紹介2
「ええと、モーリーさんでしたっけ。キルヴィ様との繋がりは?」
どう質問したものかとグリムの面々は頭を悩ませていたが、口火を切ってくれたのはヨッカさんだった。
「その、クロムさんと恋仲でして。今日も町の案内をしてもらえると連れてきてもらったつもりが、グリムの人たちとの顔合わせまで連れてこられた次第です」
クロムの腕を引きつつ、やや恨めしげにこちらを見るモーリーさん。そういえば町に行きたいとは言っていたけど顔合わせについてくるとは言ってなかったな。クロムに半ば隠れるような姿勢でのモーリーさんの発言に対して、ヨッカさんはなぜかぎりりと歯軋りをした。
「キルヴィ様に確認ですが、彼女もグリムとしての仲間ですの?」
「もちろん。モーリーさんもれっきとした僕の仲間だよ」
僕の言葉にモーリーさんはプレッシャーを感じたのかさらに縮こまった。クロムがやや険のある目でこちらを見てくるが、気にしない。
「ありがとうございます。モーリーさん、町娘とおっしゃいましたがどんな暮らしをしていましたの?」
続けてヨッカさんが尋ねてくる。
「母の手伝いで裁縫や小売店での販売をしていました。料理もできますが、恥ずかしながらクロムさんには敵わない腕でして」
モーリーさんは素朴ながら味のある、美味しいご飯を作ってくれる。海鮮系が多いのは海に面していたアムストル出身だからというのもあるだろう。
「なんというか、本当に普通の子だなあ」
いくつかの質問に対し、モーリーさんの答えを聞き終えた段階でそう言うと、グリムの人たちはどこかホッとしたような表情になった。
「ここまでの面々の紹介から、こんな超人集団と共に行動しないといけないのかと内心戦々恐々していたが、そこまで身構えないでも良さそうで安心したよ」
「いやですね、僕だってただの一般人ですよ?」
おどけた様子でそう答えると全方向から「それはない」と突っ込まれた。解せぬ。
場が和んだところで、ここにはいないがセラーノさん達についてもある程度の説明をこなし、今度は代表として立候補もしくは選ばれた面々の紹介に移った。
「私はヨッカ。元々は商人の家の生まれでしたが父はこの町の攻防戦の時に義勇兵となり戦死。意志を継ぐ形で義勇兵となりましたの。義勇兵時代は主に兵站管理を行っており、戦闘経験はあまりありません。回復魔法は多少は行えますが攻撃魔法は使えません」
教養があると思ったら商人の出だったのか。聞くとナギさんとも面識はあるみたいで自分の方が少し年上らしい。知人の知人だからと言う訳ではないが、自分がヨッカさんの父親を助けられなかったのが惜しい。
「兵站は軍の要です。戦が始まったらお願いしたいですね。ヨッカさんは読み書きもできますし待機中の子供組の指揮や教育を行って貰いたいです。もちろん別途料金で」
兵站管理。僕がいる限りは進軍時の物資の停滞はまずないと思うが、僕が離れている時には重要なポジションだ。経験がものをいうだろう。
「承りましたわ。では、指示が通りやすいようにこの冬の期間中、子供達に教育も試みてみます」
スタート地点が前倒しになるのは助かる。やはりヨッカさんを選んだのは間違いじゃなかったと思う。
「次は俺だな。ダイナーだ、見ての通りのドワーフだがよろしく頼む。斧一筋、武一辺倒でやってきたから、戦い以外はてんでできん。これは鍛冶も含めてだ。俺にゃ才能っちゅうもんがないと言われた。目利きみたいな事は出来なくもないが、期待せんでくれ」
ダイナーさんは種族柄やや小柄ではあったが、そうと思わせないほどがっしりとした体系であり、体のいたるところに向かい傷の跡が残っていた。武一辺倒と言うが賢さの数値も高いので、臨機応変な戦闘が見込めそうだった。
「争い事があるときは頼りにしますね、ダイナーさん。普段の役割としてはこの近辺の治安維持としてパトロールをお願いします」
「おうともよ。野盗にゃ俺もなりかけていた部分もあるから同情もするが、人様に迷惑をかけちゃなんねえよな」
「私が最後ですね。チェルノと言いますのでよしなに。得物は見ての通りの弓で、騎馬しながらでも矢を放てます。あ、私も文字は読み書きできます」
チェルノさんは細身の男性だ。騎射ができる人は本当に少ない。弓も今では高額とはいえ流通してきた銃に取って代わられそうだが、銃とは違い発射音が小さく奇襲に向いていそうだ。それに読み書きできる人が一人でも多いのは指示を出すのが楽になる。
「チェルノさんも、普段はパトロール任務をお願いすることになると思います。馬に乗れるのであればグリム全体の伝令役も任せることがあるかもしれませんがよろしくお願いします」
「わかりました。私もヨッカさんと共に子供に読み書きを教えても?」
「お願いします。大人でも希望者には教えてあげて欲しいですね」
うむ、穏やかな雰囲気のまま会談を終えることができた。軽く取り決めを書面にまとめ、各々で頷く。これで万々歳……だが、グリムメンバーの筈の名前で赤い点が町の中をうろついているようだ。物騒だから気をつけるようにとそれとなく促し、解散する流れとなった。