気がないだけ複雑だわ」
僕と、何故か照れてみせるスズちゃんをなんとも言えない顔で交互に見ながら、リリーさんは頭をガリガリとかいてみせた。
「ぐぬぬぬ、スズだけこういう役回り多い気がするのです」
ラタン姉とも今度何か作ってみたいなぁ、あとが怖いし。
そうしてできた杖は、僕の性質とスズちゃんの性質が混ざった結果として一部がガラス質になった、見ようによっては綺麗とも言えるであろう物になった。大切にします、とスズちゃんは嬉しそうにその杖を振ってみせる。
ゴウッ!
「へっ?」
大きな音とともに放たれる火球が壁を突き破ってすっかり夜になっていた外へと放たれていった。遠くに着弾したのを確認。延焼しそうな場所ではなさそうだ。
「やしきがー!?」
「こりゃ、想像以上の出来だったかもね。傑作なのは保証するけど、制御をちゃんとしないといけないよ?」
瞬時に現れたアンちゃんをこれまた即座に抱きかかえて、リリーさんはため息混じりにそう呟いたのであった。




