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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
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繋がる今

「あれはあえて殴られたってのも、またムカつくのよ」


「殴られたのはあの人なりのケジメのつもりだったのでしょう。保護者とも言える貴方を蔑ろにしてお手つきにしてしまったって」


そんなの余計自分が惨めに思えるわよ、と返す。その時の新築こそ、この屋敷である。その当時もやはり惨めに思えて、なかなかこの屋敷に足を運ぶことはなかった。


「結ばれてからもなかなか子宝に恵まれなくてね、私も思い悩んだものだわ」


エンジュがアンジュちゃんを授かったのは19になってからだったから、それまで辛い日々だった事だろう。


「アンジュが産まれた日、貴方が屋敷に来てくれて、ようやく許されたのだと感じ、私は嬉しかったものよ」


「許すも何も最初からエンジュを恨んでなんかいなかったし、だいたい産まれてくる子に罪はないからね。妊娠したって聞いて、ようやく心の整理が少しはついたって事で」


そこから数回だけ、あいつがいない時にだけ屋敷へと赴き、エンジュとアンジュちゃんに会いに行った。しかし、国境ラインがキナ臭いことになってきた為に各地を視察する必要が出てきた故、私は屋敷に行く時間がなくなってしまった。3歳にも満たなかったアンジュちゃんがスフェンで再開するまで私を覚えていなかったのは無理もない話だろう。


「あはは、すみませんリリーさん。よくしていただいていたのになんだか母の思い出話の中の人って印象が強くて」


今答えているこれはアンジュちゃんか。雰囲気で分からなくはないが全部同じ声だから切り替わりがややこしい。


「いいえ、あなたは悪くないわよ?忙しいとはいえ、それっきり全く行かなかった私が悪いの」


会おうと思えばいつでも会えるのだから。そう思っていた。そうしていつしか8年は経過して、気がつけば将軍位を賜っていた。代表として動くようになり、ますます足が遠のいた。


「アムストル周辺のいざこざを引き受けていた時に相次いで貴方達の訃報を受けたのはこの世の終わりと思ったわ」


エンジュは数年前に発症したらしい病が悪化し、あいつは流行病に倒れ、そのまま帰らぬ人になったのだと顔馴染みの使用人に涙ながらに伝えられた時、酷い虚脱感を得た。心も体も今にも溶け出してしまいそうだった。それでも、私をこの世に繋ぎ止めたのは、かつての戦火の中、私たちが救ってきた、そして部下になってくれた華撃隊第1世代の女の子達だった。


「ああ、これは私、この子達を置いて死んでいられないなって思った。この国にもしものことがあれば、アンジュちゃんにエンジュと同じ戦火に飲まれた世界を見せてしまうかもしれない。この子達も路頭に迷う事になる。それだけは許せなかった」


戦乙女の性質。戦う純潔の乙女を見守る精霊。逆を言えば、女性に争い事へと進んで参加するのを望む、平和とはかけ離れた性質。華撃隊の女性隊員は私のためにその身を戦へと捧げてくれたのだ。


その子達の忠義は、忘れることはない。途中で家庭を持った子はそれはそれで喜ばしい事だと、一抹の寂しさとともに祝ってきた。根本を否定する事になるが、私個人としては苦楽をともにした愛しい子達が血をつなぐのは、自分に子供ができたように感じることができた。


申し訳なさを覚えるのは家庭も持たず純潔のままで華撃隊に一生涯をかけてくれた子が両手で数えきれないほどいた事だ。みな、本当に良い子達だった。


「あなたを残して私達が死んでからも、頑張っていたのね」


エンジュの言葉に、私は首を振る。


「私の頑張りは、綻びだらけよ。そのせいで結局はアンジュちゃんに戦を経験させてしまった。平和な世を作ることは叶わなかった」


今尚、為すことができていない。それどころか多くの問題が浮上してくる始末だ。私がもっとうまくやっていれば、キルヴィ君達の代には戦争をなくすことができたかもしれないとどうしても考えてしまう。


「そうかしら?あの子達、幸せそうに見えない?私は見ていて羨ましいわよ」


キルヴィ君を取り巻く環境は、クリーブの生まれ変わりというのも影響されているのか割と似通っている部分がある。

今代の中でずば抜けた戦闘力を持っているのもそうだが、今度傭兵団を設立すると息巻いていた姿に、遊軍設立の当時を思い出させる。なによりあの子に好意を寄せている精霊のラタンちゃんと、人間のスズちゃんにかつて自分達が選べなかった道を感じずにはいられない。そういう意味では私も羨ましいと感じ、眩しすぎて直視ができない。


「あなたは、キルヴィ君のことどう思っているのかしら」


「んー、アンジュちゃん目線でいくと手はかからないけど凄く心配な我が子って感じかな。私から言うとあの人に似ている孫みたいな感じ。この体だし、間違っても恋愛感情はもてそうにないわね」


想像して吹き出す。やがて大きくなるキルヴィ君と、恐らく数十年はこの幼子のまま過ごすであろうアンちゃんの体で恋人関係とは、いくらなんでもヤバそうな絵面だったからだ。


気がつくと夜明けまでそこまで時間がないほどには、話し込んでいたみたいだった。精霊の体なので、数日寝ない分には問題はないが休みたいと言った手前休息が取れていないのはいかがなものだろうか。


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