勉強と商人の訪問
今回は世界観の説明回です
屋敷についてから気づけば5日が経っていた。その間、アンジュさんからは字と計算と料理を、ラタン姉からは外の世界のことを教えてもらった。
ラタン姉曰く、静寂の森というこの森の外にも広大な土地が広がっておりあちらこちらに村や町という、集落よりも規模の大きい群れが存在するという。それらの群れをまとめ上げる国というものが5つほど存在し、ここはその中の1つ、ルベスト人民共和国という国の代表格が複数存在する国の領地だそうだ。他の国はいずれも王という首領がその一族でもって国を納めているらしい。
広大な土地の外側には海と言う塩辛い水たまりが広がっているといい、時間や季節によって拡がったり縮んだりを繰り返しているそうだ。人々はそこに船というものを浮かべ行き来をするという。海より外の世界はあるともないとも言われている。
世界標準暦というものが存在し、今はベルスト暦580年10月らしい。一年は十二ヶ月であり、一月は二十六日のまとまりだという。空に浮かぶ月は小さく赤いほうがルミア、大きく青いほうがナリエといい、遥か昔から地上を見守っている存在だがだいたい二月に一度、ナリエの方がルミアを隠してしまうそうだ。理由はよくわかっていない。
外の世界では物を得るのに物々交換が主流ではなく、お金による交換が一般的だという。お金、これはメ族でも大人達が父の族長にわたしていたところを見ることがあった。ラタン姉曰くそれはおそらく徴税というらしい。お金には種類があり、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨の順で価値があるという。鉄貨1枚で果物ひとつ分らしく、一つ上の貨幣は下の貨幣50枚と同等の扱いだという。
世界には色々な種族の生物が住んでいるのだという。
例えば魔物。この森で見かける魔物は動物から変化したような獣タイプが多いがスライムというような粘液のような不定形タイプのもの、ゴブリンのような怪人タイプという人型のもの、死者の魂や骨、肉だけで成るアンデットタイプのもの、その他植物タイプのもの、鉱石タイプのものなどいるらしい。
格別にヤバイと呼ばれているのはドラゴンタイプと呼ばれている魔物らしく、強力なブレス攻撃を筆頭に一般人ならまず千人集まろうが太刀打ちできない強さを持つ生き物のようだ。
ただ意思疎通がある程度可能なため一部の人々は人間の一種と数えてもいいのではないかといっている。
人間といえば、アンジュのような特に特徴がないタイプは数が多く、そのまま人と呼ばれることが多いが、メ族を含む特徴的な個性を持ちあわせている人のことを亜人と呼ぶらしい。
耳がすごく長く、自分の好きな季節で一族を作るというエルフ。彼らは季節を連想させる髪の色をしているらしく、赤い系統の色をした秋のエルフが一番勢力を持っているとされている。
二足歩行で歩く獣のような外観をしたライカンス。多種多様な姿をしているが基本的に力こそ正義の考えでほとんどの人が強いものこそ正しいと思っているそうだ。悲しいことに魔物に間違われることもしばしばある。
基本人前に姿を表せないがいつも身近にいる存在の我らが精霊族。特に、体が小さくすばしっこい妖精と呼ばれるものはいたずら大好きで他の種族を困らせることが多い。
人から派生し、進化したものだと考えている自分たちのことを優れし者と呼ぶアードナー。ワン族もしくはドワーフと呼ばれる手先が器用で職人気質の血族を除けば多種族との間に壁があり、正体は実体不明。時々流れの冒険者でアードナーがいたと確認されるが気がつけばいなくなっていたということもよくある種族。
この5種族がこの土地の住人らしい。ちなみに共和国のここは各種族それぞれ一名、代表が必ず選ばれているそうだ。
「まあボクの知ってるのはこんなところですかね?どうです、世界は広いのですよ」
「ありがとうラタン姉。まだ覚えきれてないけどまだまだ知らないことがいっぱいあるんだね!」
「んふふ、まだまだ先は長いのです。この屋敷には図書室があります。早く字を覚えればもっと世界を広げることができますよ」
「そうだねぇ、どこかの誰かさんは性に合わないからってなかなか近寄らなかった図書室には本っていう色々な知識をまとめたものがたくさんあるんだよ。易しい内容のもあるからそのうち機会があれば一緒に見ようねキルヴィや」
アンジュのいうところの誰かさんはぐぬぬとアンジュを睨んでいる。バレバレである。
そこで僕は草原方向から屋敷に向かってくる点がいくつかあることに気がついた。そのことをアンジュさんに伝える。
「商人がやっと来たんだろう。ラタンや、多分お前さんも知っている奴さ」
アンジュさんがラタン姉にそう伝えると、
「うん?いったい誰でしょうね」
と考え込み始めた。
「はいはい、答え合わせのためにもお出迎えに行くよ。すぐわかるだろうから」
勉強していた部屋から出て門の前まで移動する。風はすでに肌寒く、もし自分がここにいなかったらどうなっていただろうと別の可能性とその結末が頭によぎる。下手をすれば今頃すでに冷たくなっていただろう。しばらくして馬車を率いた、帽子を被った壮年の男が現れた。この人が商人なのだろう。
「これはこれは、珍しい。この屋敷に今人がいるのも珍しければ出迎えまであるなんて思ってなかったですよアンジュ様」
そういって帽子をとり挨拶をする商人。見回し、ラタン姉を認めるとしばらく見つめる。それでもラタン姉が困った顔をしているのを見て、急に笑い始めた。
「帰って来てたんですねラタン様。わからないですかね?いや、わかんないのラタン姉?ここの元使用人の子供、ツムジだよ」
「もう一人の幼馴染といってもいいのにひどい子だねぇラタンは」
「いやはや全くですねアンジュさん」
ツムジと名乗った商人は、アンジュさんと目を合わしいたずらが成功したかのように笑いあっていた。