再会
今回一部読みにくい部分があります。
「……え?ツムジ君ならもっと小さくてまるで犬みたいにボクの後ろをついて来ていた可愛い男の子なのです。こんなおじさんになんかなったりしませんです。なんですか誰ですかこの商人さんは。何処と無くツムジ君のお父さんに似ている気もしますが血縁者の方ですかね?目元はツムジ君のお母さんに似ている気がしますがそんな髭面な知り合いっていましたかね?いや、何処かで見たことありますですジョンさん!ジョンさんじゃないですか!そうですあの嵐の夏にあった以来ですねジョンさん!17年前たまたま泊まり込んだ村で明日つい婚前交渉でこどもを先に作ってしまった子と結婚するけど自分の畑が気になるからと吹き荒れる嵐の中を軽装で飛び出していったジョンさんですよね。次の日もその次の日も戻らず、実は結婚する予定の子が別に男の人を作っていたためどちらの子かわからないという騒動があったのですよまったく。いったいどうして戻ってこなかったんですかジョンさん。いやわかってるんですよジョンさんーー」
ラタン姉は焦点が合ってない目で商人を見ながら淡々と、主にジョンさんという人物との思い出を語り始める。
「おいおい壊れたぞこのポンコツ姉。あと誰だジョンさんって、その不遇な人と僕を間違えんでください」
「ツムジが成人する前には旅を始めてたってのもあるし、また戻って来た時には今度はあなたが商人になるって出たあとだったからねぇ。何故かラタンがくる時の商売はツムジじゃない時ばかりだったし。あ、煙上げ始めた」
「そりゃくるのがわかってたら僕……いや俺が来ましたよ。でも不定期すぎるんだよなあ。俺だっていつまでも若くないし今では外に家族がいるから忙しいし。……まあ置いておくか」
「そうだね、構うと日が暮れちまうまであるからね。今回欲しいものは多いんだよ」
ガタガタと振動しながら煙を上げてるラタン姉とそれを横目に不定期の帰還について愚痴と商談を始める二人。カオスである。
背景を知らないキルヴィには全くもってなんのことかわからない出来事であった。
◇
「ーーということであなたはツムジ君とは別人なのです!説明終了!」
長々と10分くらいよくわからない理論に飛んだりジョンさんが村の中でどんな風に弄られてたかの話に飛んだりと無茶苦茶な話を組んでいたラタン姉の話が終わる。説明終了のところでやりきった感満載の雰囲気を
まとっていた。
「ポンコツ姉うるさい」
「あう!」
ズバシとすでに真面目な商談に入っていたツムジさんにおでこへチョップが下される。たまらずうずくまるラタン姉にアンジュさんは見向きもしない。大丈夫?と声をかける。泣きついてくるラタン姉。
「ううー、心配してくれるのはキルヴィだけなのです。ボクの味方はキルヴィだけなのです」
「いや、さっきまでのラタン姉はどうかと思う」
「まさかのおいうち!?味方なんていないのです、ぐふぅ……」
少し引いた様子で答えるとラタン姉はショックを受けたような顔をし、大げさな仕草で倒れた。
「おお、あのめんどくさい状態のポンコツ姉を撃退している。アンジュ様あの子は?」
「ああお互いに紹介してなかったね。あの子はキルヴィ、うちで引き取る子にした子だよ。キルヴィ、こちらツムジ。私の所に御用聞きしてくれる商人さ。あと私とそこのおバカな子の……まあ弟分みたいなものかね」
「はじめましてキルヴィ君、ツムジだ」
「こちらこそはじめましてツムジさん。アンジュさんのところでお世話になっているキルヴィです」
紹介されたのでこちらも紹介をしたところ、うんうんとツムジさんは頷く。
「なかなか利発そうな子だ。何か欲しい物があれば相談してくれればいい、力になれると思うよ」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
そうしてまた商談に戻るツムジさん。話しながら屋敷の中へと入っていく。僕もそれについていくことにした。
「うう、救いは……救いはないんですか……」
未だに嘆くラタンだけが外に取り残された。
◇
「ふむ、つまりは春までの日持ちする食糧と子供用の服を5着。それから薪やろうそくなどの日用の消耗品、無地のノートが数冊ってところかな。食費と消耗品は人数が増えたからかさみますよ?」
「わかってるよ、ありがとう。それから冬が明けてからでいいんだけど代わりの住み込みの使用人を探して暮れないかい?」
「本当は冬が来る前に間に合わせたかったけど今国は戦争やってるから……人手があまり見つけれないんだよ」
戦争という言葉に暗くなるアンジュさん。
「……また戦争、か。未経験者でも物分かりがいいなら私が教えるから身寄りのない子供でもいい。どうにかお願いするよ」
「身寄りのない子なら今の時期そこら中に溢れてますから……わかりました、これでも元使用人の倅です。使用人のノウハウを身につけさせてから送りましょう」
「すまないね、無茶をさせて」
「なんの、商人になりたいという夢を追わせてくれたアンジュ様のためなら頑張りますよ」
昔馴染みということでとてもスムーズに商談を終え、3人でくつろぐ。そこにようやく今の今まで嘆いていたラタン姉が戻ってきた。
「みんな酷いのです!置いていかれてボクの心は傷ついたのです」
「どこの誰かも知らない人にされた挙句、本人だって説明しているにもかかわらず別人だって証明しようとされた俺の心はもんのすごーく傷ついたのです」
「うぐっ、こちらの失敗に対してこうもねちねちとした責め方はまさしくツムジ。35年ぶりです、見違えましたよ」
「ああ盛大に間違えてくれたねポンコ……ラタン姉。本当に久しぶり、元気でしたか?」
そこから世間話やラタン姉を2人でいじるという光景が広げられた。とても仲のいい様子で、忘れかけていた周りから取り残された感が心をよぎった。
そのことに胸がチクチクするけれど邪魔をしてはいけないな。そっと立ち上がり、他の部屋に行こうと移動しようとしたその時。
ぽふ。
後ろから頭の上に手が置かれる。そこからグリグリと撫でられながら強く引き寄せられ、抱き抱えられる。
「大丈夫、キルヴィ……見てますから」
ラタン姉だった。見上げると慈しむような微笑みで返される。見渡すとアンジュさんも、そして知り合ったばかりなのにツムジさんも同じような顔だった。
「……うん」
そこからはラタン姉の膝の上で話を聞いたのだった。