対面
ぐぬぬ、1周年を迎えたタイミングで何かやりたかったです(手遅れ)
「スフェンの町で驚いたのは、ほとんど不在であるのにもかかわらず領主が役職者……町長を任命していない事ですね。それでいて破綻していない町づくりができているとは、こうして目にしていても信じることがなかなかできません」
町中なので縮地は控え、歩きでグリムとの待ち合わせ場所に向かっている間にそんな話をグミさんがしてきた。確かに、代表となる人物といえば商人のツムジさんと兵長のラドンさんの2人があがるが、町の運営に携わっているわけではない。そういった面ではスフェンもまた、特殊な町なのかもしれない。集合場所の前まで移動すると、ヨッカさんがこちらに気がついた。
「キルヴィ様、お待ちしておりましたわ。改めて感謝を」
「今日はよろしくお願いしますヨッカさん。それでは早速、ハドソン君達と顔合わせを済ませたいのですがもう大丈夫ですか?」
「ええ、子供達には全員に集まってもらってます。皆もキルヴィ様に会えることを心待ちにしておりました。ところで、後ろにおられるのは……」
「それも含めて、あとで話しましょう。簡単に言うなら頼れる仲間達ですね」
そこで会話を切ると、大人組のお互いのメンバーは軽く会釈しあう。子供組はというと、ハドソン君はこちらの様子を伺い、話しかけるタイミングを待っているみたいだった。それならばこちらから話しかけてみるか。
「はじめまして、僕はキルヴィ。この度グリムを設立するにあたって、君たちの力を貸してもらいたいんだ」
そう行って手を差し出す。
「……ハドソン。僕はハドソンです、長」
ハドソン君は僕の手を取ろうか迷ったようで、幾分か彷徨わせたあと敬礼の姿勢をとった。それを見ていた後ろの子達(ハドソン君含めて9人)もハドソン君に倣い同じ姿勢をとる。木でできた人形を引きずっているような年端のいかない5歳くらいの女の子までもがやってのけたのだから驚いた。……スズちゃんがうんうんと頷いているのが視界の端にうつり、そう言えばこの子も5歳で色々とやっていたなと思い出し、思わず苦笑してしまう。それに対してハドソン君は一体どうしたのかと首を傾げた。
「いやいや、気にしなくてもいいよ。昔を思い出しただけ。とりあえず敬礼はやめてもっと気楽に行こうよ、僕達は歳も近いんだし仲良くやりたい」
「いや……いいのでしょうか?なんというか長の後ろで頭を抱えてる人がいるみたいですが」
敬礼はといてくれたが、後ろを心配そうに覗き込むハドソン君。振り返るとクロムが難しい顔をしていた。どうしてかと意見をするよう促してみる。
「キルヴィ様、ある程度はわきまえてもらわねば他のメンバーの指示が通りにくくなってしまい、なんのために組織の中で代表を決めたのかわからなくなってしまいます。統率のためにも、考え直した方が良いかと」
むむむ、指示が通らないのはまずい。いや、しかしまずは仲を深めておきたいとも思う。
「でしたら、交代制のキルヴィ様の付き人としてみては?近くで暮らせば距離は縮まりますし、立場もわきまえるでしょう」
どうしたものかと悩んでいたらスズちゃんがこんな提案をしてきた。自身の経験も併せ持っての言葉なのだろう。ふむ、人数的に考えるならば。
「それはいい考えかもしれない。ただしクロム、スズ。2人にも付き人をつける形で、だ。まぁ、詳しくは冬を乗り越えてからでもいいだろう。今回は立場のことは考えずに行こう」
僕の使用人という名目でありながら、実質補佐である2人にも、補佐は必要だろう。3人ずつあてがい、合わないようなら他の補佐と入れ替えるやり方でいこう。クロムは何か言いたそうであったが、飲み込んだようだった。
「ええと、わかりました。これからよろしくお願いします、キルヴィ、さん?」
うん、長呼びよりは前進したと思う。ツムジさんのところで用意しておいてもらったお菓子をハドソン君に渡す。
「さて、子供達との顔合わせが済んだところで代表の寄り合いに移りましょうか。ハドソン君、退屈な話になると思うから、これを向こうで皆に分け合っておいて」
子供達がわっとハドソン君の元に駆け寄る。ハドソン君は自分も寄り合いに参加したいと言いたかったみたいだったがお菓子の誘惑に勝てなかったのだろう、みんなを引き連れて奥に引っ込んで行った。……意欲が続くようなら、今度は参加させてあげようかな。