平穏な日々?
屋敷に戻ってはや1週間。クロムはモーリーさんを被写体にして写真撮影を楽しんでいた。ラタン姉やスズちゃん、そしてカシスさんが悪ノリしてモーリーさんを着せ替え人形にして遊んでいる。
「はっはっは、平和だねぇ。これで外が猛吹雪でなければ思い思いに過ごせたんだがね」
適当なところに椅子を置いて、肩肘ついてその様子を遠巻きに見ているとセラーノさんが話しかけてくる。その発言の通り今外は凄い勢いで雪が降りつけており、窓から見える景色はホワイトアウトのそれだ。僕もMAPがなければ遭難しそうである。
「今日は屋内で過ごす他ないですね。備蓄は問題ないのでいいですが何日続くのやら」
「あるじー、おうちひめいあげてるー」
セラーノさんととりとめもない会話をしているとアンちゃんが不安になったようでトテトテと寄ってくる。ここまで凄い吹雪は僕の記憶にはない。
「うーん、補強に回ったほうがいいんだろうか。アンちゃん、一番負荷かかっている所はわかる?」
「かしこまりーなの」
誰だ変な返しを教えたのは。……脳裏にラタン姉がピースしたのが浮かんできた。十中八九今うちにいるメンバーでそんなことをするのは彼女しかいないだろう。
それはともかくとして、アンちゃんを小脇に抱えて案内してもらう。指示のもと連れていかれた先は屋根裏であった。流石に外に近いこともあり、すごく冷え込んでいてミシミシと嫌な音も時たま聞こえてきている。これは早めに対処しなければやばかっただろう。
「ついたけど、どうすれば良い?」
「んっとね。ほかはともかくいまからゆびさすところがもろいの。つくりかえて!」
指差ししたところを見るとなるほど、石材の箇所だ。治すよりも作り変えてしまったほうが効率も良いのだろう。指で何箇所か差した後、もう覚えたでしょとばかりにアンちゃんは自分が治せる箇所に当たった。
ふむ。まずMAP機能でこの屋根裏部屋に焦点を絞って拡大。それから指差ししたところをマーキング。障害物設置で手頃な石材を選択し再現。やってみると部分的な作り変えというのは結構細かい仕事で、なおかつ立体的な設置だ。一から作るよりもかえって難しいし良い修行となりそうだった。
試しに設置。重心がややズレて近くの柱もろとも崩れ落ちる。屋根と天井に穴が開く失敗。再設置で屋根修復。
「あるじ、こわさないで!」
アンちゃんが天井に空いた穴を塞ぎながら涙目で叱ってくる。しまった、仕事を増やしてしまったか。
落ち着こう。罠設置と考えれば細かい仕事はやり慣れてるじゃないか。いつも通り巻物とスクロールを取り出して対処すれば問題ない。立体的な設置だって冷静にやればできる筈だ。
そういえば、閉じ込める系の罠なら壁や柱が自動生成されるな。試しに設置して起動させてみようか。
ドガガガッ!
「ふぇぇ!?」
「あ」
抜けた天井の修復を終え、上の方で作業していたアンちゃんを中心としてどんどん壁と柱が生成されていき、囲っていく。あっという間に堅牢な密封空間が屋根裏にできた。
「だしてー、だしてー!」
中からガンガンとアンちゃんが叩くがビクともしない。ミシミシ音もしなくなったし、心なしか寒さも通さなくなった気がする。頑丈さは問題なさそうだ。
「とはいえこのままではメンテナンス時に困るな。扉の生成」
部分的に罠解除を行い中の空間に入るための扉を作る。ガチャリとドアを開けるとアンちゃんが赤く腫れた手を抱えてボロボロと涙を流していた。こちらを見て脱力し、ぺたりと座り込む。
「あるじ、アンになにかうらみでもある?あのね、わるいとこあるならなおすから、いじめないで」
完全に僕が悪いのにここまで言わせてしまい、凄い罪悪感に襲われる。償えるだけのお菓子は僕の分としてあっただろうか?この際ラタン姉とスズちゃんにもお願いして分けてもらわないと足りない気がする。
ぐすぐすと泣いているアンちゃんを連れて下に降りるとセラーノさんとカシスさんが会話しているところに出くわした。
「どうしましたかなキルヴィさん。上で何かありましたか?」
「先程から上が騒がしいと思っていたが少年と幼女が上で何かしていたのか……ん?少年と、幼女。そして騒がしさと涙。出してとも言っていたように聞こえたな。となるとふむふむふむ。少年、おいたをしたのか?おいたを、してしまったというのか!?姐さんと少女という両手に花では物足りなく、手を出してしまったというのか!?くっ、見損なったぞ少年!」
「おい」
「だがしかし少年よ、その気持ちわかるぞ!痛いほどよくわかる!幼女、特にこの子には神秘性が感じられるからつい手を出してしまったのだよな?だがなぁこれだけは言っておく!イエスロリータノータッチ!なにがあろうともこれは守らねばならない真理なのだ」
「「おい」」
「して、いかなプレイだったのかそこのところ詳しく。無理矢理はどんびきだぞ?無知シチュか、はたまた実はリードはアンちゃんなのか。個人的には無知シチュ推しだな!手探りで快楽に身を任せて……」
突如として暴走したカシスさんの頭を後ろからガシリと鷲掴みにする手。振り返ろうとするも、両脇もそれぞれ固められて動けなくされる。
「な、なぁ少……キルヴィ君?私の後ろには誰がいるか教えて下さいませんか?」
ガタガタと震えながら絞り出された弱々しい声。僕は教えてあげることにした。
「察しはついてるだろうけど、頭を掴んでるのはグミさんで、両サイドはラタン姉とスズちゃんだね」
「一体いつから」
「途中声かけてたのに進行していったからね、ほとんどずっと聞いてたよ」
気がつけばセラーノさんは僕の後ろに立っていて身を縮こませていた。アンちゃんも僕の足をギュッと掴んで震えている。よほど恐ろしい何かが見えているみたいだった。
「あの、待って。無言は怖い!せめて何か話して!」
そのままずるずるとスズちゃんが近くの部屋に引きずり込もうとするのを見ていると、いつかのヒカタさんがあの姉妹をお仕置きする時の技を盗んだように見えた。無言の圧力に耐えきれずカシスさんがそう声を上げると、「ギルティ」と短く返される。
「あ、キルヴィ?理由はどうあれまたアンを泣かすにあたって何があったのか、あなたにも聞きますのでちゃんと言い訳考えておいてくださいね?」
部屋に入る間際そう残したラタン姉の言葉と笑ってない目線に今度は僕が身を震わせたのだった。
 




