在り方
縮地して町に散らばる赤い点がある場所をしらみつぶしに回る。アイツとのやりとりをしている間にクロムとあの巨漢が接触してしまっていたのが悔やまれるが、クロム達は無傷、巨漢の方も腕と武器が使い物にならなくなった程度なら被害最小限と言えるだろう。
一人、また一人と背後に忍び寄り、意識を刈り取る。そうして路地裏へと一纏めにした後、水魔法で気付けを行う。何事かと目を覚ましていく中、今になって巨漢が手の怪我を思い出したかのように呻く。
「やあ皆さんお久しぶりです。本日はお日柄もよく、謀にはうってつけの日ですね。うっかり手が滑ってしまって凶事になってしまうのも仕方がない、訳はないですが」
おどけた言葉で視線が僕に集まる。それは幾許かの戸惑いと畏怖、恐れ、怒りが入り混じった物だった。
「どうしてこの面子でここに集められているか、という説明はしなくても良いでしょう。あぁ、別にとって食おうって訳じゃないんです。行動に移す前の人はそのまま何もしないなら五体満足、痛い思いはしないですみますよ」
「俺ァどうだってんだ!テメェの腰巾着に斬られてんだぞオイィ!」
「いやそれは自業自得ですよね?ややこしくなるのでしばらく黙っていて下さい」
そう言って水魔法を使い遮蔽幕で包む。音が遮られようやく静かな場になったところで僕に対して不満があるというのなら春先からグリムから脱退してもいいという話をすると、場はざわつきを見せた。
「もう僕は貴方達にはなんの見返りも求めません。しかし、これ以上の援助もしません。いやいや従われて今後の活動に支障が出る問題を起こされるよりは、ここで脱退する事を勧めます」
「それだけだとうまい話に思えるが、脱退に伴いなんらかのペナルティはあるのか?」
「ペナルティと感じるかはわかりませんが、袂を別つわけですから基本的にグリムへの再加入は認めません。来春幾らかのお金を渡したらもう本当に縁切りです。仕事を真面目に探さないと次の冬は厳しいんじゃないですかね?」
「まあそれはわかるか。仕方あるまいが納得するよ」
どの立場からの口がそんなことを言うのかと出かかったがめんどくさい事になるので堪える。納得しているならそれでいい。
「あぁ、それと次に僕達になんらかの危害を与えようと企てあろうことか実行するようならば、保護の期間中だろうが命の保証はしませんからね?そこのソイツはとりあえずラドンさんに引き渡しますが」
暫しの沈黙の後、「善処しよう」との返事。いやいや、そこ善処なのか。ここまで無抵抗に集められているにも関わらず、まだ舐められてるようだ。いっそのことここで壊滅させてしまった方が後腐れなく終えるだろうか?……おさえて、おさえて。
彼らにだけ説明するのは不公平に感じたため、引き連れたままグリムの宿所に訪問する。途中ラタン姉達と合流し、スズちゃんが呼びに行ってくれていたらしいラドンさんに今回の実行犯2人を引き渡す。ラドンさんは心底呆れたような顔をして2人を一瞥し、こちらに深々と頭を下げた。
宿所に着くと、ヨッカさん達代表が他のグリムメンバーにさっきの会談で決まった事を説明している場面であった。そこにゾロゾロと引き連れて僕達が入って来たものだからなんだなんだと騒がしくなる。
「ど、どうしましたのキルヴィ様方。後ろの面々が何か粗相でも?」
「あぁ、説明中すみませんヨッカさん、ダイナーさん、チェルノさん。ちょっと場を借りても?」
もちろんです、とこの場の主導権を渡される。彼らを私刑から守る為に襲撃が行われた事をぼかしつつ、この人達のように僕についてこれないという人がいたら、実力行使などせずに話し合いの元でグリムから永久脱退という条件と多少の補償金の支払いを行うと説明を行う。
「とんでもねぇ、俺達にだって誇りはあるんだぜ?誰が拾ってくれたキルヴィさんに弓なんか引けるかよ」
ダイナーさんの言葉に、ここにいた敵対心のないグリムメンバーは頷いて見せていた。だが、いつまで続ければいいのかわからないという理由でできればどこかのタイミングで離れたいという人もちらほらと見受けられた。
「得物からして私の台詞ですねダイナー。まぁでも、その通りです。しかし質問してもよろしいでしょうか?私達も人間ですから、この冬を超えた後の生活基盤がグリムからズレていくこともあると思います。女性隊員の場合は結婚して妊娠、出産とかもあります。彼らも永久脱退扱いですか?」
ふむ、そう考えるとここ限りの話でもないか。先程のちらほらの中からこくこくと頷く女性もいる。
例に挙げられた女性隊員で考えると、臨月になったと仮定したら戦闘は論外。巡廻はおろか、普通の仕事するのも大変になっていくだろう。そういった場合職務が果たせない訳だ。
「ここのメンバーは身寄りのないものが多いでしょう?続ける意志があるのであれば育児期間中は休隊扱いか後方支援に回ってもらおうかと」
「は……?し、しかしキルヴィさんよ、子供育てるのだって大変なんだぜ?生活するのに金も必要だ、他の仕事をするかも知れん」
戸惑った顔でダイナーさんが問うてくる。
「んー、子供が増えるのは喜ばしい事だし、休隊扱いとはいえちゃんと給金は出すつもりだよ?」
「それは助かりますが……それはキルヴィ様にどんな得があるんですか?」
続けてチェルノさん。
「うん?人の確保ですかね。それに勝るものはないですし。なんなら育児休暇は男性にもつけてもいいですよ、クロムやハドソン君達みたいな戦争孤児増やすのは僕としてもやりたくはないですから」
まぁ後のは建前の部分もある。戦争孤児は低コストなので集めやすいし、理念を教育しやすい。もちろん口には出さないが。
結局、最後まで僕の話を聞いても抜けたいという人はいた。やはり残ると考え直してくれただけありがたいが。敵意を持ってた人達の中にも残りたいと言った人がいたが、さっきの仕返しに善処すると返すと苦々しい顔をしていた。
仕方がないか、信用と実績がないのだ。そんなうまい話がと感じるのも正しいと思う。コツコツといこう。
さぁ、懸念していたことは済んだし、案内の続きだ。