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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
179/302

写真

「おいおいモーリーちゃん以外の女性陣が人前に出しちゃ行けない顔してるが……何があったんだいキルヴィ君」


集合場所のツムジさんの家門前、出迎えてくれたツムジさんの言葉に苦笑いで返す。正直な話、それは僕も知りたい。3人で店に入った後時間いっぱいまで語り通していたのだ。しばらく待ちぼうけをくらい、近くをぶらぶらしてからもう約束の時間が近いと呼びに行くと、出てきた3人は完全に疲れ切っていた。曰く、乙女の秘密だからキルヴィには話せませんとラタン姉。どうやら案内よりも優先されるべき内容らしかった。


「対してモーリーちゃんは幸せそうな顔をしてる……クロム、うまいこと案内できたようだな」


「はい、キルヴィ様のおかげで滞りなく」


一方でクロムとモーリーさんはあの後しっかりとスフェン案内を堪能できた様でなによりだった。事の経過を報告するとクロムは「力になれずに済まない」と目に見えて落ち込みそうだったので、気にしないでと努めて明るく返す。


「まあここだと冷え込むから中に来なさい。さて、今期の本格的な冬が来る前の訪問はこれが最後となるだろう。流石にもう余剰食料を持つ人もいないだろうし、冬季の移動は大変だからな……キルヴィ君の移動法が普及すれば少なくとも後者はなんとでもなるんだがなぁ」


「そんなにポンポンといてもらったら困りますよ」


軽口を交えながらツムジさんの言葉に甘えて、家に上げてもらう。昼下がりから夕方にかけての、少し日が傾いてきただけで身が震えるほどの寒さになってきた。このことを考えると、本格的な冬はすぐそこだ。一度雪が降れば、一面の雪景色になるのも時間の問題だと思う。これで来春まではほぼほぼ物流が止まってしまうか。


家に入るとヒカタさんがすぐに暖かいお茶を入れて来てくれた。香りを楽しみながら暖を取らせていただく。安らぎのひととき。ツムジさんが何か思い出したとばかりに切り出す。


「そういえばクロム、今でもカメラは使っているかい?」


「ええ、頻度こそ落ちましたけど綺麗な景色や忘れたくないものを見る度に写真として残しています。今も持ってますよ?」


そう言って、少しくたびれたカメラを手荷物から取り出す。クロムの数少ない趣味だ。時々写真を見せてもらいながら、この頃はどうだあの頃はこうだと思い出話に花を咲かせる。ツムジさんはカメラを受け取るとまじまじと色々な角度からカメラを眺める。


「こりゃあげた身としては冥利につきるな。だいぶ使い込んでる。最前線で戦ってきたのもあるだろうが傷も結構ついてしまっている。今手元に最新型のがあるが、使うか?」


「えっ、新型!?す、すごく気になります!見せて下さい!」


品定めをしたツムジさんの言葉に、クロムは目を輝かせる。よほど興奮しているのかまたしても素が表に出てしまっているのを見て、モーリーさんが「まるで子供みたいですね」と笑う。


ツムジさんは笑いながら少しの間奥に引っ込んだかと思うと、すぐに小箱を持って戻ってきた。


「こいつがそうだ。聞いて驚くなよ、なんと色がついてるんだ!」


「色がですか!?すごい、今まで白黒の濃淡でしか表せなかった物が色まで残せるなんて革命的だ!」


「まだまだ!この通り軽量化、小型化に成功した挙句ここ!ここ見てくれ。この魔石が記録媒体になっていてな?魔力インクと上質な紙を使えばいつでも何枚でも写真化することができる」


魔力インクか。そういえば手持ち少なくなっているから分けてもらえるようであれば欲しいな。紙に関しては普通の人にとってはややコストは高いだろうが、僕の無限巻物があれば困ることもないだろう。


「カメラ自体はアムストルでも流通してましたけど、カラーカメラですか。なかなか高価で希少な物の筈ですが、いつ入手されたのです?」


クロムが新型カメラに夢中になっている間に女性陣が復活してきた。グミさんがツムジさんに尋ねるとツムジさんはちょっとだけ気まずそうに頭をかいた後「そのアムストルで」と答える。


「前回行った時に運良く並んでいたもので、これは買いだなと。多分買った記念だって感じで道行く人の写真を撮ったみたいなんですがね」


そう言って数枚の写真を見せてくれた。そこには紛れもなくイブキさんとウル兄さんが写っていた。


「これ……」


「ん?キルヴィ君、知り合いでも写っていたかい?……ああこれか。ちょっと外見が異なるけど雰囲気がうちのナギにそっくりだろ?知らないかもしれないがその隣はアンジュ様の旦那様にそっくりなんだ。思わず撮ってしまったよ」


残念ながら、ツムジさんはこの写真を見てもイブキさんと認識することができないみたいであった。それはスズちゃん達も同じみたいで「ホントだ、ナギさんによく似てますね」とまじまじと見ている。ラタン姉だけ、「んー?」と、何か引っかかるような顔をしていた。


「おっと、雪まで降ってきたみたいですよ。キルヴィ君なら問題ないでしょうけど貴方……」


「そうだな、名残惜しいけども。何か聞いておいたほうがいいことはあるかい?」


ヒカタさんが外の天候を伝えてくれ、良い時間だからもう帰ったほうがと伝えられる。先ほど話して来たグリムについての取り決めを二、三伝えると、ツムジさんは優しい目をしながら手を差し出して来る。


「アムストルの件もあるしこの所ゴタゴタ続きだっただろう?冬の間だけでもゆっくり休むといい。良い冬を、キルヴィ君。また春先に会おう」


差し出された手をがっしりと掴み、握手する。大きく、頼り甲斐のあるこの手に一体何度救われたことか。


「ツムジさん達こそ、良い冬を。それではまた来春に」


固い握手を交わして僕達は屋敷まで帰るのであった。

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