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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
182/302

誕生の日

「結構な長丁場ですね……ニニさんは大丈夫なのだろうか」


セラーノさんが難しげな顔でそう呟く。締め出されてから3時間は経過しただろうか?時々物を取りに来るスズちゃんに話を聞くが、まだ生まれてないとの返事だけだった。MAPでも人数は増えていないのだから無駄な質問といえば無駄なのだが、居ても立っても居られないのだ。


「生まれてくるのは男の子なのだろうか?それとも女の子?」


「さあ?1人とも限らないし両方かもしれない。今はともかく母子ともに健康ならそれでいいじゃないか」


僕とクロムの会話も同じことを何度も繰り返している。


異種ライカンスの子どもがどうなるのか。大体の場合はどちらかの親に似た姿となるそうだがごく稀に混ざったような特徴を持つ子が生まれてくるという。また、子にその姿が発現しなくても孫の代で発現することもあるそうだ。ニニさんとトトさんは親は純正の種族だったというのでその心配はないが。


では、ライカンスと人との間はというとモーリーさんがそうであるようにライカンスではあるものの人間味が強い姿となる。仮にクロムとモーリーさんの間に子が生まれたら、ほとんど人と変わらないだろうと思われる。


ライカンスとエルフはというとこれはライカンス同士と同じく、どちらかの親に容姿が似る形となる。母親の方の血が強く出やすいらしい。ライカンス同士と異なるのは混ざった特徴の子は生まれないことか。


子ども、ねぇ。そういえば精霊と人との間に子は出来にくいとの話を聞いたことがある。体の作りがだいぶ違うのだそうだ。ラタン姉を見ててもそんなことは思えないんだけどなぁ。……今はまだ、考えることができないけどこのまま結ばれるのであれば2人との間に子どもは欲しいなぁ。


と、ここでラタン姉に動きがあった。こちらにまっすぐ向かってくる。まだニニさんは頑張っているみたいだが持ち場を離れて大丈夫なのだろうか?顔が見えるところまでくるとなんとも言えないような困った顔をしていた。


「あの、キルヴィ?ボクも慌ててて失念してましたけど、あなたならスフェンまで問題なく短時間でいけますよね?」


「あ」


そういえばそうだと気まずそうな視線が僕に集まる。転移ならば外が悪天候だろうが距離があろうが関係ないのだ。連続使用で往復したとして、MAPが使えなくなったとしても半日クールタイムを挟めばまた飛べるわけだし今火急の用はない。


「難産してるので事情説明してヒカタさん、連れてきてくださいなのです」


「すぐ戻るから!」


ヒカタさんならナギさんの出産にも立ち会っているだろう。自身も2度の経験があるので心強い味方で、性格からして快諾してくれるだろうし。僕はすぐさま身支度をしてスフェンまで飛んだのであった。


◆◇◆


「ほら、元気な女の子ですよ?この子は……あらあら、珍しい!両親の特徴を両方とも引き継いでいる子よ」


力強く産声を上げる新たな命。指導できる人が加わっただけで先ほどまでの長丁場が嘘のように手早く済んでしまった。さすが経験者は強い。


ヒカタさんを連れてきた後は立ち会いを許可(というよりもトトさんが男1人だとすごく居づらいと泣き言を言った為だが)され、部屋の隅から出産を見届けた。ニニさんが物凄い汗だくでいきむ姿にとてもハラハラした。


僕以上に落ち着きがなかったのはカシスさんで、せわしなく部屋の中を歩き回っては「大丈夫、私がいるからな」とニニさんに声をかけたり、無事に生まれるように祈祷してみせたり平常運転なのか混乱しているのか判断に悩ましかった。


「ニニー、よく頑張ってくれたね。ありがとう、俺の子を産んでくれて、ありがとう」


無事に生まれたのだという安心感を得たのか、トトさんは感極まったという感じでニニさんのことをガバッと抱きしめる。


「えへへ。トトさん、泣いてるのー?ほぉら、あなたのお父さんってすっごく泣き虫なんだよー?」


自身も体力を消耗しているであろうに、すごく優しい目つきでそんなトトさんを抱擁するニニさん。ヒカタさんの手の中にいる我が子に向かってトトさんの紹介をしている。その様子にヒカタさんはひとつ頷いて、ニニさんにそっと赤ちゃんを手渡した。


「うん、母子ともに健康みたいね?ただ、今は気を張っているのもあるだろうから産後の肥立ちは良いかちゃんと確認してた方がいいわ」


「はい、ヒカタさん。ありがとうございます」


スズちゃんが返事をする。


「あなた達もいずれは経験することになるのだから、今日は良い勉強になったでしょう?」


そう言うと、未婚の女性連中は赤く染まった頬に手を当ててそれぞれ思い思いに未来を想像したようだった。そんな中でカシスさんだけは、何か思うところがあったのか苦笑いをしたように思えたが。


「あはは、まだまだ先ですけれどね……でも、赤ちゃんかぁ。大変だけど、でもニニさんとても幸せそう」


スズちゃんはそう呟きながらこちらを見る目は熱っぽく感じた。思わずこちらまで頬が熱くなってくる。


「あらあら、皆さんとても若くて初々しいわね。キルヴィ君、これからとても大変になるかもしれないわねぇ?」


確かに大変かもしれないけれど、そんな幸せにあふれた大変さならきっと皆で笑って乗り越えていけるだろう。赤ちゃんの声を聞きつけ、居ても立っても居られなくなったのかクロム達もやってきた。


その日はとても賑やかな夜となったのだった。

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