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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
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不満の声

「それで、貴方はグリムメンバーだったと思うんですけど。一体全体僕達に何の御用件で?」


起き上がれないように壁際へと更に蹴り転がし、徐々に体重をかけるように胸の上へと足を置く。


「いてててて!いきなり通行人に襲いかかってくるなんて何様だよあんたらは!それにグリムって何の話だ!」


おや、襲いかかってきたのは自分の方なのにしらばっくれるんだ。


「第二射に備えて同じナイフを懐に通したままなのによくもまぁそんなことが言えますね?」


それに、僕がグリムメンバー全体の名前や姿を把握していないとでも思っているのだろうか?嫌みったらしくこの人の名前を呼んであげると、身体がこわばるのが足越しに伝わった。


「今日はさ、僕達にとってもグリムにとっても、それはそれは有意義な取り決めができた日なんだ。それを貴方は、いったいどんな立場で、如何なる理由でケチをつけようと言うのかな?」


威圧しながらそう尋ねる。しかし、緊張感が一周してしまったのだろうか?その言葉によってどうやら開き直ってしまったようだった。


「はっ!グリムって言ったところでそれは全体の意思じゃねえ、お前に媚を売ろうって連中だけだろうが!」


まさかのこの言葉である。MAPで快く思えていない人数の把握はできるが、面と向かって拒絶される言葉を言われると来るものがある。そこまで嫌われるようなことをした覚えはない。


「はぁ、まさか傭兵が雇い主相手にこんな態度とってくるなんて。こちらに落ち度らしい落ち度はないはずなのにそれを赦してしまおうというキルヴィのお人好しにも困ったものですね。腕の治療、どうしましょうか」


グミさんとの会話の興を削がれたラタン姉が二人を連れて不機嫌そうにやってくる。その視線は冷たく、悪臭を放っているゴミでも見るかのような目だった。さっさと治せと一層勝手なことを喚くので蹴って黙らせる。


「冒険の傍で傭兵稼業もやっていたセラーノさんにはプロ意識がありましたから、比べるのも失礼な話なのです。こんなのはただのゴロツキですね。堂々と町の中にいる分そこら辺の野盗よりもタチが悪いのです」


溜息がてら、自己完結する。


「今の落ち度で思ったんだけど、こんなことをしてくるってことは不満があるからなんだろう?何が不満なんだか、僕にわかるように話をしてくれないかな?」


曰く、子どもが仕切るのが目障りだと。


曰く、戦場に女がいるのが目障りだと。


曰く、俺達は好きで戦争に巻き込まれていったわけでもないのに、もはや戦いしかできないということ。


曰く、正規兵は非正規のくせにと傭兵を見下しているのが気に食わないと。


曰く、故郷を焼かれ家族も失い、それでも国は補償してくれず僅かな金をよこして知らんぷりだと。


曰く、仕事がなくなって困っていたのに助けてくれなかった人々を守らねばならないなど納得できないと。


曰く、戦争がなくならなければもっと上手くやれた、こんなことにはならなかったと。


ほとんどは、グリムや僕がどうというよりは今の生活、至るまでの過程全てが不満であるという内容だった。そして、それは全部合わせると矛盾も孕む内容となり、外部からではどうやっても切り崩せない、手をつけることができない不満になってしまっていた。


「子供や女と見くびり乏しめ、それでも貴方達に手を伸ばしても、貴方達はこうやってはねのける。なら、力のある人はどうすれば貴方達を救えるのですか?」


グミさんがそう尋ねるのは、彼になのか、彼に重なったアムストルの人々になのか。しかし返ってきた答えは


「知るかよ。そんなの、お前達の方がよく知ってるんじゃないのかよ」


本当に取りつく島もなかった。実際に対面して話してみれば、実は上手く行くのではと思っていたけれど。彼個人だけでなく、他の敵対者もこの調子だというのであればわかりあうことができるとは到底思えなかった。


「キルヴィさん。組織を動かすというのは少なからずこういう不満との衝突があるということです。どうしますか?今なら彼等に冬越えの物資を施しただけという損切りで済みますが」


グミさんが聞いてくる。きれいごとだけでは語れない、それでもグリムのリーダーとなりたいのかちゃんと自分で悩めと言っているのだ。


「……スズちゃん、回復してあげて。ラタン姉は変な事をしないか念のため取り押さえておいて」


抑えつける役をラタン姉に代わってもらう。残りの赤い点の位置を把握しておきたい。クロム達の邪魔をされる前に話し合いでかたをつけていきたい。


「わかった。貴重な意見をありがとう。回復したら戻っていいから」


「はっ、自分から痛めつけておいてお優しいことで。それでどうするつもりなんだよグリムのお・さ・ど・の?」


彼の鼻先の石畳に太い棍棒が直立した。僕が投擲した物だ。直撃させたら頭は完全に弾け飛んでいたであろう。その威力に男はひっ、と息を呑む。


「勘違いするなよ?ラタン姉達に害を加えようとしたのを赦したわけじゃない。僕に従いたくないというならそれでも構わない。先に行った言葉も取り消したりはしない、春までの面倒は見てやる。そこから先は少し金を持たせてやるから好きにしろ、もう君達はグリムに属さなくてもいいから」


全てを救おうにも実力がまだ足りない。この人達の心を捉えることができなかったのなら今手元にあるものをこぼさないようにしなければならない。それが僕が出した決断だった。


泣くのはこれっきり、か。名前の通りにするのにまだまだ先は長い。

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